第4章 「ふげん」機器の試作開発

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用圧力管購入により具体的に進展し始めていたので、それに基づいて説明資料を作成して審議された。
 昭和46(1971)年4月から、通産省において圧力管の研究開発計画の検討が開始されたが、脆性破壊評価法を巡っての議論が続いた上に、設置許可変更申請の提出やカランドリア管の外圧設計基準の訂正による肉厚変更問題等により審議が一時中断し、昭和48(1973)年1月になって改めて審議が再開された。その後、クリープを許容する設計思想を圧力管高温設計指針としてまとめ、小グループの専門家による中立委員会で検討することになった。
 このため、圧力管材料強度検討会(主査・三島良績東大教授、11名の委員)が構成され、昭和48年6月から12月までの8回にわたる審議で、材料の許容応力及び設計疲労曲線の決め方、疲労とクリープの重畳効果、許容クリープひずみ、不安定破壊評価法などについて徹底した検討がなされ、多くの議論と修正を重ねて圧力管設計指針及び不安定破壊評価法が了承された。なお、これを受けて申請した圧力管集合体の工事計画は、昭和49(1974)年6月に認可を得た。
 設計指針の中でクリープについては、許容応力強さの決定因子として引張り強さと降伏強さに加えてクリープ破断強度を基準として採用し、また使用温度でのクリープ速度が大きいこと、及び第3次クリープ開始時点のひずみ量が、その時点でのデータでは正確に把握し得ないことを考慮し、全寿命期間中における内圧クリープによる膜ひずみ量に制限値を規定した。この制限値を決定するにあたり、カナダのクリープ破断に関する最新データを入手し、これをベースに検討評価して、Zr−2.5%Nb熱処理材の第3次クリープを起こすひずみ量は5%以上であると報告した。一方、「ふげん」の運転開始後30年の最大クリープひずみ量はRoss−Rossの式から2.3%と予測されたので、制限値を暫定的に2.5 %とし、運転開始後の圧力管モニタリングの一環として圧力管内径測定によりクリープひずみ量の評価を継続実施することにした。

4.1.4 脆性破壊評価手法に関する研究開発の成果
 不安定破壊は、圧力容器に発生した欠陥が、繰返し応力サイクルを受けてき裂となって成長し、これがある長さにまで進展したときに、圧力容器が、何の前触れもなく突然大破断に至る現象で、
 

特に脆性材料で問題になるが、延性材料でも、条件がそろえば起る。鋼製圧力容器の脆性破壊防止の考え方は、容器にき裂ができても、その伝播が阻止されるような温度で容器を使用するという考え方である。鉄鋼材料では、き裂の進展阻止から進展に変化する脆性破壊遷移温度(NDTT)と材料の衝撃値との間の関係が明らかにされており、したがって圧力容器の最低使用温度と材料の衝撃値を規定することによって、不安定破壊を起こさない設計と使用条件を決めることができる。
 ジルコニウム合金は、異方性が強いこともあって、衝撃値は試験片の採取方向、素管の製造履歴などによってバラツキが大きい。このため、遷移温度が、鉄鋼材料のように明瞭に現われず、上記のような判断基準は採用できない。そこで、圧力管が、単純な形状の直管であるところから、線型破壊力学の考え方を導入して評価するのが妥当であると考えた。すなわち、破壊力学における破壊条件

  K≧Kc

において、破壊靭性値Kcを人工き裂をつけた圧力管の破壊試験データから求め、仮想したき裂に対する応力拡大係数Kを計算から求めて、不安定破壊の可能性の有無を評価する方法である。Kc値は、材料固有の定数で、合金組成、熱処理条件、加工度などによって変化し、使用温度が高くなるほど大きな値になり、水素吸収量の増加に伴い低下する。この値が大きいほど不安定破壊が起きにくい。Kc値と限界き裂長さ(CCL)の間には、試験片の形状を適切に選ぶことによって相関関係をつけることができる。
 破壊力学の適用性を確認し、圧力管の不安定破壊に対する判定基準を策定するために、次の試験を行った。
(1)応力レベル、温度、水素吸収量をパラメータにしてKc値またはCCLを求めること。
(2)繰返し応力によるき裂進展速度を求めること。
(3)限界き裂長さに達する前に必ず漏洩が起こること(これはleak before breakと呼ばれている)を確認すること。
 このため、3種類の試験片、すなわち圧力管から切り出した長さ約50cmの管内圧試験体、圧力管を輪切りにしたリング引張り試験片及び圧力管の円周方向から短冊状に採取した切欠き3点曲げ試験片(図4.1.2、 図4.1.3、写真4.1.1)を用いて膨大な数の破壊試験を実施した。



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