第4章 「ふげん」機器の試作開発

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(4)Zr−2.5 wt% Nb熱処理材の引張り強さは、冷間加工材の1.2倍で、炉内クリープ速度は熱処理材のほうが大きい。
 これらの知見から、Zr−2.5%Nb熱処理材は、機械強度が高いので圧力管の肉厚を薄くでき、中性子経済が良くなるが、脆性破壊の観点からの健全性確保が一層重要になることが認識された。また、原子炉寿命期間中の全クリープひずみ量、すなわち圧力管直径の最大拡大量には、燃料冷却に対する制約条件やクリープ破断に対する余裕などから、一定の制限値を設けなければならないことも認識された。
 こういう状況を踏まえて、第1次概念設計幹事会社の(株)日立製作所とも協議の上、クリープ及び脆性破壊問題は設計上対応することとし、Zr−2.5% Nb熱処理材で設計を進めることにした。
 圧力管と延長部の接合技術については、当時はジルコニウム合金とステンレス鋼の信頼性のある溶接が困難であったことから、ボルトによる結合、管拡げ、摩擦接合、爆着などの方法が提案・検討された。昭和42年(1967)5月に英国機械学会の主催で開催されたSGHWRシンポジウムの論文集に、SGHWR圧力管集合体の開発過程が詳しく紹介されており、ロールドジョイント法という接合方法が採用されていた。さらに接合部の健全性実証のために行った確証試験についても記述があり、我々の開発計画立案に参考になった。

4.1.2 情報購入と圧力管設計方針及び材料試験計画の策定
 昭和42、43年当時、圧力管型の重水炉を運転し、大規模な建設計画を進めていたのはカナダであり、重水減速加圧重水冷却型(CANDU−PHW)の他に、「ふげん」と同型の重水減速沸騰軽水冷却炉CANDU−BLW・Gentilly−1を持つGentilly原子力発電所がモントリオールの北東セントローレンス河畔に建設中であった。この炉に関する情報購入の見通しが得られたので、「ふげん」の開発に要する時間と経費を節約するために最小限の必要項目について情報を購入することとし、カナダ原子力公社(AECL)との間でGentilly−1に関する情報購入契約を結んだ。
 購入された資料は、昭和44(1969)年1月に到着し、直ちに関係者による内容の検討と把握のための作業が開始された。圧力管集合体に関して入手した技術情報の大部分は、圧力管材料に関する各種の研
 

究報告書であり、この他に、圧力管と延長部の接合法(ロールドジョイント)の研究開発報告書及び日本側から強く要請した圧力管購入仕様書も含まれていた。中でも非公開資料として取り扱いに限定を受けたGentilly−1の圧力管集合体設計に関する技術資料は、圧力管の設計手法、設計に使用された材料強度及び腐食等のデータ、ジルコニウム合金の諸特性の比較など、「ふげん」の設計を進める上で極めて有用な情報が含まれていた。なお、後年「ふげん」の圧力管モニタリングのクリープ予測値として採用したRoss−Rossの式も、文献の中に示されていた。 
 カナダから入手した資料を調査検討して、高温機械強度、耐食性、水素吸収量、中性子経済、ロールドジョイント加工性、材料購入仕様の有無などの見地から、「ふげん」の圧力管にはZr−2.5%Nb熱処理材を採用する方針を決めた。あわせて圧力管材料の各種材料試験及び脆性特性試験に関する計画を策定した。また、圧力管モニタリングの構想もこの段階で計画された。
 研究開発計画の策定作業とともに、第2次概念設計への取り込みが行われた。この段階での圧力管の設計は、カナダのGentilly−1圧力管設計手法にならってASME Code Sectionに基づく強度設計を行い、脆性破壊評価手法もカナダと同じく限界き裂長さ(critical crack length:CCL)を評価することで健全性を確認することにした。

4.1.3 圧力管設計方針及び脆性破壊評価手法についての審議
 昭和44(1969)年7月にATR構造・材料合同専門委員会が開催され、Zr−Nb材全般の説明と圧力管脆性破壊研究計画の説明が行われた。席上、一委員から、「引張り強さと降伏点が近い材料は、一般に不安定破壊にとって悪い方向にある。Zr−Nb材が不安定破壊をしないという証拠が必要で、このためには、これに合格すれば使用してもよいという合格基準を作らなければならない」との見解が示され、脆性破壊評価法として、Kc値(破壊靱性)を材料定数とする破壊力学の考え方が示された。すなわち、Zr−Nb圧力管は、延性材料の圧力容器材料と異なり、脆性材料であるということを認識した上で圧力容器として取扱うべきであるという論旨であった。
 昭和45(1970)年3月から始まった安全審査では、圧力管については、基本的にこれまでの設計方針を踏襲し、材料試験計画が昭和43、44、45年度の試験



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