第1章 「ふげん」プロジェクト総論

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たが、電気事業者や日本原子力発電(株)、電源開発(株)などの協力の下、工事は初期の計画どおり進捗し、昭和52年には機器の振付が完了、その間、合理化のため原子炉再循環系ループ数の削減など、炉心にかかわる大きな設計変更を行ったが、上述した試験施設の活用や重要機器の国産化を図っていたことにより短期間で対応でき、工事計画に影響を与えなかったことも自主開発の成果として特筆できるものである。続く総合系統機能試験とプラント起動試験においては、プラントを構成する機器やコンポーネントなどの基本性能と各系統全般にわたる機能の確認、原子炉の核特性試験やプラント動特性試験、初送電を含む出力上昇試験などが綿密な計画の下実施され、得られた結果は設計値や試験施設でのデータ、予測解析などと比較検討されその十分な妥当性が確認された。ここに、「ふげん」は発電プラントとして安定した定格出力運転が可能なことが証明され、国内の工業技術レベルの高さが示されると同時に、実質的に初の国産動力炉の誕生となった。特に、昭和53 (1978)年7月29日に初送電が達成された瞬間は、我が国が希求し総力を結集した工業技術の夢がみごとに結実した瞬間であった。
 昭和54(1979)年3月20日、「ふげん」は国の総合負荷検査に合格、以降24年間の運転において、総発電電力量約220億kWh、平均設備利用率約62%の実績を残した。燃料経済の観点からほぼ年2回の燃料交換を行う6か月運転サイクルを採用したため、この数字は1年運転を基本サイクルとする同世代の商用軽水炉に比しても何ら遜色はなく、原型炉としては世界に類のない実績である。
 「ふげん」のATR型炉の核燃料サイクルにかかわる成果については前述したとおりであるが、発電プラントとしての技術的成立性はこの安定運転の実績が物語っている。圧力管型重水炉固有の設計の本質に起因する不具合を経験することもなく、供用期間中の17回に及ぶ定期検査もすべて国内の技術によって行われ、プラントを構成する機器コンポーネントの保守データや経年化データを蓄積しつつ保守管理・分解点検手法を確立するとともに、国産機器の長期信頼性を実証した。
 もちろん、「ふげん」も幾多のいろいろなトラブルを経験したが、その原因究明や再発防止対策には自主開発で蓄積された知見や経験あるいは大型試験施設を利用した再現試験や検証により早期の対応が可能であった。これも自主開発の大きな効用である
といえる。
 このように安定運転の継続に努める一方、自主開発の理念は進取のチャレンジ精神としてプラント運転管理技術の高度化においても受け継がれ、超音波やテレビカメラを駆使した圧力管検査装置の開発、減速材である重水の精製(濃縮)装置開発による重水リサイクル技術とトリチウム被ばく対策の確立など、「ふげん」に続く実証炉、更には実用炉も念頭においたATR固有の技術開発に発揮された。さらに、ステンレス鋼の応力腐食割れ対策として取り組んだ水素注入技術、被ばく低減対策の最終解決としての系統化学除染と亜鉛注入技術の組合せなど、原子力プラント共通の課題に対しても、自ら試験しデータを採り、自ら評価、検証しながらひとつ一つ、問題を克服し技術を確立してきた。これらの開発には実規模試験施設や国内メーカーと一体となって取り組み、得られた成果は実証的かつ信頼度の高い技術として高い評価を受け、商用軽水炉への適用へも波及している。
 また「ふげん」では、今では当たり前となっている計算機の活用においても、運転開始より取り組んできており、近年のハード及びソフトウェアの技術進展もあいまって、高度な計算機システムの開発、導入を積極的に図ってきた。これらは、従来困難とされていた運転員や保守員のノウハウをシステム化することを可能とし、熟練運転員に匹敵する原子炉給水系のファジィ制御、保守の省力化や信頼性向上を図る運転保守管理システム、プラントの異索早期発見やプラント挙動の解析に威力を発揮するプラントデータ収集システムなどとして結実している。
 さらに、「ふげん」プロジェクトによる原子力の安全性向上への世界的貢献も見逃すことはできない。原子力史上最悪となったチェルノブイリ事故は、原子力安全の確保は一国内だけではなく世界的責務であることを示した。核燃料サイクル開発機構(当時、動力炉・核燃料開発事業団)が実施した事故時のプラント挙動の解析評価1)・2)が事故原因の究明へ大きな貢献となったのをはじめ、その後のIAEAを中心としたチェルノブイリ型炉(RBMK炉)の安全性向上への技術的協力や安全性の国際基準化への支援、ロシア及びリトアニアとの2国間協力など、我が国独自の技術による支援として世界的にも評価される成果を挙げてきた。これらは、RBMK炉と同じ圧力管型炉であるATR開発や「ふげん」運転管理のために開発された技術はもちろんのこと、「ふげん」


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