財団法人 高輝度光科学研究センター/国立大学法人 東北大学/独立行政法人日本原子力研究開発機構
財団法人 高輝度光科学研究センター
国立大学法人 東北大学
独立行政法人日本原子力研究開発機構

高温超伝導を引き起こす電子状態の可視化に初めて成功
−「高温超伝導体の仕組み」の解明に指針−

高輝度光科学研究センター(以下「JASRI」、理事長 白川哲久)、東北大学(総長 井上明久)、日本原子力研究開発機構(理事長 鈴木篤之)は、大型放射光施設SPring-8(※1)の高輝度・高エネルギー放射光X線を用いて、銅酸化物高温超伝導体において高温超伝導を引き起こす電子状態の可視化に世界で初めて成功しました。

超伝導は、物質を冷やしたときにある温度(超伝導転移温度)で電気抵抗がなくなる自然現象です。銅酸化物高温超伝導体の発見以前、最も高い超伝導転移温度を有する超伝導体は金属元素を主成分とする合金系超伝導体のNb3Ge(超伝導転移温度:23K(ケルビン)(※2))でした。

銅酸化物高温超伝導体は、電流を通さない絶縁体である銅酸化物から一部の電子を取り去った物質として1986年に発見され、従来の合金系超伝導体より高い超伝導転移温度を示すため高温超伝導体と呼ばれています。現在の最高超伝導転移温度は135K(ケルビン)ですが、より高い温度で超伝導になる新物質(最終的には室温で超伝導になる室温超伝導体)の開発により、MRIなどの医療機器の高性能化、次世代リニアモーターカーや大電力貯蔵といった技術の実用化につながります。しかし、銅酸化物高温超伝導体には、取り去った電子の量に対する超伝導転移温度の変化の様子など未解決な物理が多数あり、「高温超伝導の仕組み」はまだ分かっていません。

今回、本研究グループは、SPring-8の高輝度・高エネルギーX線を用いた「高分解能コンプトン散乱(※3)」と呼ばれる測定手法により、高温超伝導において重要な役割を果たす“電子を取り去った後にできた孔(ホール(※4))“の運動量分布(※5)を可視化することに世界で初めて成功しました。本研究の成果は、室温超伝導体の材料設計において不可欠な「高温超伝導の仕組み」を解明するうえで、ひとつの試金石になると期待されます。

今回の研究成果は、JASRIの櫻井吉晴 副主席研究員、伊藤真義 副主幹研究員、東北大学の山田和芳 教授、藤田全基 准教授、日本原子力研究開発機構の脇本秀一 副主任研究員をはじめ、ノースイースタン大学、パリ中央学院など海外の4大学との共同研究によるもので、2011年4月28日(米国東部時間)に米国科学誌 Science のオンライン版 Science Express に掲載されます。

以上


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