補足説明

《掲載論文》

題名:Universal magnetic structure of the half-magnetization phase in Cr-based spinels(Crスピネルにおける半磁化状態の統一的な磁気構造)

著者:M. Matsuda, K. Ohoyama, S. Yoshii, H. Nojiri, P. Frings, F. Duc, B. Vignolle, G.L.J.A. Rikken, L.-P. Regnault, S.-H. Lee, H. Ueda, and Y. Ueda

ジャーナル名:Physical Review Letters (米国物理学会発行学術雑誌)、Vol.104

発行日:1月22日

《研究背景》

クロム(Cr)の酸化物であるスピネルというフラストレート磁性体のことをクロムスピネルといいます。クロムスピネルACr2O4 (A:非磁性元素)では正四面体の頂点にスピンが存在し、さらにこの正四面体が三次元的ネットワーク(パイロクロア格子)を構成しています。この構造に起因してクロムスピン間の相互作用に強いフラストレーションが存在します。ゼロ磁場の低温で磁気秩序が観測されますが、複雑な相互作用のために物質依存性が見られます。

また、ACr2O4では磁場中で磁化が一定になるプラトー現象が広い磁場領域で観測されており、強いスピン-格子相互作用に起因すると注目を集めています。約10テスラでプラトー相を示すHgCr2O4においては、プラトー相での磁気構造が明らかになっていますが、これがゼロ磁場同様に物質依存性を持つのか注目されていました。次の候補物質であるCdCr2O4では、プラトー相での研究のために約28テスラ以上の超強磁場が必要ですが、これまでの超伝導マグネットの定常磁場を用いた手法(磁場の上限値が約17テスラ)では不可能でした。

《研究内容と成果》

今回、30テスラまでの超強磁場中でスピネル磁性体CdCr2O4の実験を行い、幾つかのブラッグ反射(*4)強度の磁場依存性を測定しました(図3)。その結果、磁化プラトー相における磁気構造が明らかになりました(図4)。今回の実験により、この磁気構造がACr2O4の磁化プラトー相において普遍的な構造であることが明らかになりました。このことは、数多くの可能な磁気整列状態の中から、物質によらないただ一つの状態が選択されていることを意味します。これはスピンと格子の自由度が協調することにより、一つの安定な状態を作り出しているものと考えられます。このような普遍的な現象を見出したことにより、フラストレート磁性体におけるスピン−格子相関の機構に対する理解が大きく進むことが期待されます。

《今後の展開》

今回の実験は、スピンの大きさが3/2(最小単位の3倍)、結晶質量が約40ミリグラムという弱い回折強度しか期待出来ない厳しい条件で行われています。30テスラまでの強磁場中性子回折法がこの厳しい条件下で成功したことにより、これまで実験が出来なかった非常に広範囲の磁性体において磁場中のミクロ磁気状態が明らかになると期待されます。これは、磁性と誘電性をもつ新材料の開発や、磁気ナノ粒子の解析などへの応用をはじめとして、様々な新しい磁気デバイス材料の開発に大きな威力を発揮すると考えられます。


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