011 金属内の挙動 超高速観察
掲載日:2023年1月31日
溶接欠陥 捉える
X線適用
金属は光を通さないため、ガラスや液体のように中を見ることができない。けれども物質にX線や中性子を照射すると、物質を構成する元素や密度の違いから、透過するX線や中性子の強度に差が生じ、その差をカメラで捉えることができる。エックス線写真や空港の荷物検査は、この仕組みを応用したものだ。なお原子力機構はこの技術を「検査」にではなく、「溶接」に適用する技術開発を行っている。
溶接とは複数の部材の接合部に熱や圧力を加えて溶かし、つなぎ合わせるものだ。放電を利用したアーク溶接や光を利用したレーザー溶接などのさまざまな方法がある。さらには異種金属へのレーザーコーティングや3D積層造形にも応用されている。
この溶接には「空隙などの欠陥」、「金属間化合物の発生」、「残留応力」といった課題がつきまとう。これは原子炉機器での懸案課題でもある。これを解決するためには、溶接中の金属材料内部の様子を直接観察することが前提となる。
ミリ秒単位測定
原子力機構ではSPring-8の高エネルギーX線と、それを可視光に変換する高速カメラシステムを組み合わせて、1000分の1秒(ミリ秒)単位で金属材料内部の動画を測定する技術を開発している。
この技術を利用してレーザーコーティング中の金属内部の様子を観察したところ、鉄鋼材料表面にレーザーで溶かされた銅粉が厚さ0.2ミリメートルの膜となってコートされている様子をつぶさに見ることができた。
その際に鉄鋼材料との界面付近から空隙が発生し、それが膜内部に閉じ込められる現象も確認できた。
一方、溶接時には接合部の金属が溶けてたまる「溶融池」ができ、その中では対流が起こる。それを観察するために、そこに「トレーサー粒子」を混ぜて観察した結果、対流の動きもカメラで捉えることができた。
難問解決 期待
私たちはこれらの結果をもとに溶接池の対流速度や溶接中の温度分布、さらには溶接後の凝固過程における温度分布を調べることで、内部欠陥や残留応力が発生するメカニズムのさらなる解明を目指している。これが実現すれば、溶接時の「難問」解決にもつながる。
物質の挙動を超高速度で捉えてメカニズムを解明するこれらの技術は、新たな材料や加工技術の開発に飛躍的な発展をもたらす可能性を秘める。