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特集

小型モジュール炉(SMR)開発の動向と原子力機構における新型炉開発の取組(2022.09.09掲載)

本特集では、近年国内外で注目を集める小型モジュール炉(SMR)の開発動向を解説するとともに、原子力機構におけるSMRを含む新型炉開発に係る取組を紹介し、新型炉の国内導入に向けた今後を展望しました。

1.はじめに

地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出量を削減する「脱炭素化」が世界的に取り組まれる中、日本は2050年カーボンニュートラルの達成と再生可能エネルギーの主力電源化を目標として掲げている1,2。原子力については、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源としての位置付けで、安全性の確保を大前提に必要な規模を持続的に活⽤する1とされている一方、その最大限の活用に向けて、より高い安全性、高レベル放射性廃棄物の減容化等による環境循環性、天候等によって発電量が変動する再生可能エネルギーの導入拡大を支えることができる機動性、産業への熱や水素の供給をはじめとする多様な利用価値の追求が求められている3

本稿では、原子力に対する上記の要請を満足する可能性のある原子力システムとして、近年国内外で注目を集める小型モジュール炉(SMR: Small Modular Reactor)の開発動向を解説するとともに、原子力機構におけるSMRを含む新型炉開発に係る取組を紹介し、おわりにSMRを含む新型炉の国内導入に向けた今後の展望を述べる。

2.SMRに期待される特長と課題

SMRは、従来の電気出力1,000 MW級大型原子炉に比べ、1基あたりの電気出力が概ね300 MW以下の原子炉であり、主に以下に示す特長を有することが期待されている4,5

①安全性

「小型で低出力」であることを活かし、事故時に原子炉が「自然に止まる」、「自然に冷える」といった固有・受動の安全性が高まる。また、これにより、安全系設備の簡素化・系統数削減が可能となり、故障や人為的ミスによるリスクの低減や建設・保守コストの削減が可能になる。

②工場生産性

工場でのユニット(モジュール)製造、トラック等による運搬、建設地での据え付け・組み立てを行うことで、品質の維持・向上、工期の短縮及び建設コストの削減が見込める。

③柔軟性

送電網が未発達な地域にその土地の電力需要に応じた原子炉を設置できる。また、蓄熱設備等の熱利用設備との併設により機動的な電気出力制御が可能になり、再生可能エネルギーの出力変動を調整する脱炭素電源となることに加え、水素製造プラント及び産業や地域への熱供給源としても利用できる。

SMRは安全性向上や立地・運転・利用に関する柔軟性等の社会ニーズに対応できる可能性のある有望な選択肢として期待される一方で、その多くは開発の途上段階にあり、SMRの社会実装を実現するためには、期待される特長を持つことを実証する必要がある。また、非軽水炉型のSMRについては、既存の軽水炉と炉型が異なるため、安全基準の確立も重要な課題である。さらに、SMRは小型であるが故に、大型原子炉に比べ1基あたりに得られる収益が少ない傾向がある。SMRの普及に向けた課題として、いわゆるスケールメリットを生むために、多数基の導入が見込める大きな市場の必要性が指摘されている6

3.主要国におけるSMRの開発動向

「脱炭素化」に対する機運及びSMRへの期待の高まりを受け、米国、カナダ、英国等を中心に、各国で開発及び導入検討が積極的に行われている。世界各国で開発・導入検討が進む主なSMR(一般的なSMRよりもさらに出力が小さいマイクロ炉を含む)を図1に示す。本章では、主要国における最近の政策及び導入検討状況を解説する。

世界各国で開発・導入検討が進む主なSMR

図1 世界各国で開発・導入検討が進む主なSMR

3.1海外主要国の動向※詳細はコチラをご覧ください。

米国

米国における最近の主なSMR開発は、エネルギー省(Department of Energy: DOE)が2020年5月に開始した「新型炉実証プログラム(Advanced Reactor Demonstration Program: ARDP)」を基軸に進められている。ARDPは米国企業が取り組む新型炉開発プロジェクトに対して資金援助を行う官民の連携プログラムであり、その狙いは米国の新型炉開発を加速させることで、主要な原子力インフラ及びサプライチェーンが失われる前に市場機会を捉えることとされる8

ARDPには、技術の成熟度に応じて、1 5~7年以内に実証(建設・運転)可能な新型炉実証、2 将来の実証リスク低減を目的とした技術・運転・規制課題解決、3 2030年代半ばに実用化が期待される革新的新型炉概念の3つのカテゴリーがある。これらのうち一つ目の実証炉カテゴリーの支援対象として、2020年10月、TerraPower社のナトリウム冷却高速炉「Natrium」とX-Energy社のぺブルベッド型高温ガス炉「Xe-100」が選定され、それぞれに対し8,000万ドルが初期支援金として交付されることが発表された。また、2020年12月には、他の2つのカテゴリーについても支援対象プロジェクトが選定され、商業化に向けて技術面や運転面、規制面での課題解決が求められている新型炉及び開発の比較的初期段階にある革新的概念に対する支援の拡大が図られている。

SMRの実証を目的とした支援に加え、2012年から5年間にわたり行われたSMR許認可申請支援プログラム(Licensing Technical Support: LTS)も注目すべき政策と言える。LTSは、米国内の先進的なSMR設計の認証、認可及び立地を加速するため、許認可対応に要する費用をDOEが分担するもので、2014年にはNuScale Power社が開発する加圧水型SMR(現在、NuScale Power Module(NPM)と称される)が支援先として選定され、SMRとして初となる設計認証申請を米国原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission: NRC)に行うに至っている9。同社は、現在、ユタ州都市電力公社(Utah Associated Municipal Power Systems: UAMPS)との提携の下、アイダホ国立研究所の敷地内にNPMを設置し、2029年の運転開始を目指している。NPMは、2020年9月、NRCから標準設計承認を発行された米国初のSMR設計となっている。

カナダ

カナダでは、北部遠隔地域でのエネルギー源として、SMRの適合性がクローズアップされる中、同国の連邦政府は2018年11月にSMRロードマップ10、2020年12月にはSMRアクションプラン11を公表し、ステークホルダーを交えたSMR導入への道筋を提示した。拡大が予想される世界のSMR市場を見据え、雇用、知的財産権及びサプライチェーンの国内定着を図るとともに、開発政策面においても世界のリーダー的立場を確保することがその狙いとされる。また、地域開発の機会が開拓され、主なエネルギー問題への取組について北部コミュニティや先住民との建設的な協議を行うことにも繋がるとしている。

連邦政府レベルでの政策に加え、オンタリオ州、ニュー・ブランズウィック州、サスカチュワン州及びアルバータ州の4州がこれらの州内でSMRを開発・建設するための協定を締結し、2022年3月に共同戦略を発表している。カナダでは、ウランを含む天然資源の所有権は州政府にあり、原子力発電を含む電気事業に対する規制についても主として州の管轄となっている。このため、原子力政策及び計画が州政府レベルで策定されることは通例である。

英国

英国において、SMRは電気出力1,000 MWe以下の小型軽水炉を意味し、軽水以外を冷却材として利用するものは新型モジュール炉(Advanced Modular Reactor: AMR)として分類し、区別している。

政府は2020年11月に「グリーン産業革命に向けた10ポイント計画」12を、2020年12月に「エネルギー白書:ネットゼロ未来の原動力」13を発表し、2030年代初頭までにSMRの設計開発及びAMR実証炉の建設を行うとした。

ビジネス・エネルギー・産業戦略省(Department for Business, Energy and Industrial Strategy: BEIS)は2021年7月、「グリーン産業革命に向けた10ポイント計画」及び「エネルギー白書」に基づき、2030年代初頭までにAMRの実証を行うAMR研究開発・実証(RD&D)プログラムを発表した。2021年12月、BEISは最も有望なAMRとして高温の熱利用が可能な高温ガス炉を選定、実証までのスケジュール概要を公開し、2022年4月、RD&Dプログラムの公募を開始した14

その他の主要国

フランスでは、2021年10月に発表された「France 2030」と呼ばれる国内産業への投資計画の中で、SMRの2030年までの導入に向けて10億ユーロを投資するとしている。原子力による発電量が米国に次ぐ世界第2位(2020年時点)となり、大型軽水炉を中心とした原子力発電の輸出を推進している中国においても、ぺブルベッド型高温ガス炉の実証炉HTR-PMが2021年に初臨界を達成し、電力網に接続される15等、国家能源局の指導の下で国有企業が主体となり、SMRを含む幅広い炉型に亘る開発が行われている。世界有数の原子力大国であるロシアでは、原子力開発全般の統括機関である国営原子力総合企業ロスアトム社が、SMRを含む新型炉の開発を推進している。ポーランドでは、2040年までのエネルギー政策「PEP2040」16の中で、2043年までに合計6基の発電用大型軽水炉を建設する方針に加え、高温ガス炉を主に産業用熱源として利用する可能性が表明され、民間企業が米国製SMRの導入検討を進めている。その他の東欧諸国、中東諸国、アジア諸国等、世界各国でSMRの導入に向けて、開発企業等との協力により検討が行われている。

3.2日本国内のSMR開発支援政策

日本国内においては、文部科学省と経済産業省が連携して2019年4月に開始した原子力イノベーション推進(Nuclear Energy × Innovation Promotion: NEXIP)イニシアチブ事業の下、SMRを含む革新的な原子力技術を開発する民間企業等に対する支援が行われている17。NEXIPは、大学・研究機関等による基礎研究と民間企業等による実用化技術開発が有機的に連携することで、安全性・経済性・機動性等の多様な社会的要請を踏まえたイノベーションの創出を図るものであり、小型軽水炉、高温ガス炉及び小型高速炉等の開発が進められている。

NEXIPの下で行われている開発支援と平行して、経済産業省・総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会の下に2022年4月に設置された「革新炉ワーキンググループ」では、SMRを含む革新的な原子力システムの価値、開発課題及び今後の開発における道筋等が議論されている18

4.原子力機構における新型炉開発

原子力機構においては、高温ガス炉及び高速炉をはじめとする新型炉の研究開発及びこれらの開発に必要な技術基盤の整備を進めるとともに、民間企業等によるSMRを含む革新的な原子炉技術開発の活性化を図る観点から、原子力機構が蓄積してきた知見の共有・提供、試験研究施設の供用等を推進している。

4.1高温ガス炉の研究開発※詳細はコチラをご覧ください。

高温ガス炉はSMRの代表的な炉型の一つであり、原子力機構では、実用炉に向けた設計研究を行うとともに英国やポーランド等の海外プロジェクトへの協力を通じて、高温ガス炉の早期実用化を目指している。

令和3年6月に政府が発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」2においては、高温ガス炉の900 ℃を超える高温熱を用いたカーボンフリー水素製造に必要な技術開発への支援が掲げられている。

4.1.1高温ガス炉技術

高温ガス炉は、炉内構造物及び減速材に黒鉛を用い、冷却材にヘリウムガスを用いた原子炉であり、以下の優れた特長を有する。

1つ目の特長は、1000 ℃近い高温の熱が得られ多様な熱利用が可能なことである。高温ガス炉は、高温の熱エネルギーをヘリウムガスの顕熱として外部に供給可能である。このような高温の熱を利用すると、ヘリウムガスタービンによる高効率発電が可能となり、また、水素製造、地域暖房、海水淡水化等の発電以外の様々な分野に熱供給が可能である。

2つ目の特長は優れた安全性である。具体的には、ウラン燃料をセラミックで多重に被覆した被覆燃料粒子を用いているため、放射性核分裂生成物の閉じ込め能力に優れていること、黒鉛構造材の大きな熱容量のため炉心の温度変化が緩慢であること及び原子炉の冷却材として化学的に安定なヘリウムガスを使用していることが挙げられる。これらのことから、高温ガス炉は水素爆発・水蒸気爆発が発生せず、東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故と原理的には同様の事故(炉心溶融など)などが発生する可能性がない。このように、高温ガス炉は優れた安全性を有するため、非常用炉心冷却設備が不要であるとともに、高い発電効率や水素製造などが実現可能である。

原子力機構大洗研究所に設置されたHTTR(高温工学試験研究炉)は我が国初の黒鉛減速ヘリウムガス冷却型の原子炉(高温ガス炉)であり、熱出力30 MW、原子炉出口冷却材の最高温度は950 ℃である。表1にHTTRの仕様を、図2にHTTRの外観を示す。HTTRは、1998年に初臨界、2004年に、原子炉外への950 ℃の高温ガス取出しに世界で初めて成功した後、制御棒の異常引き抜き事象や冷却材流量喪失事象を模擬した安全性実証試験を行ってきた。2010年には原子炉出口冷却材温度950 ℃での50日連続運転を実施し、HTTRにおいて、高温ガス炉が長期にわたって安定に熱を供給できることを実証した。

原子炉出力 30MW
原子炉出口温度 950℃(最高)
1次冷却材 ヘリウム
1次冷却材圧力 4.0MPa
出力密度 2.5W/cc
燃料濃縮度 6%(平均)
初臨界 1998年
950℃達成 2004年
連続50日950℃達成 2010年

表1 HTTRの仕様

高温工学試験研究炉(HTTR)の建家外観

図2 高温工学試験研究炉(HTTR)の建家外観

また、2011年3月に発生した東日本大震災による東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故を教訓として規制強化された新規制基準に対して、HTTRは原子炉設置変更許可を2020年6月に取得し、2021年7月には約10年ぶりの運転を再開した。2022年1月には、冷却材流量喪失に加え、圧力容器の外側から間接的に原子炉を冷却する設備の運転も停止した炉心冷却喪失試験を行い、構造物の温度変化が緩慢で急激な変化が起きないことを確認した。

4.1.2熱利用技術

高温ガス炉の900 ℃を超える高温熱を用いたカーボンフリー水素製造を目指して、原子力機構では、高温ガス炉と水素製造施設の接続に係る安全設計を確立することを主目的としたHTTR-熱利用試験を計画している。図3にHTTR-熱利用試験イメージ図を示す。

この計画では、水素製造施設は一般産業法規、すなわち、高圧ガス保安法を適用することを目指し、利便性、用途拡大を図り、2030年までに水素製造試験を実施して必要な技術を確立する。なお、現時点で技術基盤が確立し、早期にHTTRに接続できる天然ガスの水蒸気改質法による水素製造施設を接続する計画である。

HTTR-熱利用試験イメージ図

図3 HTTR-熱利用試験イメージ図

さらに、将来のカーボンニュートラルを実現するためには、カーボンフリー水素製造技術を確立することも不可欠であるため、HTTR-熱利用試験計画と並行して、原子力機構ではカーボンフリー水素製造技術の一つである熱化学水素製造法(ISプロセス)の技術開発を進めている。

ISプロセスは,高温吸熱反応を含む、ヨウ素(I)と硫黄(S)を含む3つの化学反応(ブンゼン反応、ヨウ化水素(HI)分解反応、硫酸分解反応)を組み合わせて水を分解し、水素を製造する(図4)。本プロセスは、原子力と組み合わせることによりカーボンフリーの大規模水素製造を実現できる。原子力機構では、2019年1月に、世界で初めてプロセス全系を実用工業材料製(耐食ライニング材、耐食合金、セラミックス等)機器で構成した装置により安定かつ長期間の連続水素製造(水素製造量:約30 L/h、150時間)に成功した。現在、プロセスの熱効率向上技術等、実用化に必要な技術開発を進め、民間への技術移転を目指している。

ISプロセスの概要

図4 ISプロセスの概要

4.2高速炉の研究開発※詳細はコチラをご覧ください。

高速炉は、「高速中性子」と呼ばれる高いエネルギーをもった中性子による核分裂反応を利用する原子炉であり、主に以下に示す潜在的な特長を有する。

資源の有効利用,エネルギーセキュリティの強化

燃料のリサイクル(ウラン資源の輸入が不要)と技術自給(国産)により、海外の情勢に左右されない安定エネルギーを確保できる。

環境負荷低減

高レベル放射性廃棄物に含まれる長半減期核種を核燃料としてリサイクルすることにより、放射性廃棄物の量を減らし、放射能が減衰するまでの期間を大幅に短縮することができる。

③変動再生可能エネルギーとの共存性

蓄熱技術と組み合わることで電気出力を調整可能とし、太陽光や風力等、出力変動再生可能エネルギーを補完できる。

高い安全性

伝熱特性に優れた液体ナトリウムを冷却材として利用することで高い自然循環能力を確保し、空気との熱交換も可能なことから、電源が喪失しても長期に安定した崩壊熱除去が行える。

高速炉を活用した核燃料サイクルの確立は、持続性のあるエネルギー供給の実現に向けた枢要課題の一つである。原子力機構は実験炉「常陽」及び原型炉「もんじゅ」の設計、製作、運転等を通じて技術と経験を蓄積し、国産技術による高速炉技術の確立を進めてきた。さらに、現在、「戦略ロードマップ」19に基づき、今世紀半ば頃における現実的なスケールの高速炉の運転開始を目指し、日仏及び日米協力等の国際協力を活用しつつ、高速炉を実用化するための技術基盤の整備等を行っている。

4.2.1高速炉SMRの開発

将来のエネルギー利用の方向性として、再生可能エネルギーの最大限活用と安価かつ安定な供給の両立が指向される状況下において、機動性、すなわち、電力の供給調整力を有し、再生可能エネルギーと共存するカーボンフリーエネルギー源開発へのニーズが高まっている。高速炉SMRと溶融塩蓄熱発電を組み合わせたエネルギー供給システム(図5)は、そのニーズに応え得る概念の一つである。本システムは、高い蓄熱性を有する溶融塩のタンクに原子炉で発生した熱を溜めておき、再生可能エネルギーによる発電量が少ない夜間等の時間帯にタンク内の高温溶融塩を蒸気発電設備へ送り発電することによって、再生可能エネルギーの出力変動性を補う概念である。また、その特長として、原子炉出力を変えずに発電量の調整が可能になることに加え、小型炉心と多様な冷却系統によるシビアアクシデント対策強化、従来の高速炉発電プラントに対する安全上の問題とされてきた蒸気発生器におけるナトリウム-水反応の排除を目指している点が挙げられる。

原子力機構は、高速炉SMRを含む革新的な原子力技術の社会実装に向け、民間企業及び大学等と連携し、原子力発電プラントに適用する浮体免震安全技術の開発、革新的な原子炉システムの導入シナリオを評価するシミュレーション手法や安全性評価技術の開発に取り組んでいる。

高速炉SMRの概念例

図5 高速炉SMRの概念例

4.2.2技術基盤の整備

高速炉技術を将来の社会実装へつなげる観点から、さらなる安全性向上と高い経済性の同時達成を追求することが最重要課題である。原子力機構は、安全性・経済性追求から廃止措置最適化までを可能とするプラント設計支援ツールとして、高速炉に関するナレッジベースと解析評価技術をAIの活用により統合する「AI支援型革新炉ライフサイクル最適化手法(Advanced Reactor Knowledge- and AI-aided Design Integration Approach through the whole plant lifecycle: ARKADIA)」(図6)の開発を進めている20。ARKADIAを通じて、従来は困難であった様々な視点を取り入れた設計の最適化、設計に要する期間の短縮、実験代替等の開発費の低減化を実現し、今後の高速炉プラント設計のプロセスを変革するとともに、社会受容性の高いプラント概念構築・設計を可能とする。また、民間の新型炉技術開発を支援することで多様な炉概念の開発に反映する。

AI支援型革新炉ライフサイクル最適化手法

図6 AI支援型革新炉ライフサイクル最適化手法

SMRを含む新型炉に適用する安全基準の確立も重要な課題である。原子力機構は、第4世代原子力システムの開発国とEUで構成されるGeneration-IV International Forum(GIF)に参画している。第4世代原子力システムとは、持続可能性、安全性・信頼性、経済性、核不拡散性・核物質防護について従来の原子力システムよりも高い要件を具備する次世代の原子力システムであり、ナトリウム冷却高速炉、超高温ガス炉等6つの炉型を対象にしている。原子力機構は、「もんじゅ」等の経験を基に、高速炉の安全設計を行う際の基準となる安全設計クライテリアとクライテリアを満足するための具体的な手順を示す安全設計ガイドラインの構築を提唱した。これらの安全設計基準はGIFに承認され、現在、GIF加盟国の規制機関やOECD及びIAEAによるレビューを受けつつ改訂が進められている。

5.おわりに

世界的な「脱炭素化」の潮流において、日本は2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、原子力を含めたあらゆる選択肢の追求を方針にしている。その有望な選択肢の一つであるSMRを含む新型炉開発の推進は、原子力に対する社会要請に応えるうえでも意義を有するものである。SMRを含む新型炉の国内導入に向けて、今後、固有・受動安全機能、受容可能な経済性、機動性・柔軟性等、期待される特長を実証することが必要であり、そのためには、SMRを含む新型炉開発を支える技術基盤を確立することが重要である。また、海外主要国の動向に鑑み、導入ビジョン及び開発支援を含む政策の維持・強化が重要な観点と考えられる。これは、東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故以降、衰退が懸念されている原子力サプライチェーンを維持・強化するうえでも重要な役割を担う。さらに、審査事例が少ないSMRを含む新型炉に対する安全規制の在り方も重要な観点となるであろう。今後、経済産業省・総合資源エネルギー調査会の「革新炉ワーキンググループ」等、ステークホルダーを含めた場において、これらの観点を含めた建設的な議論が展開され、SMRを含む新型炉の国内導入に向けた道筋が見いだされることが期待される。

原子力機構は、カーボンニュートラルの実現、長期にわたるエネルギー安定供給、国民福祉の向上に資するため、安全確保を大前提に、国内の技術基盤を維持・発展させるとともに、SMRを含む新型炉及び燃料サイクル技術の社会実装に向けた研究開発を着実に進めていく。

<執筆者>

松場賢一、篠原正憲、豊岡淳一、稲葉良知、角田淳弥

(所属 日本原子力研究開発機構 高速炉・新型炉研究開発部門 戦略・計画室 戦略・社会環境グループ)

※本記事は、「エネルギー・資源」Vol.43 No.4 (2022)に掲載されたものに、一部編集・修辞上の変更等を加えたものです。

<関連情報へのリンク>

当ウェブサイトに掲載している本件記事に関連する情報のURLを掲げましたので、あわせて、ご活用ください。

1.「カーボンニュートラルの実現に向けて ~小型モジュール炉(SMR)開発の動向~」(小冊子)
https://www.jaea.go.jp/04/sefard/faq/files/material050306.pdf[PDF:2.42MB]
2.「海外におけるSMRの開発・導入状況」(特集記事)
https://www.jaea.go.jp/04/sefard/ordinary/2021/20211014.html
3.「高温ガス炉と水素・熱利用研究」
https://www.jaea.go.jp/04/o-arai/nhc/jp/index.html
4.「高速炉システムの研究開発基盤の整備」
https://www.jaea.go.jp/04/sefard/randd/development/arcadia/index.html
5.「新型炉に関する国際情報」
https://www.jaea.go.jp/04/sefard/situation/index.html
6.「資料集」
https://www.jaea.go.jp/04/sefard/faq/index.html#materials

(参考文献)

1 経済産業省;エネルギー基本計画, 令和3年10月(2021年12月).
2 経済産業省;2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略, 令和3年6月18日(2021年6月).
3 経済産業省;第23回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会資料, 2021年4月14日.

URL:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/023.html (アクセス日2022.5.9)

4 IAEA; Small modular reactors.

URL:https://www.iaea.org/topics/small-modular-reactors (アクセス日2022.5.9)

5 NEA/OECD; Small Modular Reactors.

URL:https://www.oecd-nea.org/jcms/pl_61513/small-modular-reactors (アクセス日2022.5.9)

6 山路 哲史;世界におけるSMR開発事情の考察, エネルギーレビュー, 491 (2021), pp.7-10.
7 UAMPS; DOE cost-share award of $1.355 billion is approved for UAMPS’ Carbon Free Power Project,October 2020.
8 DOE; Advanced Reactor Demonstration Program.

URL:https://www.energy.gov/ne/advanced-reactor-demonstration-program (アクセス日2022.5.9)

9 DOE; SMR Licensing Technical Support (LTS) Program.

URL:https://www.energy.gov/ne/smr-licensing-technical-support-lts-program (アクセス日2022.5.9)

10 Canadian Small Modular Reactor Roadmap Steering Committee; A Call to Action: A Canadian Roadmap for Small Modular Reactors,Ottawa, Ontario, Canada,November 2018.
11 Natural Resources Canada; smr action plan.

URL:https://smractionplan.ca/ (アクセス日2022.5.9)

12 BEIS; The ten point plan for a green industrial revolution,November 2020.
13 BEIS; Energy white paper: Powering our net zero future,December 2020.
14 BEIS; Advanced Modular Reactor Research, development & Demonstration: Phase A,April 2022.
15 CNNC; World's first HTR-PM nuclear power plant connected to grid,December 2021.
16 Ministry of Climate and Environment; Energy policy of Poland until 2040.

URL:https://www.gov.pl/web/climate/energy-policy-of-poland-until-2040-epp2040 (アクセス日2022.5.9)

17 舟木 健太郎;SMR等革新炉の安全と安全規制について, 原子力イノベーションの追求, 日本原子力学会誌, 63-8 (2021), pp.15-19.
18 経済産業省;革新炉ワーキンググループ.

URL:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/kakushinro_wg/index.html (アクセス日2022.5.9)

19 原子力関係閣僚会議; 戦略ロードマップ, 平成30年12月21日(2018年12月)
20 早船 浩樹, 前田 誠一郎, 大島宏之;今後の高速炉サイクル研究開発 ―原子力機構の取組―, 日本原子力学会誌, 61-11 (2019), pp.42-47.