平成18年5月22日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
 
バイオ技術を用いた画期的なトリチウム除去法の開発に成功
−茨城大学との連携により実現−
 
 独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 殿塚猷一、以下「原子力機構」と言う)は、核融合炉の安全性に関する研究の一環として、燃料となるトリチウム1(三重水素)が万一建屋内に漏れた場合、環境への漏洩を防止し除去回収する技術について効率化をめざし研究開発を進めて来た。この度、茨城大学(一政祐輔教授)との核融合施設利用協力研究2のもとで、従来のトリチウム除去装置3に替わる新しい技術として、微生物を利用して漏洩したトリチウムを酸化し効率的に除去することに世界で初めて成功した。

 核融合炉は、放射性物質である気体のトリチウムを燃料として用いることから、トリチウムを安全に閉じ込める4ことが重要である。ITER等核融合炉5施設では、トリチウムを多重に施設内に格納するとともに、万一建屋内に漏れたトリチウムは、高温で貴金属触媒6により酸化し、水分として吸着することにより、環境への漏洩を防ぐ閉じ込め方式を採用している。
 原子力機構では、環境中の水素ガスが、土壌に一般に棲息する微生物によって常温で酸化され、水へ変換されていることを解明した茨城大学の成果に着目し、これら微生物を水素の同位体であるトリチウムの酸化に適用し、従来のトリチウム除去装置の大幅な効率化を目指した研究開発を茨城大学と共同で実施した。

 従来、微生物は発酵工業、食品、医薬品工業などで利用されてきたが、大気濃度の水素の酸化を速い反応速度で行う目的に、あえて微生物の特殊な能力を使うという画期的な発想に取り組み、水素の酸化能力の高い菌を森林から探索・培養すること、微生物が活発に活動できる条件を探し出すことに成功した。この成果によって製作したバイオ・トリチウム除去実験装置を、原子力機構の原子力科学研究所(茨城県東海村)にあるトリチウム安全性試験装置7に接続してトリチウム除去試験を行ったところ、触媒方式と大差ない速度でトリチウムを酸化(水に変換)・除去することができ、トリチウム除去効率としても、ITERのトリチウム除去装置の効率にほぼ匹敵する値が得られた。また代表菌株を低温で1年保存した後でも、初期の除去効率の70%程度を維持できることを確認し、新しいトリチウム除去装置への適用性を見いだした。将来、この技術が実用化されれば、高温の貴金属触媒が不要となり、製作及び運転コストが低減できるほか、触媒交換による廃棄物を最小限度に抑えられる可能性がある8。今後、耐久性等実用化をめざした、トリチウムだけではなく、水素ガスや他のガスの処理に微生物を適用する研究開発を進める予定である。


 バイオ技術を用いた画期的トリチウム除去法の開発に成功 −茨城大学との連携により実現−
 代表的トリチウム酸化活性菌とバイオトリチウム除去装置
 実環境トリチウム除去試験系統図
 実環境トリチウム除去試験結果の例
 バイオトリチウム除去装置と従来法との比較
 用語解説
以 上

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