地下500mの研究所 ~幌延深地層研究センター~
北緯45度の町・北海道幌延町には、国内唯一、深度500m地点に研究用の地下坑道がある。運営するのはJAEA「幌延深地層研究センター(幌延センター)」。国内外から研究者・技術者が集まり、調査・研究・開発・実証に取り組んでいる。目的は高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する技術研究開発で、開所から25年の間に様々な成果が結実、その裾野は幅広い。深度500m調査坑道での研究は注目が高く、整備完了後から視察が相次いでいる。

原子力発電で生じる使用済燃料の処理過程で出る「高レベル放射性廃棄物」は、長期の間、強い放射線を出す放射性物質を多く含む。このため、保管期間中に人間生活へ影響を及ぼすことがないよう、深度300m以深の地下「深地層」に埋設する「地層処分」を行うことになっている。
地層処分のため「深地層研究」に取り組むのが幌延センターだ。「長期にわたって安定した地下環境」に適切に処分する条件・手法を導き出し、埋設処分場の建設・管理に必要な技術として高度化する使命を担う。調査坑道は深度140m、250mに開設後、350m地点は2013年に整備。そして2023年9月から28カ月間をかけ、2026年1月に500m地点での研究環境を整えた。
国内最深度の水平調査坑道へ
いわば「できたてホヤホヤ」の500m調査坑道は1月に報道機関へ公開。8月3日には北海道選出の国会議員を中心とする議員視察が行われ、本紙記者も同行した。参加したのは衆院議員の浮島智子氏、臼木秀剛氏、佐藤英道氏、武部新氏、参院議員の高橋はるみ氏、船橋利実氏、横山信一氏、北海道議の三好雅氏、村田憲俊氏。参院議員の鈴木宗男氏は代理出席となった。
地下500m地点へは11人乗りの円筒形のかご状エレベーター「人(ひと)キブル」に乗って約10分ほど。見学者用の青色つなぎ服にヘルメット、安全長靴を着用し、2班に分かれて現場に入った。水平に延びる500m調査坑道は幅4m、高さ3.1m、総掘削長208.1m。人キブルで降りた自覚がなければ、ここが深度500mだと忘れてしまいそうな空間だ。大気を地上から送り込むため空気の流れがあり、坑道内の温度は22℃と好天の地上と体感はあまり変わらないような気がする。


坑道内では幌延センターの若手研究者たちが説明役を担った。深度350mと500mの岩盤は同じ堆積岩の「稚内層」に分類されるが、土圧や岩盤の硬さの違いから地下水の流れやすさも異なることや、処分場建設の設計時に必要となる土木工学上の研究展開などを話した。
視察者の関心を集めた一つが岩盤をコンクリートで覆うことなく露出させた、通称「幌延の窓」。350m調査坑道では壁面に設けているが、ここ500mでは足元にある。落下防止用の透明アクリル板を外すと、地下水がしみ出し、夏は少しひんやりと感じる岩盤に触れることもできる。「ボコボコと湧き出るというよりも、ジワーっと滲み出しているのが見て分かっていただけるかと思います」と説明者。膝をついて直接触れ、岩盤の硬さを手指で感じた視察者も。

この水は稚内層が海底だったころの太古の海水「化石海水」で、塩分濃度は海水の2分の1強程度。岩盤中で直接、水圧に影響することなく水質を連続測定したところ、酸性度(pH)はほぼ中性で酸素も含まず、また、これらの数値は変化なく安定していることが分かったという。
視察に参加した武部氏は、2024年に350m調査坑道を視察し「500mの調査研究に大変関心を持っていた」と話す。今回は「水質や水の動きが(地層処分での)廃棄体の設置に大変重要になるということをよく理解できた」とし、「原子力政策、エネルギー政策を進めていく上で、地層処分の安全性、技術の確立は大変重要。技術が確立しないと原子力政策は完結しないので、幌延(センター)が行っている研究は非常に重要だ」と振り返った。


視察団はこのほか、敷地内の「ゆめ地創館」、「地層処分実規模試験施設(設置者・原子力環境整備促進・資金管理センター)」で、地層処分時に高レベル放射性廃棄物を入れる容器や緩衝材「人工バリア」の実寸大展示などを見て回った。


佳境を迎えた実規模試験
幌延センターでは開所以来、様々な試験を行ってきた。現在、佳境を迎えているのが「人工バリア性能確認試験」で、高レベル放射性廃棄物を地層処分した際、人工バリアが想定通りの性能を発揮するのか、実際に試験坑道に埋めて確かめている。金属製容器の中に「ガラス固化体」(高レベル放射性廃液をガラスで固めたもの)に見立てたヒーターとおもりを入れた「模擬オーバーパック」を作製。これを粘土質の緩衝材で覆った上で350m調査坑道に埋め、掘削土と粘土鉱物で試験坑道1本を密封、2015年から観測を始めた。11年が経過した今秋、緩衝材と容器を掘り出して、どのようになっているのかなど、分析を進めるという。
また、アジア唯一の開かれた深地層研究の場として外部研究者を受け入れ、共同研究も行っている。このうち深度350m、500mの調査坑道整備と並行展開するのが各国との共同研究「幌延国際共同プロジェクト(HIP)」だ。国際機関の協力のもと、現在はイギリスやドイツ、韓国など6カ国7機関と国内3機関が参画。地質・土木・安全評価など、各国の知見を持ち寄って検討を行い、技術開発レベルを高める取り組みだ。
放射性物質を用いた試験を一切行わない幌延センターは、坑道整備が進むにつれて最深部坑道での一般見学(事前予約制)を拡充してきた。2025年度は350m調査坑道に延べ899人の一般見学者が立ち入り、深地層を体感している。最深度となった500m調査坑道は現在、人キブル1本のみでのアクセスとなっているため一般見学は受け入れていない。人キブル2系統運用が再開する来年度以降、一般公開を行う方針だ。

「ひとかじりしたリンゴ」
幌延センターの深地層研究は地層処分、つまり、廃棄物処理工程での最終段階に関する研究だ。JAEAでは現在、廃棄物をさらに有効活用できないか、との着眼から、原子力科学研究所(茨城県東海村)の「NXR開発センター」が中心となり、ウラン資源の有効活用に向けた探索や廃棄物の資源化研究を展開中で、今回の視察の間にもNXR開発センターから来所した研究者がプレゼンを行い、高評価を得た。
そもそも、原子力発電燃料に使えるウランは天然ウランのごくわずかだ。NXR開発センターの研究者は「天然ウランをリンゴにたとえると、今まで私たちはリンゴをひとかじりしただけ。これからは残りも徹底的に食べつくし、芯だけにして束ねて捨てる環境にしなければならない」と課題を提起する。
そして、核分裂反応を経ることで、使用済燃料は工業用途の広いロジウムやパラジウムなどの希少元素や、天然にはない放射性物質(RI)など様々な元素を含むようになる。例えばRI「アメリシウム」は長期にわたって熱を発し、高レベル放射性廃棄物の処分では「扱いに困る厄介者」だ。しかし宇宙分野からは、長期安定した熱源として探査機向け電源での利用に期待が集まる。このほか、がん治療用RIの原料も含むなど、資源化候補物質は意外に多い。こうした未利用元素を活用できるようになれば、処分されるべき廃棄物も減少し、地層処分の在り方に良い影響を与えることになるだろう。
今回、NXR開発センターによる資源化研究の取り組みについて説明を受けた視察団からは、「(原子力研究は)エネルギー政策だが、そこを起点にいろんな研究開発につながっていくのは、とても大事なことだ」との声があがっていた。
幌延センターでの研究は大地の営みそのものを知る行為ともいえるだろう。そして今、地球温暖化対策として二酸化炭素を地中に貯留する技術(CCS)のほか、深地層に水を送り込んで水素を作る研究も国内外で検討されるなど、深地層活用に光が当たっている。燃料源供給の場としてみてきた深地層には、いまだ発見できていない魅力が満ち溢れている。

