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第9回 原子力機構報告会
「変革の時~新たなる出発に向けて~」

高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減への挑戦 (テキスト版)

高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減への挑戦
戦略企画室次長 大井川宏之

○大井川 皆さん、こんにちは。戦略企画室の大井川です。

〔パワーポイント映写。以下、場面がかわるごとにP)と表示〕

P1) 今日は、「高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減への挑戦」ということで、現在の取り組みについてご報告させていただきます。
この研究開発の背景ですけれども、原子力を利用する上で放射性廃棄物の処理・処分の負担軽減が大きな課題であるということは、皆様御存じのとおりだと思います。
 原子力機構ではこれまで、廃棄物処分の負担軽減を目指しまして、核燃料サイクルの研究開発とともに、分離変換技術と名づけられている研究開発を進めてきております。
 この分離変換技術そのものについてはこの後少し詳しく説明させていただきますが、先ほど家田から報告がありましたように、もんじゅ研究計画というのが去年(平成25年)取りまとめられまして、その中の3つの大きな研究の柱の1つとして、放射性廃棄物の有害度低減に関する研究が取り上げられております。
 それから、昨年(平成25年)、やはり文部科学省で群分離・核変換技術評価作業部会というのがありまして、その中で、加速器駆動システムを用いた分離変換技術の研究開発について推進しようという方向性が示されております。
 そして、今年(平成26年)のエネルギー基本計画の中では、高速炉や加速器を用いた核種変換など、放射性廃棄物中に長期に残留する放射線量(放射性物質)を少なくし、放射性廃棄物の処理・処分の安全性を高める技術等の開発を国際的なネットワークを活用しつつ推進するといった方向性が示されております。
 こういう背景のもとに、我々はこの研究開発に力を入れていこうと考えているところです。
 それでは、続きまして、分離変換技術とはどんな技術かということを説明したいと思います。
P2) その前に、使用済み燃料の組成はどういうものかというのを示したのが、このスライドになります。
 左側に示していますのが、新燃料1tの組成で、ウラン235が45kg、ウラン238が約955kgということで、ほとんどウラン238が占めているわけです。これを原子炉の中で照射して取り出したら使用済み燃料になるわけですけれども、93%ぐらいのウラン238が残っています。その他、燃え残りのウラン235、それから核分裂の結果生じた核分裂生成物が大体46kg。1tの中で46kgです。それから、プルトニウムが10kg、マイナーアクチノイドと呼ばれる元素が1kg。こういうものが使用済み燃料の中に含まれているわけです。ここで言いましたマイナーアクチノイドといいますのは、アクチノイド核種元素の中でウランとプルトニウムを除いたもので、主にネプツニウム、アメリシウム、キュリウムといった核種がマイナーアクチノイドで、非常に長寿命のものが多く含まれているということです。
 これを我々は再処理するわけですけれども、再処理によってウランとプルトニウムを回収しますから、その残った核分裂生成物とマイナーアクチノイドがガラス固化体として廃棄の対象になるわけです。
P3) これが現在の再処理のスキームで、再処理によってウランとプルトニウムを回収して、FP(Fission Products)というのが核分裂生成物、MAというのがマイナーアクチノイドですけれども、これを今はガラス固化体として廃棄するということですが、まずこれをいくつかの群に分けてやろうと。これを我々は群分離と呼んでいます。この場合は、マイナーアクチノイドと白金族。白金族の中にはルテニウム、ロジウム、パラジウムなどが含まれています。それから発熱性の元素、ストレンチウムとかセシウムです。そしてその他の元素。これは例ですけれども、こういう4つの群に分けてやる。
 そうしますと、マイナーアクチノイドに関しましては、核分裂で核変換して単純化することが可能です。その単純化の仕方については後で説明しますが、こういう核変換による単純化が可能。白金族は、触媒などとして利用することが可能ではないか。それから、発熱性元素、ストレンチウムとかセシウムは、熱に強い焼成体の形にして冷却または利用。利用といいますのは、放射線源とか熱源です。こういうものに利用して、その後、地層処分してやろうと。こういう発熱性のものとか長寿命のものを取り除いた後のその他の元素は、高含有ガラス固化体として地層処分。その他の元素の中にも長寿命の核分裂生成物等が含まれていますので、これはまだ地層処分が必要ということです。
 こういう群分離と核変換をすることで長期リスクの低減を行う、それから発熱性の多い核種を除去することで処分場のコンパクト化を狙う、それから一部の資源化も狙う、これが我々の分離変換技術の目指すところです。
 わかりやすく言いますと、ここでごみの分別をしてやって、資源化できるものは資源化してやろう、焼却できるものは焼却してやろうというコンセプトになります。
 それでは、この長期リスクの低減というのはどういうことを示しているかというのを次に示します。
P4) これは、横軸に処理後の経過時間ということで、10年、100年、1,000年から100万年、1,000万年(、1億年、10億年)と、非常に長い時間のスケールをとってあります。それから、縦軸は潜在的有害度という指標をとっています。潜在的有害度というのは、放射性核種の人体への影響で重みをつけた指標になっています。通常、放射性物質というのは、ベクレルという放射能の単位ではかるわけですけれども、同じベクレルでも、体に入ったときの影響は元素によって違います。その重みを加えてやると、人体への影響はシーベルトではかりますから、シーベルト単位になるということで、これはシーベルト単位になっています。この緑色で示しましたのが、使用済み燃料そのものを直接処分したときの有害度低減のグラフになります。横に一線引かれていますこの線ですけれども、これはもともと1tの使用済み燃料に対するグラフですけれども、それをつくるのに9tの天然ウランが必要だったと考えたときに、その9tの天然ウランが地面にまだ埋まっていたときに持っていた潜在的な有害度で、これを引いてやったわけです。そうしますと、使用済み燃料は、地面に埋まっていたときと同じ潜在的有害度まで下がるのに10万年を要することがわかります。それに対しまして、プルトニウムとウランを回収してやる再処理を行いますと、それを1万年から数千年ぐらいに短縮することができる。それから、先ほどありましたマイナーアクチノイドを回収して分離変換技術で核変換してやりますと、数百年、約300年ぐらいまで短縮することができるということで、この技術を適用することで、かなり長く続く潜在的有害度を短縮、低減することができます。
P5) こういう技術を実現するのに非常に重要なのは、分離をしてやるプロセスです。
 これは我々が考えている分離プロセスの一例ですけれども、今やっている再処理にプラスして、ネプスツウムというマイナーアクチノイドをプルトニウム等と一緒に取り出してやる。それから、残りました核分裂生成物とマイナーアクチノイドについて、マイナーアクチノイドをレアアース、希土類元素と一緒に取り除いてやる。次にマイナーアクチノイドとレアアースを相互に分離してやる。可能であれば、アメリシウムとキュリウムをまた分けてやる。こういう多段階のステップを踏みながら分離していくことが必要になってきます。それから、レアアース以外のFP(核分裂生成物)については、モリブデンと、PGM(Platinum Group Metals)というのは白金元素ですけれども、これを分けてやって、次にストロンチウム、セシウムを分離してやるという非常に複雑ですけれども、こういう多段のステップを踏みながら分離してやることが必要です。
 今我々が特に力を入れているのはこの部分になりまして、マイナーアクチノイドとレアアースを一緒に分離するということで、TDdDGA(テトラドデシルジグリコールアミド)抽出剤と、ここに絵を描きましたが、こういうものを開発して、実験室規模ではありますけれども、99.99%以上の回収に成功するという成果を得ております。
 それから、マイナーアクチノイドとレアアースを相互に分離するステップに関しましては、新しい抽出剤の開発を行いまして、高い分離性能を有する数種の候補の抽出剤を見出したという段階にあります。
 その他、ストレンチウム、セシウム等に関しまして、抽出クロマトグラフ法の実験を行ったり、という段階にあるわけです。
P6) 続きまして、核変換の方法について説明したいと思います。
 これは、マイナーアクチノイドの1つ、ネプツニウム237ですけれども、半減期は214万年あるものです。これに高速の中性子を当ててやりますと、核分裂反応が起ります。核分裂反応を起こしますと、2つの核分裂片に分かれまして、それぞれが崩壊しながら、最終的には、この場合だと安定なルテニウムとセシウムに変わっています。ところが、常にこういう安定なものになるとは限らなくて、10%以下ではあるが長寿命のものもできてしまうということで、この方法で完全に放射能がなくなるわけではなくて、短寿命化はできる、あるいは人体への影響は大幅に低減できるのですけれども、完全に無くなるわけではありません。
 こういう原子核の中に入り込みやすいという意味で、中性子を使うというのが一般的に考えられている方法です。
 それから、マイナーアクチノイドは、高速の中性子で、核分裂で核変換することができるということで、高速の中性子を供給してやることが必要になります。
 高速の中性子の供給の方法として、現在、高速炉を使う方法と加速器を使う方法の2つが考えられているわけです。高速炉を使う方法は、高速炉サイクル利用型と呼ばれます。加速器を使う方法は、集中的に加速器で核変換しますので、核変換専用サイクル型、あるいは階層型と呼ばれます。この理由については後で説明します。
P7) この2つの方法について比較したのが、このスライドになります。
 左側が高速炉サイクル利用型で、発電炉を用いた分離変換技術になります。1つのサイクル内でプルトニウムとともにマイナーアクチノイドをリサイクルしていきます。発電炉(高速炉)の中で、マイナーアクチノイドを核変換するということです。
 一方、核変換専用サイクル型は、発電用のサイクルの下に非常にコンパクトな核変換専用のサイクルを敷設するというコンセプトです。核変換に用いますのは核変換専用システムで、我々はこの加速器駆動システム、ADS(Accelerator Driven Systems)というのを用いようと考えております。
 高速炉型は、燃料の中にマイナーアクチノイドを5%ぐらいまでしか入れられないのですけれども、ADS型は、燃料のマイナーアクチノイド含有量を50%以上として、ウランも含まない、非常に特殊な燃料を用いることを考えております。
 高速炉サイクル型は、ナトリウム冷却のMOX燃料高速炉が有力候補として考えられておりますし、ADS型は、鉛合金を冷却剤にした窒化物燃料のADSを第一候補として我々は考えております。
 これはそれぞれの型の炉のポンチ絵ですけれども、こちらは、今、我々の高速炉の開発でやっていますループ型の高速炉で、こちらはADSですが、見てくれはタンク型の高速炉と非常に似ていまして、技術的にもよく似たところがあります。
 この2つの方法はそれぞれこういう特徴がありますし、共通部分も多いということで、現在並行あるいは連携して研究開発を推進しているということです。
P8) その2つの方法の現状について説明したいと思います。
 高速炉サイクル利用型ですけれども、エネルギー生産とウラン資源の有効利用を達成しながらマイナーアクチノイドを核変換していこうというコンセプトです。
 非常に大きなポイントとしましては、プルトニウムの増殖とかプルトニウムの燃焼にも利用可能ということで、これからのいろいろな情勢、社会ニーズに応じて、プルトニウムのマネジメントを、マイナーアクチノイドを核変換しながらすることができるというのが大きな特徴になります。
P9) これは、どういう状況のときにどういうことができるかというものですけれども、例えば、エネルギーが非常に足りなくなってきて、プルトニウムをどんどん増殖して発電しないといけないというときには、プルトニウムを増殖して、他のシステム、次のFBR(Fast Breeder Reactor)に渡していく増殖モードが考えられるわけです。
 一方、軽水炉から生じるプルトニウムとかマイナーアクチノイドを核変換して何とか処分の負担を減らしてやりたいというときには、TRU(TRans-Uranium)管理モードといったようなものになってくるわけです。
 最終的には持続モードということで、プルトニウムを体系の中に閉じ込めますし、マイナーアクチノイドも閉じ込めます。入れるのはウランが減った分だけ入れていく、これが最終的な理想の形になるわけです。
 このように社会のニーズに応じてプルトニウムのマネジメントをできるというのが、この高速炉サイクル型の大きな役割だと考えています。
P10) この高速炉サイクル利用型で確認すべき事項、一部は先ほど家田から説明がありましたが、まず重要なポイントは、燃料の製造です。マイナーアクチノイドというのは非常に放射能が高い物質ですので、遠隔製造をしないといけない。それから、いろいろなマイナーアクチノイドの組成を受け入れることが必要になってくる可能性がありまして、対応可能な燃料組成範囲の判断も非常に重要になってきます。それから、燃料を照射することも必要になってきますし、こういうマイナーアクチノイドを含んだ炉心の特性を取得していくことも必要になってきます。これはもんじゅとか常陽を使って行うことになっていきます。それから、使用済み燃料を再処理してやるということで、マイナーアクチノイドの分離プロセス、それから実現可能なブロセス概念の構築といったようなものを、東海とか大洗の施設を使いまして研究開発していく。そして、最終的には各分野の情報を統合して、有望なシステム概念を絞り込んで、(放射性)廃棄物減容化、有害度低減の効果の確認をしてまいりたいと考えております。
P11) 具体的にどういう成果を今得ているかというのを2つ紹介したいと思います。
 1つは燃料製造でありまして、こういうホットセルに遠隔でアメリシウムを含んだ燃料をつくることができる、こういう装置類を整備しまして、実際に燃料をこのようにつくりまして、これを後で示します常陽で照射しております。
 今後は、こういう熱伝導率の測定等も続けますけれども、遠隔製造技術に適した製造プロセスの開発とか自動化するようなことをやっていきたいと考えております。
P12) それから燃料の照射試験ですけれども、これは、先ほどのセルでつくったものを常陽で、非常に短期ですけれども、10分間と24時間照射を行ったものです。
 これは断面図ですけれども、24時間まで照射しますと中心の空孔が成長している(大きくなっている)ということがわかります。
 こちらはその中心空孔から外側に向けての組成の空間分布というか位置分布でして、アメリシウムはもともと5%入っていたのですけれども、中心空孔のあたりでは6%ぐらいに濃縮されているということです。温度が上がりますから、それぞれの蒸気圧の差とかでこういうことが生じるということで、これは予想された範囲の中でありまして、燃焼初期の燃料挙動に対するアメリシウムの含有効果は小さいということを確認しております。
 今後は、燃焼度とか線出力等のデータ範囲を拡張するとともに、もんじゅでの実規模の照射を実施していく予定になっております。
P13) 高速炉を用いた核変換技術につきまして、今後の取り組みですけれども、まずは何よりも、もんじゅ研究計画にありますように、成果の取りまとめということで、ナトリウム冷却MOX燃料の高速炉の技術成立性を確認していくのが重要だと思っています。
 家田からもありましたように、もんじゅの燃料に蓄積しておりますアメリシウムを多く含んだ燃料ですけれども、これでデータをとることでアメリシウムを含んだ炉心の物理的な特性がわかってくると思っております。その後、それを照射した後の照射後試験で、どのような挙動があるかがわかってくる。
 次のステップとしましては、アメリシウムとかネプツニウムの均質サイクルに関する燃料製造とか照射、照射後試験、再処理試験をやっていきます。
 それから、使用済み燃料からのマイナーアクチノイド。この違いは、キュリウムを含めことになります。キュリウムは非常に放射能が高くて、量が多いと発熱も大きく、取り扱いが厄介なものですが、実際の使用済み燃料から抽出しますと必ずこのキュリウムがついてくるわけです。こういうものを使って、分離、燃料製造、照射、そしてまた照射後試験をやるという一連のサイクルを「ぐるっと」回してやる、こういう取り組みを今後やっていきたいと思っております。
 それから、もんじゅ等での照射試験等々、国際協力もうまく使いながらやっていこうと考えております。
 以上が、高速炉を使った核変換の研究開発の現状です。
P14) 続きまして、加速器を用いた方法ですけれども、まず、加速器駆動核変換システムとはどんなものかという説明をさせていただきます。
 超伝導加速器で陽子を加速しまして、この真ん中にある赤いところ、これを核破砕ターゲットと呼んでいますが、鉛ビスマスという液体の重金属、イメージとしては、ハンダがありますね、あのハンダがどろどろと溶けて液体になったものに陽子をぶつけるというイメージです。そうしますと、大量の高速中性子が発生します。その中性子を、周りに置きましたマイナーアクチノイドを大量に含んだ燃料に照射して核変換を行っていきます。核分裂で核変換しますと核分裂中性子が生じますので、その中性子もまた次の核変換に用いるということで、連鎖反応を用いて効果的に核変換をしていこうと考えております。
 連鎖反応ですけれども、未臨界状態になっていますので、陽子ビームを止めると連鎖反応は即座にとまるということで、核反応の暴走の心配がないということがこのシステムの大きな特徴になっています。
 このシステムで、例えば陽子ビームを最大30MW導入してやりますと、核分裂エネルギーが800MW発生することになります。それを発電に回してやりますと270MW、それから100MWを加速器に給電してやるということで、全体としてのエネルギーバランスはプラスになって、可能であれば電力網へ売電することも考えられるかと思っております。
 この800MWのシステム1つで、大体軽水炉10基で毎年生じているマイナーアクチノイドを核変換することができるということで、日本ですと、こういうシステムが4つぐらいあれば、大体毎年生じるマイナーアクチノイドを核変換することができるだろうと考えております。
 それから、核破砕ターゲット、冷却材に鉛ビスマスを用いますが、これは化学的に不活性であるというのも大きな特徴になっております。
P15) このADSを中心とした階層型の分離変換技術がどういうマスバランスかというのを簡単に説明したいと思います。
 これは1つの例ですけれども、再処理工場、年間800tの再処理をする、六ヶ所再処理工場と同じような規模のものからは、大体マイナーアクチノイドが年間1t出てきています。現在はこれをガラス固化しているわけですけれども、それを群分離プロセスに入れまして、いくつかの群に分けてやる。マイナーアクチノイド1tを燃料製造プロセスに送りまして、ADSで核変換して、そこで照射した後の燃料をプロセスして、また新しい燃料をつくってやる、こういう核変換のサイクルの小さいものをつくってやるというコンセプトになります。再処理工場が800tに対しまして、この核変換サイクルは8t/年です。ですから、規模でいきますと1/100ぐらいの非常にコンパクトな核燃料サイクルをつくってやればいいということになります。ただし、マイナーアクチノイドをたくさん含んでいますので、非常に取り扱いの厄介な燃料を使うことになりますので、再処理工場の近くにこういう小さな核変換サイクルとADSを4基置く、そんなイメージでこの階層型の分離変換技術を捉えていただければいいかと思います。
P16) これがADSの概略仕様です。このようなタンク型の高速炉と非常に似ているのですけれども、中心に陽子ビームを導入するビームダクトがあります。鉛ビスマスはポンプで入れまして、炉心の下から入っていって、冷却して、蒸気発生器に直接導かれて、蒸気を発生させて、冷えたものがまたポンプに戻っていくというタンク型のものです。鉛ビスマスはナトリウムと違いまして、化学的に非常に不活性ですので、こういう1次系の中に直接蒸気発生器を入れることが可能だと考えております。入り口温度、出口温度を300℃(入り口温度)、407℃(出口温度)とかなり低めに設定していますのは、鉛ビスマスは材料への腐食性がありまして、余り高い温度だとそれが問題になってくるということで、こういう低い温度を設定しております。最大のkeff=0.97ということで、未臨界を常にキープすることが必要になります。
 燃料組成としましては、ウランを含まないマイナーアクチノイドとプルトニウムの窒化物プラス、ジルコニウムナイトライド。ジルコニウムナイトライドは、燃料の濃さを調整するための希釈剤として考えております。
 核変換効率は、毎年10%ぐらいで、大体2年間連続照射して取り出す。ですから、取り出したときは20%のマイナーアクチノイドが核変換していて、次にそこで核変換した20%分のマイナーアクチノイドを加えてやるというサイクルになっていくわけです。
P17) ADSの研究開発の現状ですけれども、FBRと非常に似ているということで、その技術を応用しつつ、多岐にわたる研究開発が必要になってまいります。
 これは鉛ビスマスの技術ですけれども、FBR開発で培った液体金属技術、可視化、計測、純度管理等ですけれども、こういうことを応用しながらこの技術を開発していく必要があります。
 それから、超伝導加速器の技術も非常に重要になっていまして、高い加速電界の達成は確認できていますが、引き続き信頼性の高い加速器の開発が重要なポイントだと考えております。
 それから、ADSで工学的に非常に重要な場所がありまして、それはビーム窓と呼ばれているところです。陽子ビームが入ってきて、こちら側は真空に引かれていますが、こちら側は鉛ビスマスが流れている、この領域を分ける窓が必要になってきます。これは非常に過酷な環境、陽子、中性子で照射されて、それから鉛ビスマスに常にさらされているという過酷な環境で使われますので、交換部品だと考えていまして、これをどれぐらいの頻度で交換しないといけないかという寿命の評価が非常に重要なポイントだと考えております。
 それから、我々はまだ未臨界でパワーの出る原子炉を運転した経験はありませんので、そういう運転制御の経験とか、あるいはマイナーアクチノイドの鉛を使った炉を我々は持っていないわけで、そういう核データの検証まで必要だと考えています。
P18)その他、核変換用のサイクルの研究開発も必要になります。
 先ほど申し上げましたように、ナイトライド、窒化物を我々は選んでおりますが、ヨーロッパでは酸化物の分散型燃料で、ウランを含まない燃料を開発していまして、我々とお互いに情報交換しながら相補的に進めているところですけれども、窒化物は、プルトニウム、ジルコニウムのナイトライドはこういうペレットをつくることが可能で、これを照射したりしていますけれども、アメリシウムをたくさん含んだものはまだペレットまで行けていないです。これは、マイナーアクチノイドを扱う施設がまだ非常に小さなものを使う許可しかとれていないということで、行く行くはこういうペレットにして照射していくことが必要になってきます。照射試験そのものは外国の炉では行われたりしています。
 それから、この照射試験の後、使用済み燃料の処理も必要で、我々はこれを乾式処理、高温化学処理で行おうと思っていまして、電解して、それを回収して、また次のペレットをつくってやるという一連の操作について、ウランとプルトニウムが入ったものに関しては成功しているという状況にあります。
P19) それから、ADSに関しまして非常に重要な研究開発をやるフィールドを持ちたいと思っていまして、これがJ-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex 大強度陽子加速器施設)を使った研究開発になります。核変換実験施設の建設予定地ということで、ここに空地がありまして、LINAC(線形加速器)からの陽子ビームを導いて、ここで実験をしたいと思っております。
P20) その施設の概要ですけれども、2つの施設で構成しようと考えておりまして、右側はADSターゲット試験施設(TEF-T)と呼んでいます。Tというのは、TargetのTです。大強度陽子ビームでの核破砕ターゲットの技術開発及び材料の研究開発をするということで、こちらは250kWの陽子ビームを導入します。ただし、こちらでは核燃料は用いないで、専ら核破砕ターゲットの試験開発を行おうと考えております。
 一方、こちらは、10Wという非常に出力の小さなビームですけれども、核燃料を用いて、あるいはマイナーアクチノイドも大量に用いて、核変換システムそのものを模擬したいと思っています。低出力での未臨界炉心の物理的特性の探索、ADS運転制御性の蓄積、こういうことをやっていきたいと思っております。
P21) ADS実現に向けた道筋ということで、今、我々は、ベルギーで考えられている実験炉級のADSとの連携を考えております。このMYRRHA(Multi-purpose Hybrid Research Reactor for High-tech Applications)と呼ばれているベルギーのシステムは、2.4MWという非常に大きな陽子ビームと、50~100MW規模の熱出力を持つ本格的なADSですが、燃料に関しましてはマイナーアクチノイドを含まず、通常のMOX燃料を使うシステムになっています。鉛ビスマス冷却のものです。我々が考えているJ-PARCの核変換実験施設と、このMYRRHAをうまく連携させて、2030年ごろまでには次の段階に進めるかどうかを判断できる、そういうデータとか経験を蓄積していきたいと思っています。
 この次のステップとしては、もう実用のADSプラントということになります。出力規模は、先ほど言いましたように800MWですから、大体もんじゅと同じような熱出力の規模のものが実用になります。その前のこの規模は、大洗にあります常陽と同じような規模です。そして、我々がここで用意しようとしているJ-PARCのものは、東海にあるFCA(Fast Critical Assembly)と似たような規模のもの。この2つを組み合わせて3つ目の実用につなげていきたいと考えているわけです。
P22) 以上をまとめますと、エネルギー基本計画とかもんじゅ研究計画、群分離・核変換技術評価作業分会の見解に基づきまして、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減を目指した研究開発を計画的に取り組んでいこうと考えております。
 ここで重要なのは、高速炉サイクル利用型と階層型(ADS)が連携して一体的に研究開発を推進していきたいと考えています。
 それから、ついつい核変換のほう、高速炉とかADSの開発に注力してしまうのですけれども、この技術を実用化しようと思いますと、分離とかMA燃料の製造とか再処理という核燃料サイクル技術の研究開発が非常に重要です。ところが、先ほど申し上げましたように、マイナーアクチノイドなどの放射性物質の取り扱い能力がまだまだ低いということで、これを増強して技術基盤を充実していきたいと考えております。
 我が国は、世界の国々と連携してこの分野の研究開発におきまして主導的役割を果たすことで、持続的に社会に受け入れられる原子力の利用に貢献していきたいと考えております。