第11回 原子力機構報告会
「我が国の将来を担う原子力技術と人材」

個別報告 ふくしまの復興に向けて -廃炉及び環境回復に係る研究開発と人材育成- (テキスト版)

個別報告
ふくしまの復興に向けて
-廃炉及び環境回復に係る研究開発と人材育成-
福島研究開発部門 福島研究基盤創生センター所長 中山真一

福島研究開発部門の中山と申します。よろしくお願いいたします。

福島の復興、廃炉と環境回復に関するJAEAの研究開発及び同時に取り組んでおります人材育成について御報告申し上げます。

〔パワーポイント映写。以下、場面がかわるごとにP)と表示〕

P) まず初めにオフサイトとオンサイトの現状、最近の情勢を簡単に紹介しまして、その後、廃炉に向けた研究開発、環境回復に向けた研究開発、そしてそれらの研究開発に必要な基盤の整備と人材の育成についてお話しいたします。

P) 最近の情勢。

P) まずオフサイトでございますけれども、この絵の左側は避難の状況でございます。事故の後に避難指示を受けて、あるいは自主的に避難された方は合計16万人を超えておりました。それ以降、事故後5年8カ月たちましたけれども、それまでに新しい地に移られた方や帰還された方がおられまして、ことしの7月の段階で避難されている方は約8万9,000人となってございます。

右側の絵はよくごらんになる絵かと思いますが、緑色に塗られた避難指示解除準備区域と、黄色で塗られた居住制限区域で徐々に解除が進んでおりまして、最も最近解除されましたのは、この絵の右上の南相馬市、今は全体が白く塗られておりますけれども、ここが緑色だった部分と黄色だった部分で避難が解除されております。それが7月でございました。次に解除されますのが、ここに赤字で書いてありますが、飯舘村と川俣町が来年3月に解除予定でございます。

P) このスライドと次のスライドで、大急ぎではございますけれども、福島第一原子力発電所、1Fのサイトの事故当時と現在を写真で示しています。この写真は、爆発を起こしました、左側が1号機、右側が3号機の様子でございます。

P) その次のスライドは、左側は4号機の様子で、見えますフレームは使用済燃料をプールから移動させるために設置したものでございます。右側は、これもよく見られる写真かと思いますけれども、汚染水タンクの写真でございます。先月10月後半の段階でタンクは約880基、タンク群と言われておりますが、汚染水の量は総量で約93万m3に達してございます。

P) さて、こうした福島のオンサイト、オフサイトの今後に対するJAEAの取り組みでございますけれども―

P) この絵は、横軸に年を示しまして、1Fの廃炉作業、それからオフサイトの避難指示準備区域の解除の期間を示しまして、その下にJAEAの研究開発拠点の整備状況を重ねて示したものでございます。

国のロードマップによりますと、廃炉は現在第2期にありまして、平成33年予定の燃料デブリの取り出し以降、30~40年にわたる第3期が始まります。

オフサイトのほうでは、2017年度、来年度までに避難指示区域の解除、先ほどの地図の絵で黄色と緑の部分の解除の完了を目指しています。

これらに対応するために、JAEAでは必要な拠点の整備を進め、順次稼働させるわけでございますけれども、この絵にありますように、それは同時に、今後とても長い期間にわたって人材を確保・育成していく必要がございます。

P) したがいまして、JAEAにおける研究開発というとき、それは廃炉に向けて、あるいは環境回復に向けてどのような研究や技術開発を行っていくかということともに、基盤を整備しまして、そこを使って人材を育成していくということも役割の1つと考えております。

P) これは福島県の地図の上にJAEAの現在の活動拠点を示したものです。御存じのように、福島県はJAEAの本拠地であります茨城県の北隣に隣接する県ではございますが、1F事故まではJAEAの拠点はございませんでした。事故直後に福島市を拠点として環境除染の試験に取りかかったのを初めとして、現在は福島市といわき市に事務所を構え、それ以外に建設中も含めて5カ所の研究開発拠点がございます。環境の研究開発は、緑で示しております三春町と南相馬市にあります福島県の環境創造センターに同居して活動を続けています。廃炉に関しましては、いわき市の事務所を北上しまして、楢葉、富岡、大熊に研究開発拠点を整備中であります。

P) こうした研究開発拠点において、また茨城県内の東海地区とか大洗地区にあります既存の施設を利用して、国の中長期ロードマップの実現に向けて、まず廃炉でございますけれども、この下に赤字で示していますように、燃料デブリの取り出しとか放射性廃棄物の処理処分に必要な性状把握のための研究開発などを進めてございます。

P) 研究開発の中味を個別にお示ししようとしますと、このように大変細かい、見にくいスライドになって恐縮でございますけれども、研究開発機関として、基礎基盤と言われる研究から、より応用に近い研究開発まで取り組んでございます。

3つの絵のうち、一番左側は、原子炉建屋内の瓦れき中のストロンチウム90とセシウム137の放射能の関係を調べたものでありまして、こういったデータは、廃棄物の処理処分の方法を考える上で直接的に用いられるデータになります。

真ん中の絵は、燃料デブリなどの特性評価のためにレーザーを光ファイバで導いて行う分光分析法の技術開発の絵を示してございます。

右側は、炉内の放射線量率分布の予想です。先ほどの大井川の絵にもあったと思いますけれども、燃料デブリを取り出す作業を行うためには炉内の線量率分布を知らなくてはいけないのですけれども、まだ燃料デブリに近づけていませんので、詳細なデータはありませんが、これまでに得られている限りのデータと線量評価モデル―線量評価モデリングはJAEAはかねて得意とするところだと思いますが、その分布をモデルであらかじめ評価しておくというようなことにも取り組んでいます。

P) もう一枚、このスライドでは、先ほど申し上げました汚染水、今も蓄積しています汚染水に関する研究開発の成果を取り上げています。

特に汚染水に関しましてはJAEA内でタスクフォースを立ち上げまして、いろいろな分野の専門家が集まって、幾つかの課題に横断的に取り組みました。

左側は、プラスチックシンチレーションファイバというロープ状の放射線検出器でありまして、もともとは環境中の非常に広い面積に対して2次元で放射線測定を行うために開発されたものでございますけれども、これを汚染水タンクの排水路にはわせるように設置しまして、現在、連続モニタリングを行っております。

真ん中の成果は、多核種除去設備で廃棄物容器から水が溢水するという事象があったのですけれども、それはどうやら放射線照射を受けて発生した水素によって水位上昇が起こったことが原因らしいということを実験で示したものです。

右側は、港湾内放射性物質動態解析と言われるもので、排水口を通じて汚染水が港湾内に流れ込んだとして、その後の分布を計算できるプログラムを開発したということでございまして、潮の満ち引きなども考慮して計算することができます。

P) 一方、オフサイトの環境の活動でございますけれども、先ほど申し上げましたように、JAEAは事故直後に環境除染の試験に取りかかりました。そのときには、例えば避難指示があった12市町村を含む非常に広範囲の放射線量率の測定とか、田畑とか住宅地の除染などのように、各市町村に共通の課題に対応してまいりましたけれども、除染が少しずつ進み、自治体によっては避難指示が解除されて帰還が視野に入ってまいりまして、現在は、これも細かくて見えないと思いますが、右下にあるように、各市町村からのニーズに対応するように、自治体スペシフィックなニーズへの適用へと活動がシフトしています。

例えば左上の環境モニタリングマッピングでいいますと、農業用のため池が福島県内で2,600以上あると聞いていますけれども、その農業用ため池の底にセシウムが沈んでおりますので、そのセシウムの濃度や分布を調べるために技術が適用されています。

それから、左下の除染減容化に関しましては、どの場所をどの程度に除染すればそのあたりの空間線量率がどの程度下がるのかということを、これまでの経験値をインプットしてあらかじめコンピュータで評価できるというシステム、RESETと書いてありますけれども、そういったものを各自治体において適用して除染を進めようとしています。

それから、一番左下にセシウムの粘土鉱物への吸脱着機構の解明というのがありますが、これは私の報告のすぐ後に矢板から報告がありますが、膨大な汚染土壌の体積を減らすために、粘土鉱物とセシウムとの関係にまで着目した基礎的な研究も行っております。

それから、右上の環境動態研究では、福島県内に太平洋に流れ込む川は20ぐらいあると思いますが、個々の河川とかダムを対象にしてセシウムの動きを機構論的に解明して、将来予測に役立てようという研究が継続されています。

これらのやや詳細な説明は、皆様のお手元のこの後のスライド数枚に説明してあります。ここでの紹介は割愛させていただきますけれども、御参考になさってください。

それから、1つだけ、このページに書いていないことをつけ加えますと、先ほど避難指示が順次解除されると申し上げましたけれども、解除されるといっても住民の方は戻った後の被ばく線量が心配です。ですので、住民の生活パターンに合わせた行動経路の空間線量率を測定し、その数値でもって被ばく線量を個々人の行動パターンに合わせて評価するというような作業もJAEAでは行っておりまして、その結果を自治体とか住民に提供し、説明するという活動も行ってございます。

P) そのオフサイトに関する研究開発を行っている拠点ですが、この写真は、左が三春と南相馬にあります福島県の環境創造センターの写真です。4カ月前の7月に行われましたオープン記念式典の様子です。これは福島県の三春町にありまして、国立環境研究所もここに活動拠点があります。ですから、この拠点は、福島県と国立環境研究所とJAEAの三者が協力するポイントになっております。

P) 一方、オンサイトのほうですが、廃炉研究につきましては、先ほど申し上げましたように、楢葉町、富岡町、大熊町に拠点を整備してございます。この写真は、昨年秋に楢葉町に開所しました遠隔技術開発センターです。例えば、燃料デブリを冠水工法で取り出すには原子炉下部の漏水をとめなくてはいけないのですけれども、非常に放射線量が高いので遠隔技術が必要であるということで、遠隔技術の開発をしているセンターです。実物大の模型、モックアップ試験体というのを備えて、国際廃炉研究開発機構IRIDが実証試験を行っています。一方、JAEAは、こういったバーチャルリアリティシステムというのを装備しまして、現在、2号炉の中味を再現しているわけでございますけれども、そのようにソフト面から遠隔技術開発とか作業訓練に役立てようということをしてございます。

P) もう一つ、大熊の施設です。これは建設に取りかかったばかりでございますが、1Fサイトの放射性廃棄物の処理処分のために、瓦れきなどの放射性廃棄物の分析、それから燃料デブリの特性評価を行うためのデータを取得するために整備しております分析・研究センターでございます。1Fサイトに隣接して建設されまして、先々月、9月に最初の建屋の起工式を行いまして、建設に着手したばかりです。ロードマップによりますと2021年に燃料デブリが取り出されますので、それに間に合うように完成することを目指してございます。

P) さらにもう一つ、富岡町に研究棟、廃炉国際共同研究センターという組織の国際共同棟を建設中です。

このように、現在、次々と研究開発拠点が整備されているわけでございますけれども、この絵にありますように、福島研究開発部門における研究開発は、この廃炉国際共同研究センターが核となりまして、JAEA内に向けては、今申し上げました楢葉センターとか大熊のセンター、そして東海地区、大洗地区にある既存の研究施設を使って研究開発を行っていく。環境開発に関しましては、これまでに蓄積した知見を吸収・活用していく。

それから、JAEAの外に向けましては、産学官と連携・協力しながら研究開発を進める拠点としての役割をこの廃炉国際共同研究センターが有しております。

P) 大井川の発表にもありましたように、そして私も先ほど申し上げましたように、研究を行うには、研究基盤、場所をつくりまして、そのための人材の育成が非常に重要でございます。

廃炉に係る人材の育成につきましては国レベルでも取り組まれておりまして、例えば文部科学省は、「廃止措置研究・人材育成等強化プログラム」という事業を実施していますけれども、JAEAでは、この事業に採択された大学などとともに「廃炉基盤研究プラットフォーム」というものを設置してございます。この廃炉基盤研究プラットフォームというのは、大学とか研究機関が有するシーズと事業者が有するニーズを出会わせる媒介的な場でありまして、ここにおいて必要な研究課題の開発とか情報の共有を行っています。これによって大学などを大いに廃炉研究開発に引き込んで、研究分野の裾野を広げ、R&Dを行っていく中で若い人材を確保し、育成しようと考えています。

P) それから、この廃炉基盤研究プラットフォームのイベントの1つとして、国際ワークショップ、福島リサーチカンファレンス―FRCと呼んでおりますが―というのを設けています。これは、御存じの方もあるかもしれませんが、世界的に有名なゴードンリサーチカンファレンスを思い浮かべたものですけれども、廃炉にかかわるあらゆる研究を題材に、世界の研究者を集めて議論をする場を設置しています。実はきのうも、参加された方があるかもしれませんけれども、福島県のいわき市で第3回の福島リサーチカンファレンスの一環としての会議を廃棄物に関して開きました。ただし、ゴードンリサーチカンファレンスと違いまして、選ばれた者だけが招待されるというものではございません。福島リサーチカンファレンスはどの方にもオープンですので、アナウンスを受けられた方はぜひとも参加していただきたいと思います。この福島リサーチカンファレンスを通して国際的なつながり、ネットワークをつくりまして、廃炉に関係する人材を世界に求めようということでございます。

それから、下の2つの写真は、既に開所しました楢葉遠隔技術開発センターでの大学など外部機関の利用の例を示しています。ロボットに関していえば、来月12月3日、この楢葉遠隔技術開発センターで、福島工業高等専門学校が中心となって、工専による廃炉ロボコンというのが開催されます。これによって高専生が廃炉技術開発に参画する機会と考えてございます。

P) 人員とか人材の育成に関しましては、当面の喫緊の課題は、先ほど申し上げました大熊に整備する分析・研究センターでの分析に係る技術者です。猛烈に強い放射線を放つサンプルを分析するには相応の技術が必要であります。それから、得られたデータの品質の保証についてもプロの専門家が必要と考えています。大熊の施設が稼働しました後はJAEA内外から100名の技術者が必要と考えています。

P) JAEAは放射性物質の分析に関しては豊富な経験を有しておりまして、これまでにたくさんの技術者を生み出してきたとは思いますが、それでも足りないと予想している状況です。

JAEAが分析技術者を必要としていますのは、福島部門のためだけではございません。研究開発機関として、これも先ほど大井川から話がありましたが、これからJAEAが有しているたくさんの研究施設が老朽化して、廃止措置の段階を迎えています。廃止措置に伴って発生する廃棄物の管理のためにも分析技術者が必要となってきます。

つまり、分析技術者の確保・育成はJAEAを挙げての課題でありまして、これは新人を採用するとか経験者を中途採用するだけではとても間に合わずに、JAEA内で分析技術者育成のための新たな体制を検討しているところでございます。

それから、このスライドの左下の2番目に分析施設・設備の確保及び管理と書いてありますけれども、分析人員を育成する上で、廃止措置によって施設がなくなっていくということは、実地体験をする場所がなくなっていくという意味で非常に問題であります。ですから、先ほどの分析技術者の育成の体制を考えるときには、施設の維持とか統廃合もあわせて考えていかなくてはいけないということになってございます。

さらにもう一点申し上げると、大熊に施設をつくるわけですけれども、実は、JAEAはあのクラスのホット施設をかなり長いことつくった経験がございません。ですので、本格的な運用をする以前に、ホット施設の設計とか建設とか安全評価の経験者が現在かなり少なくなっております。そういう意味で、大熊施設を経験することでJAEAの今後の関連の技術継承につなげられないかと思っているところでございます。

P) 以上、大変な駆け足で失礼いたしましたけれども、福島の復興に向けてのJAEAの研究開発、基盤整備、そして人材育成の取り組みについて、それぞれ紹介させていただきました。

今後とも皆様の御理解・御支援をよろしくお願い申し上げます。

ありがとうございました。