日頃より原子力機構メールマガジンを御愛読いただきましてありがとうございます。
今回は、高崎量子応用研究所から御挨拶させていただきます。
当研究所は、縁起達磨で有名な群馬県高崎市の南部に位置し、昭和38年、日本原子力研究所の高崎研究所として設置されました。高崎市は古くから商業都市として栄え、現在は、上信越方面の新幹線が止まり高速道路のインターもあって交通の便がとても良いところです。
当研究所では、電子線、ガンマ線、イオンビームの量子ビームを照射する施設を用いて、主に燃料電池電解質膜などの機能性材料の開発、有用新品種植物の創出などのバイオ技術・医療応用、有用・有害金属捕集材などの環境・資源技術の開発が展開されています。産業界や大学等と連携した共同研究、照射施設の施設共用などを通じて社会のニーズを踏まえた研究開発を推進しています。
現在、当研究所には約230人が勤務しています。研究所の敷地(約31万m2、東京ドーム7個分)は、隣接する県立公園「群馬の森」とともに緑豊かなところで、毎年4月、桜の花が満開の頃に「花と緑の見学会」を催し周辺から多くの皆様にお越しいただいております。
高崎量子応用研究所 総務課 照沼 佳尚
今回の「研究開発現場から」は、先端基礎研究センターです。
陽電子は、正の電荷をもつ電子の反粒子で、電子と出会うと消滅し、消滅ガンマ線を発生するという特徴があります。また物質中に入った陽電子には、原子が抜けた穴(原子空孔)に捕獲されやすく、そこで消滅しやすいという性質があります。このとき陽電子が発する消滅ガンマ線を高精度に測定すると、物質内にある原子空孔のサイズや状態などを、高感度かつ非破壊に測定できます。これを陽電子消滅法といい、物質内の原子空孔を直接的に検出できる評価手法として広く用いられています。
陽電子を物質に注入する方法として、従来から陽電子ビームが用いられてきました。しかし、放射性同位元素を用いたビーム発生法では強度が限られており、発生ビームの質も良くないものでした。そのためビームを細く絞ることが困難で、材料の特定の部位のみを選択して測定することは不可能でした。そこで我々のグループでは、従来よりも高品質な陽電子ビームを発生できる陽電子発生装置を新たに開発し、これと高性能な磁気レンズを組み合わせることで、陽電子ビームを最小1.9ミクロンまでに収束する技術を開発しました。これにより、特定部位の原子空孔の評価や、面内分布の取得が可能となる陽電子顕微鏡を構築しました。
陽電子顕微鏡を用いることで、材料の劣化を原子空孔という最も微細な原子レベルでの観点から診断できるようになります。原子炉内部は高温・高圧・放射線下という過酷な環境にあるため、強度が高く腐食しにくいステンレス鋼が多く用いられていますが、まれに応力腐食割れにより亀裂が発生することがあります。原子炉の安全性をさらに高めるためには、亀裂の特性を原子レベルで解明することが必要だといわれています。そこで陽電子顕微鏡を用いて、応力腐食割れを生じたステンレス鋼の亀裂を観察しました。この結果、通常の光学顕微鏡で観察できる亀裂の先端よりも、さらに離れた部位において原子空孔様の欠陥が存在することが分かりました。亀裂は、この部位を優先的に進んでいくと考えられます。これは、ステンレスの応力腐食割れにおいて、亀裂の進展に原子空孔が関係していることを示した世界で初めての結果です。このように、陽電子消滅法は、原子空孔のような通常の光学顕微鏡観察や電子顕微鏡による観察では検出できない微細な欠陥に対する情報を提供できると考えられます。
先端基礎研究センターホームページ → http://asrc.jaea.go.jp/
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