平成20年9月19日
独立行政法人日本原子力研究開発機構

家庭用燃料電池に最適な高耐久性電解質膜の開発に成功
−「放射線グラフト重合」技術を用いて相反する電池膜特性の課題を解決−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄、以下「原子力機構」)は、放射線グラフト重合1)技術を用いて高温でも高い導電性2)と膜強度3)を併せ持つ高分子電解質膜4)の開発に成功し、世界に先駆けて家庭用燃料電池5)に要求される発電特性と耐久性をクリアすることに成功しました。

これは原子力機構量子ビーム応用研究部門高導電性高分子膜材料研究グループの前川康成リーダー、浅野雅春研究主幹、陳進華研究副主幹らによる研究成果です。

電解質に高分子薄膜を使用した固体高分子型燃料電池は小型・軽量化が実現できるなど多くの利点があることから、家庭用燃料電池の本格普及に向けて精力的に研究開発が進められています。しかし、従来の高分子電解質膜は、導電性に優れるものの高温・低湿度環境では非常に脆弱であるという問題があり、高温・低湿度条件下での作動が必要とされる家庭用燃料電池や自動車用燃料電池に適用することが困難でした。

今回、原子力機構が独自に開発した熱グラフト重合と放射線グラフト重合を組合せた技術(熱・放射線2段グラフト重合技術)を、耐熱性や膜強度に優れた芳香族炭化水素高分子電解質膜に適用することで、高温でも高い導電性と耐久性を併せ持つ電解質膜を製作することに初めて成功しました。

開発に成功した電解質膜は従来品と比較して導電性が1.5倍、膜強度が2.3倍向上しており、この電解質膜を燃料電池セルに組み込んで発電試験を実施した結果、家庭用燃料電池に求められている作動条件(80℃)で4万時間以上の安定運転を達成しました6)。この電解質膜は、低湿度条件でもほとんど劣化しないことから、昨今の環境問題から早期実用化が待たれる燃料電池車の開発にも貢献可能です。

今後は産業界とも密接に連携し、さらに厳しい条件下においても高い導電性と膜強度を有する高分子電解質膜の開発を進め、量産化技術の確立など実用化に向けた研究開発を推進します。

なお、本成果は、9月24日〜26日に大阪で開催される高分子学会討論会において発表予定です。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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