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第22回 「原子力災害対策の標準化について」(平成27年4月)

 東日本大震災後に中央防災会議は、多様な主体が活動する災害時において、各主体の連携が円滑に行われるとともに、全体として効率的な活動が行われ、災害の種類や規模に関わらず対応できるよう、災害対策の標準化を推進しています。今回は、この標準化の考え方に基づいた原子力災害対策の標準化について考察します。

1. 中央防災会議における災害対策の標準化

 東日本大震災後、中央防災会議は防災対策推進検討会議を設置し、2012年7月の最終報告の中で災害対策の標準化について以下のように提言しました。
 国と地方公共団体間、地方公共団体相互間の広域応援を総合的かつより円滑に実施するため、可能な範囲で災害対応業務のプログラム化、標準化を行うべき。

 原子力災害対策においても繰り返し行われる定型的な業務について標準的なプログラムを作成し、関係者間で共有しておくこと(プログラム化)が重要となります。この点については、後述する内閣府の災害対策標準化検討会議の報告書に説明があります。(図1参照)



図1.定型的な業務の標準化(プログラム化)(災害対策標準化検討会議報告書より)

 また、自然災害や事故災害(原子力災害を含む)は異なる特徴を有し、個々の災害対応に特有の部分(特殊性)がある一方で、どの災害対応にも共通する部分(一般性)もあります。表1に原子力災害と地震災害を例示しますが、この共通部分を標準化することにより、多様な主体が活動する際に各主体の連携が円滑に行われるとともに、全体として効率的な活動が行われ、災害の種類に関係なく対応が図られるようになります。

表1.災害対応で共通する部分の標準化


 中央防災会議の報告を受けて、内閣府は災害対策標準化検討会議を設置し、2014年3月に以下の内容を含む報告書を公表しました。 
〇 「災害対策標準化ガイドライン」を中央防災会議が作成すること
〇 災害対応主体等の実情に応じ、このガイドラインの普及啓発を図ること
〇 必要に応じ、法令・防災計画に反映し災害対策の標準化を推進すること
〇 標準化推進のための研修・訓練等のあり方について検討すること

 現在、この報告書を受けて、中央防災会議のワーキンググループでは、各活動主体が標準化を推進するための「災害対策標準化ガイドライン」の素案の作成を進めています。同素案の公表後は、原子力災害対策においても標準化を推進すべきと考えられます。
 また、この報告書では同ガイドラインを以下の3つの項目案で構成するとしています。
 Ⅰ 災害時等における業務実施・継続に関する事項
 Ⅱ 災害対応業務に関する事項
 Ⅲ マネジメントに関する事項
 上記の「Ⅱ 災害対応業務に関する事項」では、災害の規模、種類等を問わず、各活動主体が実施する標準的な業務を災害フェーズに合わせて活動計画として作成し、関係者間で共有しておくことが必要であるとしています。また、上記の「Ⅲ マネジメントに関する事項」では、以下の指摘があります。
〇 改善計画の作成、推進
 防災計画、業務実施・継続計画や災害対応業務プログラム、情報処理、資源管理等の改善について、可能な限り数値目標、期限、予算等を記載した計画を策定し、トップが関与するPDCAサイクルを通じて、目標による管理を徹底する。(以下、一部抜粋)
 ・訓練等を通じた実践的な災害対応のあり方の見直し
 ・用語、表記、データ、システム等の標準化
 ・要員確保、関係装備、資機材、備蓄物資等の整備充実、標準化
 ・その他標準化推進に必要な事項

このため、原子力災害対策においても、用語、表記、データ、システム等の標準化や要員確保、関係装備、資機材、備蓄物資等を標準化するとともに、他組織を含めた訓練等を通じてこれらを継続的に改善すること(PDCAサイクルに基づく目標管理の徹底)が望まれます。

2. 原子力災害対策のプログラム化と標準化

(1) 原子力災害対策の特殊性と一般性

 原子力災害対策指針では、原子力災害対策の特殊性と一般性を以下のように示しています。
(3)原子力災害の特殊性
 原子力災害では、放射性物質又は放射線の放出という特有の事象が生じる。したがって、原子力災害対策の実施に当たっては、以下のような原子力災害の特殊性を理解する必要がある。・・・(中略)・・・
 ただし、情報連絡、住民等の屋内退避・避難、被災者の生活に対する支援等の原子力災害対策の実施については、一般的な防災対策との共通性又は類似性があるため、これらを活用した対応のほうが効率的かつ実効的である。したがって、原子力災害対策は、上記の特殊性を考慮しつつ、一般災害と全く独立した防災対策を講じるのではなく、一般的な防災対策と連携して対応していく必要がある。

 原子力災害対策指針及び中央防災会議が推進する災害対策の標準化の考え方に従えば、原子力災害対策においても、情報連絡、住民等の屋内退避・避難、被災者の生活に対する支援等について、標準化の対象となることが分かります。

(2) 原子力災害対策の法律上の基本構造

 原子力災害対策の標準化を考えるために、原子力災害対策の法律上の構造を簡単に整理しておきます。原子力災害対策では、災害対策基本法(以下、「災対法」という。)及び原子力災害対策特別措置法(以下、「原災法」という。)に基づいて、原子力災害予防対策、緊急事態応急対策、原子力災害事後対策等が行われます。このときの災対法と原災法の関係は図2のようになります。



図2.災対法と原災法の関係

 即ち、原子力災害対策は、災対法をそのまま適用する規定と原災法の規定により字句を読み替えて適用する災対法の規定を基本骨格として、これに原子力災害で特有の対策を組み込むため、災対法において、この特有の対策と並立できない規定を適用除外して、原災法で新たな規定を設けて対応する仕組みとしています。
 したがって、災対法をそのまま適用する規定と字句を読み替えて適用する災対法の規定は、標準化の適用範囲と考えられ、自然災害に関して標準化している業務を、そのまま又は修正して、原子力災害においても適用することが可能です。また、原災法で新たな規定を設けて対応する仕組みの中でも、繰り返し行われる定型的な業務についてはプログラム化の適用範囲と考えられます。

(3) 原子力災害対策における標準化の推進

① 防災計画を基点とするPDCAサイクル
 原子力災害対策においても、PDCAサイクルによる目標管理が重要となります。原子力災害対策において、国の各省庁等は防災業務計画を、地方公共団体は地域防災計画(原子力災害対策編)を、原子力事業者は原子力事業者防災業務計画をそれぞれ作成し、毎年検討を加え、災害事例の発生、訓練の成果、新たな防災技術の進展等を反映し、必要があると認めるときはこれらの計画を修正し、継続的な改善を行うことが法的にも義務付けられています。
 図3のように、これらの計画の作成、実施、毎年検討(評価)、修正(改善)の一連の仕組みが、原子力災害対策におけるPDCAサイクルの推進源となっています。



図3.原子力災害対策におけるPDCAサイクルの推進

 したがって、原子力災害対策の標準化にあたっては、これらの計画類に災害対策標準化マニュアルの内容を反映することが望まれます。
特に、緊急事態応急対策等を現地で実施する地方公共団体の地域防災計画は重要で、内閣府と消防庁は、その標準的な作成マニュアルを以下のように整備し、その作成及び改訂の支援を行っています。
 〇地域防災計画(原子力災害対策編)作成マニュアル(県分)
 〇地域防災計画(原子力災害対策編)作成マニュアル(市町村分)

 今後は、この災害対策標準化ガイドラインの内容をこの地域防災計画作成マニュアルに反映するとともに、各地域で整合の取れた計画として、広域一時滞在や広域支援等においても、国と地方公共団体間、地方公共団体相互間で円滑な対応を図れるようにすることが重要です。

② 訓練等による継続的改善の推進
 原子力災害における被害は極めて大きく(大被害)なる可能性があるものの、その発生頻度は自然災害に比べて低い(低頻度)ため、この対応能力の維持・向上には効率化という視点が不可欠となります。図4に災害の発生頻度と被害及びこの対応能力の維持・向上の手段との関係を模式的に示します。



図4.災害における被害と発生頻度及びこの対応能力の維持・向上の手段との関係

 図4において、原子力災害は低頻度という特徴により、実際の災害対応経験は稀で、この対応能力の維持・向上の手段は訓練が主体となります。また、大被害という特徴により、広域で多様な機関が一致団結してその対応に当たる必要があり、訓練においても特に連携の部分(共通部分)が重要となります。
 したがって、このような特徴に合わせるためには、原子力災害対策のマネジメントにおいて、標準化とプログラム化を図り、効果的な訓練等による継続的改善を効率的に推進すること(PDCAサイクル)が重要です。
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