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第21回 「運用上の介入レベル(OIL)について」(平成27年1月)

 今回のテーマは緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)における防護措置実施の基準である運用上の介入レベル(Operational Intervention Level:OIL)の考え方です。本題に入る前に前回までに紹介した基準等の概要のおさらいから始めます。
 我が国やIAEA等では、事故発生後の速やかな対策の実施が重要であるとして、予め、原子力災害に特有の対策を実施しておく範囲を2種類定めています。
 より原子力発電所に近い範囲(PAZ)では、大量の被ばくはさせない(確定的影響の回避)との考え方に基づき、原子力発電所が予め定めた放射性物質の放出に至る可能性のある状態に該当する(EALに基づき全面緊急事態と判断される)場合、放射性物質の大量放出前に避難することを原則としています(詳しくは第5回、第10回、第17回をご参照下さい)。
 一方、今回のテーマの対象となるPAZの外側に設けられた範囲(UPZ)では、少量の被ばくは甘受するものの被ばくによる健康影響と対策実施のデメリット等の両者を鑑みて対策の実施が望ましいかの判断を行います(放射線防護の原則:正当化)。ただし、その際には、被ばく量を合理的に可能な範囲で最小限に抑えることが求められており(放射線防護の原則:最適化)、これらの原則によって、被ばく量を最小限に抑える(確率的影響の低減)としています(具体的な防護措置の選択等の考え方については、前回(第20回)をご参照下さい)。
 この対策実施の要否を各地区の環境状況に応じて、速やかに判断するために設けられた基準が、OILです。そのため、OILは屋外での放射線量率の測定や飲食物の分析等の測定結果と直接比較して判断できるようになっています。具体的には、我が国では原子力災害対策指針において、使用目的に応じた数種類のOILが設けられています(表1)。なお、IAEAにおけるOILの値[1]は参考に記載したもので、正確な比較のためには基準の適用方法や実施する防護措置の内容等も併せて考える必要があります。

表1.IAEA及び原子力災害対策指針におけるOIL(概要)

 OIL1、2のような放射線による人体への直接的な健康影響を踏まえた避難等実施の基準、OIL4のような体表面等に付着した放射性物質の除染基準(人体への健康影響低減及び汚染の拡大防止の両者)、OIL3、5、6のように飲食物に含まれる放射性物質による内部被ばく防止のため、飲食物の流通や摂取を防止する基準があります。なお、OIL5は我が国では示されていません。これはOIL6に必要な詳細な分析(核種分析等)は限られた機材が必要かつ時間がかかることから、IAEAが分析数を低減するためにOIL5を設けたのですが、我が国では全てOIL6に基づき核種分析等を行うことが可能であるためです[2]。
 ここで防災業務に携わる方々に知っておいて頂きたいのが、これらの基準はどの程度、厳密なものなのかということです。当然、定められた基準は可能な限り守るべきものですが、災害時の予期しない状況に柔軟かつ合理的に対応していくためには、基準の背景を知っておく必要があります。ここでは、OIL1、2のような空間線量率[Sv/h]で示される基準を例に紹介していきます。
 IAEAは対策を実施するめやすとなる被ばく量を基準として示しています。これを包括的判断基準(Generic Criteria:GC)といいます。例えば、OILの目的でもある確率的影響を低減するために避難や屋内退避等が求められる基準として、実効線量で100[mSv/初期7日間]という基準を設けています[1]。文字どおり、7日間で100[mSv]の被ばくとならないように対策を実施しなさいというものです。この被ばく線量を予測して対策を実施するという考え方は従前からあるものですが、対策をより速やかに実施するために、汚染の状況等を仮定して、GCを予め空間線量率の値に換算しておき、測定値と比較することで即座に対策の要否を判断しようと設けられた基準値がOILです(図1)。


図1.OILによる対策実施判断の迅速化

 具体的なイメージを掴んで頂くためにIAEAの技術文書[3]に記載された例に計算式を追記し、以下に示します(図2)。ただし、この例は現行のOILについて計算したものではないことにご注意下さい。


図2.IAEAの OILの計算例

  この例から、2つの重要なことがわかります。1つは、ある一定の時間が仮定されていて、この時間が経過しなければ、おおもとの基準であるGCは超えないということです。言い換えれば、OILの基準値を少し超えても時間的猶予はあるということです。もう1つは、OILは時間だけでなく被ばくの状況に関する仮定に基づいた計算値だということです。改めて、表1を見て頂くとOILの部分に「初期設定値」と記載されています。これは原子力発電所事故直後を想定し、もっともらしい状況や核種を仮定して定められた値です。従って、想定していた状況と現在の状況が大きく異なってしまった場合(例えば、事故発生後大きく時間が経過した、異なる施設の事故等)には、それぞれの状況に適した仮定を定めて計算しなおす必要があります。
 さて、現行のOILについてIAEAから具体的な計算方法が示されない中、我が国ではどのようにOILを定めたのでしょうか。GCを定め独自に計算するという方法はとらず、IAEAの示したOILを参考に、東京電力福島第一原子力発電所事故の際の対応例を踏まえた値となっています(表2)[4]。また、空間線量率で示されるOIL1、2については、沈着した放射性物質による地表面からの放射線等の影響とされており、放射性プルームによる影響は除かれていることにも注意が必要です。

表2.原子力災害対策指針におけるOILの初期設定値設定根拠

 原子力災害対策指針の今後の課題にも示されているとおり、OILの考え方を防護対策実施の基準として採用する以上、本来はGCからOILの初期設定値を算出する方法を明確にし、必要によって前提条件を変更して、OILの初期設定値を変更できるようにしておくことが求められています。しかし、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の教訓を活かして、速やかに防護対策を実施する体制を整えるということを鑑みれば、まずは基準を予め定めておくことが緊要です。ただし、OILがあるモデル(仮定)に基づいて設定されていることに変わりはないので、上述した基準の背景を常に踏まえて適用することが重要です。

 参考資料
[1] IAEA:” Criteria for Use in Preparedness and Response for a Nuclear or Radiological Emergency” ,IAEA Safety Standards Series No. GS-G-2 (2011).
[2] 「防護措置基準について(案)」(平成24年12月27日第5回原子力災害事前対策等に関する検討チーム資料4)
[3] IAEA:”Generic Assessment Procedures for Determining Protective Actions during a Reactor Accident” ,IAEA TECDOC-955 (1997).
[4] 「平成25年2月の原子力災害対策指針における防護措置の実施の判断基準(OIL:運用上の介入レベル)の設定の考え方」(原子力災害事前対策等に関する検討チーム補足資料)

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