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第17回 「緊急時区域(PAZ及びUPZ)について」(平成26年7月)

我が国では、被ばくの防護措置を短期間で効率的に行うため、IAEAの原子力防災の考え方を踏まえ(第5回をご参照下さい)、原子力災害時に影響が及ぶ可能性がある区域に対して、重点的に原子力災害に特有の対策を講じておく範囲として、原子力災害対策重点区域を予め定めています。原子力災害対策指針[1](以下、「指針」といいます。)では、原子力施設からの距離に応じて、表1に示す2種類の区域が定められています。

表1 指針における原子力災害対策重点区域(実用発電用原子炉)


これらの区域における防災計画策定や準備において重要となるのは、放射線による健康影響に対する考え方です。一定の被ばく線量(しきい線量)を超えると何らかの症状が現れる確定的影響は回避する(許容しない)一方で、被ばく線量の増加に伴ってがん等の発生確率が上昇する確率的影響については、合理的に可能な範囲で被ばく線量を最小限に抑える(許容しうる)としていることです。

さて、これらの区域が指針に導入されてから1年半が過ぎました。各自治体の地域防災計画にも、すでに各区域が盛り込まれ、具体的な対策実施方法の詰めの段に入っています。原子力規制委員会は、これら計画策定等の参考として、平成26528日に「緊急時の被ばく線量及び防護措置の効果の試算について(案)」[2](以下、「試算結果」といいます。)を示したところです。
 この試算結果は、IAEAの防護対策基準に照らして、防護対策の効果のほどを定量的に示していますが、計画策定等の参考にするためには、次の2つの点について考える必要があります。1つ目は、この試算はどのような条件を仮定して計算したものかという点です。これは、原子炉からの放射性物質の放出率や放出までの時間等に着目すれば、どのような事態を想定したものか判断することが可能です。2つ目は、原子力災害対策重点区域内の対策実施方法等に反映するためには、そもそもPAZUPZといった原子力災害対策重点区域がどのように定められたのか、どのような意味を持つ区域なのか知っておく必要があります。この2点を併せて、はじめて試算結果の絶対性や重要性を判断することができます。

今回の原子力防災情報は、この後者、すなわち、区域の具体的な距離(半径)がどのように定められたのか紹介します。

指針には距離(半径)設定の理由について、IAEAの国際基準を踏まえ設定したとの記載があります。また、指針策定前の検討にあたる「『原子力施設等の防災対策について』の見直しに関する考え方 中間とりまとめ」[3]において、確率論的手法に基づく検討結果[4]や東京電力福島第一原子力発電所事故の事例に基づいた理由が挙げられていました(表2)。

表2 指針における距離設定の理由(実用発電用原子炉)


確率論的手法とは、事故事例のようにある1つの事故を取り上げて評価するのではなく、どのような事故が起こりうるか、その事故はどの程度の放射性物質の放出を伴うのか、さらに、どのように周辺に拡散するのかを以下の①〜③に示すように3段階で評価します。

① どのような事故が起こりうるか様々な場合(事故シーケンス)を検討し、それぞれの発生
  し易さを確率(事故発生頻度)で評価

② それぞれの事故シーケンスでどのようなタイミングでどれだけの放射性物質が放出される
  (ソースターム)のかを評価

③ 一定の気象条件や統計的に処理した実際の気象条件を仮定して放射性物質の拡散を計算
  し、被ばく線量等の形で評価(線量評価)


この評価結果を、防護措置を行う線量の基準と比較し、予め対策を準備しておく範囲を検討します。

例えば、PAZの根拠の1つとして用いられた確率論的手法による検討結果[4]では、様々な事故シーケンスに対して、平均的な気象条件を仮定した場合、確定的影響をもたらす基準(1日間骨髄線量1Sv)に達する場合は概ね3kmに収まることが示されています。

一方、事故事例として、東京電力福島第一発電所事故の場合がUPZの根拠の1つとなっています。これは、IAEAUPZ内で求めている防護措置の基準(IAEAが示した一時移転の基準:OIL2 100µSv/h[5])に達していた地点が概ね30km以内であった[6]ことです。

※ その後、我が国においては、OIL2:20µSv/hと指針に定められています。


次に、IAEAの国際基準に示されるPAZ及びUPZの距離(半径)は何を根拠としたものなのでしょうか。安全文書[7]では、その前提として、以下のような考慮すべき点が挙げられています。

表2に示したIAEAPAZ及びUPZの距離(半径)は上記を踏まえ、各国から集まった専門家の判断により提案されたものです。それぞれの区域について判断理由が記載されており、概ね、線量の影響、防護基準との関係、実用上の理由及び事故事例の4つに分類できます(表3)。


表3 IAEAにおける距離設定の理由(脅威区分Ⅰ:原子力発電所等)



特に着目されるのが、実用上の理由です。線量や防護基準だけでなく、対策の実行可能性も加味した上で、対策の有効性の観点が理由として挙げられています。すなわち、「確定的影響の防止」及び「確率的影響の低減」というコンセプトは守りつつも、有効な対策を効果的に実施するために、範囲を保守的に広げるだけでなく、合理的な範囲を設定するという考えです。

改めて、冒頭の試算結果について考えると、すべての事故シーケンスを対象としたものではなく、代表的な事故シーケンスを用いて線量評価(上記、②、③に相当します)を行い、防護対策の効果等の例が示されたものと考えられます。“試算結果”というタイトル通り、すべてを網羅したものでも、絶対的な基準でもありませんが、距離に応じた対策の効果等について代表例が示されていることで、メリット(被ばく線量の低減等)とデメリット(避難等に伴う損害等)との比較検討を、地域の実情を勘案して具体的にイメージすることが可能となるのではないでしょうか。

原子力災害対策重点区域は、緊急時に備えた準備や緊急時計画を策定しておくために設けられた区域であり、実際の緊急時においては必ずしも一律の対策実施が求められる区域ではありません。また、IAEAの考え方を鑑みても、特定の対策を実施する区域とはされておらず、被ばくを防止若しくは低減するために必要な措置を、場合によっては複数種類を組み合わせて実施することとしています。例えば、PAZ内についても、必ずしも即時に避難させることを求めているわけではなく、放射性物質放出中であれば一時的な屋内退避等の対策を組み合わせることが有効とされています。このような観点を踏まえ、緊急時に実効的な対策を実施できるよう、地域の実情を勘案して、いかに準備しておくかという点が肝心と考えます。


参考資料
[1] 原子力災害対策指針(原子力規制委員会、平成25年9月5日全部改正)
[2]  「緊急時の被ばく線量及び防護措置の効果の試算について(案)」(平成26年5月28日 第9回原子力規制委員会資料2)
[3] 「『原子力施設等の防災対策について』の見直しに関する考え方 中間とりまとめ」(平成24年3月22日 原子力安全員会原子力施設等防災専門部会防災指針検討ワーキンググループ)
[4] 内閣府原子力安全委員会委託事業「発電用原子炉施設の災害時における予防的措置範囲(PAZ)の調査」(平成22年3月 日本原子力研究開発機構安全研究センター)
[5] 防WG第5−1号「IAEAが定めるOILを用いた検討」(原子力安全委員会 防災指針検討WG第5回)
[6] IAEA:” Criteria for Use in Preparedness and Response for a Nuclear or Radiological Emergency” ,IAEA Safety Standards Series No. GS-G-2 (2011).
[7] IAEA:” Arrangements for Preparedness for a Nuclear or Radiological Emergency” ,IAEA Safety Standards Series No. GS-G-2.1 (2007).

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