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第14回 「IAEAの国際緊急時対応演習(ConvEx)について」(平成26年4月)

 国際原子力機関(IAEA)は、原子力事故関連2条約、すなわち「原子力事故早期通報条約」及び「原子力事故援助条約」に基づき、原子力事故又は放射線緊急事態発生時の国際的な通報及び援助の枠組みをこの締約国等との間で構築しています。このため、IAEAは、この枠組みの実効性の確認と継続的な改善等を目的として、国際緊急時対応演習(ConvEx:Convention Exercise)をその演習範囲に応じて、毎年又は数年ごとに実施しています。今回は、このConvExの概要を簡単に紹介します。

1. 国際的な通報及び援助の枠組みの概要

 原子力事故関連2条約の締約国は、他国に対して放射線安全に関する影響を及ぼし得るような国境を越える放出をもたらす原子力事故が発生した場合、直接に又はIAEAを通じて通報し、放射線の影響を最小限にするための情報を提供します。また、原子力事故における援助を必要とする場合は、直接に若しくはIAEAを通じて、他の締約国又はIAEA等の国際機関に援助を要請することができます。原子力事故早期通報条約における通報及び情報提供の全体像を図1に示します。ここで、IAEAはウィーン本部内にある事故・緊急事態センター(IEC)が通報の基点となります。このため、ConvExにおいても、IECが演習の基点となり、通報と情報交換を主体に演習で確認しています。


図1 原子力事故早期通報条約における通報及び情報提供の全体像


 IAEAを介した通報及び情報提供(以下、「通報等」という。)の詳細は、IEComm(Operations Manual for Incident and Emergency Communication)という運営マニュアルに規定されており、2012年に公開されています。なお、この運営マニュアルは2014年に改訂される予定です。
 この運営マニュアルで規定された発災国からIECへの通報等の流れを図2に示します。

 


図2 IECommにおける発災国からIECへの通報等の流れ


 また、この運営マニュアルで使用されている用語を以下に簡単に説明します。

1)  IEC(Incident and Emergency Centre):事故・緊急事態センター

 IAEAに設置されている、各国から又は各国への通報等を常時受発信可能な基点で、受信した通報等の内容を確認し、援助の全体計画を作成する重要な役割を担っています。このため、24時間連続で受発信可能な要員を配置し、fax、直通電話、eメール等のインターネット環境を有し、緊急時専用のWebサイト(USIE)を運営しています。

2) USIE(Unified System for Information Exchange in Incidents and Emergencies):緊急時情報交換統合システム

 IAEAが開設するWeb上の防災情報共有システムのことで、一般のアクセスは不可です。

3) NWP(National Warning Point):通報受信ポイント

 NWPは締約国の政府が1箇所指定し、IECからの通報等を常時受信可能なポイントです。このため、IECと同様に、24時間連続で受信可能な要員を配置し、fax、直通電話、eメール等のインターネット環境を有し、USIEの管理者とスタッフを登録します。NWPで受信した通報等は迅速に当該国のNCAに転送され、国内の体制を立ち上げます。

4) NCA(National Competent Authority):国内で所管する官庁

 国内の原子力及び放射線緊急事態対応システムにおいて位置づけられた官庁のこと。NCAの中から、後述する役割に応じてNCA(D)とNCA(A)を当該国の政府が指定します。

5) NCA(D)(National Competent Authority for a Domestic Emergency):発災国内のとりまとめ官庁

 NCA(D)は締約国の政府が複数箇所を指定可能で、通報等の発信、内容確認等への返信を行い、関連情報を検証する力量が必要になります。NCA(D)はIAEAへの援助要請を指揮し、当該国内の他のNCAと援助要請について調整し、とりまとめます。NCA(D)には24時間連続で要員を配置しておく必要はありませんが、他の関連機関と併せてNWPと連携して体制を立ち上げることが期待されています。このため、NCA(D)はfax、直通電話、eメール等のインターネット環境を有し、USIEの管理者とスタッフを登録します。

6) NCA(A)(National Competent Authority for an Emergency Abroad):発災国以外の各国内のとりまとめ官庁

 NCA(A)は締約国が1箇所指定し、他国で発生した緊急事態にて提供された関連情報の検証を調整し、又は自ら検証すること、及び通報や援助要請を受信し、当該国内をとりまとめる役割が期待されています。通報等の受発信機能の考え方は、NCA(D)と同じです。

7) Contact Point:連絡ポイント

 NWP、NCA(D)、NCA(A)、国際機関等で通報等を受信し、発信するポイントのことで、この内、IECからの通報等を常時受信するポイントが特にNWPと特に呼ばれ、特別の機能が要求されています。

 なお、我が国の場合、外務省がNWP及びNCA(A)に、原子力規制委員会がNCA(D)として登録されています。


2. ConvExの概要

 ConvExの目的及び概要等は、IECommに記載があり、その演習範囲に応じて、ConvEx-1a〜-1d、ConvEx-2a〜-2d、ConvEx-3の計9種類に分けられています。これらの演習は、IAEAが作成した演習マニュアルを基本としていますが、各演習にあたりIECは演習説明用の情報及び資料を専用のWebサイト(USIE)等で締約国等に公表しています。特に、総合演習となるConvEx-3については、演習計画書、演習評価計画書、演習結果報告書等が作成されています。ここでは、以下に総括的な内容を規定するIECommのレベルでConvExの概要を説明します。

(1) ConvEx-1

 ConvEx-1は4つのカテゴリーに区分されますが、全体を通しての目的は以下のとおりです。

○通報受信ポイント(NWP)が常時使用可能であること(faxの接続先及びUSIEの警報チャンネルが正しいか)を試験する。
○他の連絡ポイントがUSIEに正しくアクセスできることを試験する。

 IAEAはIECを介して、この目的を確認するため、対象範囲別に以下の演習を行っています。

①ConvEx-1a

1)目的: NWPが連続的に通報を受信可能であることを試験する。
2)概要: 年1回、IECは演習メッセージをfaxで各国のNWP及びNCA(A)に送付し、USIE上で事故関連情報を公表する。
3)確認点:
・NWPは30分以内にIECに受信確認をfax又はeメールにて送信する。
・NCA(A)は翌勤務日を越えず、USIEの演習Webサイト上で演習メッセージの受信確認をする。

 
②ConvEx-1b

1)目的: NWPが連続的に受信可能であること、及びNCAが受信した通報に迅速に対応できることを試験する。
2)概要: 年1回、IECは演習メッセージをfaxで各国の連絡ポイントに送付し、USIE演習Webサイト上に事故情報を掲示し、USIE演習Webサイト上で受信確認を要請する。
3)確認点:
・NWPは30分以内にIECに対して受信確認をfaxにて送信する。
・NWPは当該国のNCA(A)に迅速に警報発令する。
・NCA(A)はUSIE上で受信確認をする。この確認の目標時間は2時間とする。


③ConvEx-1c

1)目的: USIE管理者のUSIEへのアクセスを検証する。
2)概要: 年1回、IECは各国のUSIE管理者とeメールにてコンタクトし、各管理者のUSIEへのアクセス及び設定変更の能力を確認する。
3)確認点:
・各USIE管理者は、USIEの連絡ポイントへ確認用のeメールを送付する。


④ConvEx-1d

1)目的: IAEAの緊急時の情報共有チャンネルを試験する。
2)概要: 締約国の連絡ポイントからIECへfaxにより四半期に1回以下の頻度で事前確認なしに、試験メッセージを送付する。また、IECは簡単な受信確認を翌勤務日までに返信する。


(2) ConvEx-2

 ConvEx-2も4つのカテゴリーに区分されますが、全体を通しての目的は以下のとおりです。

○NCAが報告様式を適切に作成できるか試験する。
○情報の交換及び援助の要請・提供に係る適切な手順を訓練する。


 この目的を確認するため、対象範囲別に以下の演習を行っています。

①ConvEx-2a

1)目的: 適切な報告様式を完成するためのNCAの能力を試験する。
2)概要: 年1回周知済の日取りで実施。演習ではUSIE演習Webサイト上の演習メッセージに基づき適切な様式を完成することをNCAに要求する。
3)確認点:
・NCAは当該国の標準の作業時間内に様式を完成し、USIE演習Webサイトに提出する。


②ConvEx-2b

1)目的: 援助の要請及び提供に係る仕組みを試験する。
2)概要: 年1回、周知済の日取りで実施。演習では特に、RANETの援助機能に登録されている連絡ポイントを取り上げる。演習は最長で3日間に亘る。IECは発災国からのメッセージを参加国の連絡ポイントへ転送する。NCAは転送された情報を評価し、全ての技術的及び管理的な制約事項を考慮した上で、当該国が要請された援助を提供する状況にあるか決定する。IECとNCA(A)は、要請国への国際援助の調整と提供を模擬し、適切な情報共有手段を使用する。
3)確認点:
・RANETによる援助要請、援助提供
・IECによるAAP(援助実施計画)の完成

 

なお、原子力事故援助条約に基づく援助の枠組みとして、緊急時対応援助ネットワーク(RANET)がIAEAを事務局にして整備されています。RANETの仕組みや概要については、原子力防災情報第9回「IAEAのEPR-RANET2013について」を参照願います。

③ConvEx-2c

1)目的: 国境を越えた放射線緊急事態に係る仕組みを試験する。
2)概要: 2年に1回、周知済の指定期日に実施。演習は8時間を超えない。ConvEx-3と同じ年には実施しない。二国間協定及び多国間協定の試験を含むことがある。IECは発災国からのメッセージを参加国の連絡ポイントへ転送し、USIE上で公表する。NCAはUSIE演習Webサイトの内容を理解し、助言若しくは情報の要請に適切に対応する。
3)確認点:
・放射線緊急事態における対処
・USIEへのアクセス、適切な要請への対応 (・二国間協定及び多国間協定の試験)

 
④ConvEx-2d

1)目的: 国境を越えた原子力緊急事態に係る仕組みを試験する。
2)概要: 4年に1回、周知済の指定期日に実施。演習は8時間を超えない。演習はWMO(世界気象機関)と共催し、参加国の気象担当部署の関与が期待される。ConvEx-3と同じ年には実施しない。IECは発災国からのメッセージを参加国の連絡ポイントへ転送し、USIE上で公表する。NCAはUSIE演習Webサイトの内容を理解し、助言若しくは情報の要請に適切に対応する
3)確認点:
・原子力緊急事態における対処
・USIEへのアクセス、適切な要請への対応

 

(3) ConvEx-3

 ConvEx-3の目的、概要、確認点は以下のとおりです。

1)目的: 情報交換の仕組み及び援助の要請・提供の全活動を試験する。
2)概要: 3年〜5年に1回、周知済の日取りで実施。全ての締約国の参加を強く奨励。演習のシナリオは、放射性物質の環境への著しい放出を伴い、かつ防護対策を必要とする著しい放射線影響を伴う原子力又は放射線緊急事態を模擬し、援助の要請と提供を含む。ConvEx-3を開催するために、当該国が特別の演習を設定する必要はないが、当該国の訓練計画を評価することは奨励され、ConvEx-3をベースとして当該国の国家訓練を提案することはできる。シナリオ非提示型演習。レベルA参加(通報・確認のみ)とレベルB参加(通報・確認、情報交換、援助要請・提供等)がある。
3)確認点:  
・原子力又は放射線緊急事態発生時の締約国及び関係国際機関の対応を試験
・IEComm等の国際緊急事態管理システムの試験と評価
・良好事例及び自国のみの演習ではわからない欠点或いは改善点の洗い出し

 なお、ConvEx-3には関係国際機関(WMO、WHO、FAO等)が参加し、この役割については、IECommとは別のJPLANJoint Radiation Emergency Management Plan of the International Organizations)という運営マニュアルが2013年に公開されており、ConvEx-3での対応が記載されています。
 ConvEx-3は現在までに4回開催されており、その開催実績は表1のとおりです。我が国は過去4回とも参加しています。


表1  ConvEx-3の開催実績
  

(4)IAEAが関与するその他の国家演習及び多国間演習

 IECは国家、地域、及び多国間の演習に、演習を実施する当該国からの要請を受けて参加することができます。IECの参加方法は以下の3種類があります。

 1) 演習メッセージの確認のみ
 2) 「最少プレイ」:IECが受信した全てのメッセージを必要に応じ確認・検証し、USIE演習Webサイト上で公表
 3) 「標準プレイ」:IECが実際に演習実施国へ質問を出し、IECが受領する質問に対応し、要請があれば、他の参加国/機関へメッセージを配信


3. 原子力機構の参加状況

 原子力機構は、2012年7月〜8月に開催されたConvEx-2bへ初めて参加しました。ConvEx-2bは特にRANETの援助機能を確認する演習ですが、原子力機構はRANETの援助機関として、IECに登録されているため(当機構のRANETへの登録については、原子力防災情報第9回「IAEAのEPR-RANET2013について」当機構の発表を参照願います。)、当時の所管官庁であった文部科学省から演習情報を受信し、原子力機構内部で援助内容を検討、作成し文部科学省へ返信する訓練を行いました。なお、原子力機構が返信した援助内容はNCA(A)である外務省から他の国内の援助機関もとりまとめてIECへ返信されています。
 原子力機構は、2013年6月にもConvEx-2bに参加し、現在の所管官庁である原子力規制委員会から演習情報を受信し、同様の演習を行いました。また、同年11月に開催されたConvEx-3では、演習情報の受発信の訓練を原子力規制委員会との間で行いました。

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