国際原子力機関(IAEA)は、原子力事故関連2条約、すなわち「原子力事故早期通報条約」及び「原子力事故援助条約」に基づき、原子力事故又は放射線緊急事態発生時の国際的な通報及び援助の枠組みをこの締約国等との間で構築しています。このため、IAEAは、この枠組みの実効性の確認と継続的な改善等を目的として、国際緊急時対応演習(ConvEx:Convention Exercise)をその演習範囲に応じて、毎年又は数年ごとに実施しています。今回は、このConvExの概要を簡単に紹介します。
IAEAを介した通報及び情報提供(以下、「通報等」という。)の詳細は、IEComm(Operations Manual for Incident and Emergency Communication)という運営マニュアルに規定されており、2012年に公開されています。なお、この運営マニュアルは2014年に改訂される予定です。
この運営マニュアルで規定された発災国からIECへの通報等の流れを図2に示します。
また、この運営マニュアルで使用されている用語を以下に簡単に説明します。
IAEAに設置されている、各国から又は各国への通報等を常時受発信可能な基点で、受信した通報等の内容を確認し、援助の全体計画を作成する重要な役割を担っています。このため、24時間連続で受発信可能な要員を配置し、fax、直通電話、eメール等のインターネット環境を有し、緊急時専用のWebサイト(USIE)を運営しています。
IAEAが開設するWeb上の防災情報共有システムのことで、一般のアクセスは不可です。
NWPは締約国の政府が1箇所指定し、IECからの通報等を常時受信可能なポイントです。このため、IECと同様に、24時間連続で受信可能な要員を配置し、fax、直通電話、eメール等のインターネット環境を有し、USIEの管理者とスタッフを登録します。NWPで受信した通報等は迅速に当該国のNCAに転送され、国内の体制を立ち上げます。
国内の原子力及び放射線緊急事態対応システムにおいて位置づけられた官庁のこと。NCAの中から、後述する役割に応じてNCA(D)とNCA(A)を当該国の政府が指定します。
NCA(D)は締約国の政府が複数箇所を指定可能で、通報等の発信、内容確認等への返信を行い、関連情報を検証する力量が必要になります。NCA(D)はIAEAへの援助要請を指揮し、当該国内の他のNCAと援助要請について調整し、とりまとめます。NCA(D)には24時間連続で要員を配置しておく必要はありませんが、他の関連機関と併せてNWPと連携して体制を立ち上げることが期待されています。このため、NCA(D)はfax、直通電話、eメール等のインターネット環境を有し、USIEの管理者とスタッフを登録します。
NCA(A)は締約国が1箇所指定し、他国で発生した緊急事態にて提供された関連情報の検証を調整し、又は自ら検証すること、及び通報や援助要請を受信し、当該国内をとりまとめる役割が期待されています。通報等の受発信機能の考え方は、NCA(D)と同じです。
NWP、NCA(D)、NCA(A)、国際機関等で通報等を受信し、発信するポイントのことで、この内、IECからの通報等を常時受信するポイントが特にNWPと特に呼ばれ、特別の機能が要求されています。
なお、我が国の場合、外務省がNWP及びNCA(A)に、原子力規制委員会がNCA(D)として登録されています。
ConvExの目的及び概要等は、IECommに記載があり、その演習範囲に応じて、ConvEx-1a〜-1d、ConvEx-2a〜-2d、ConvEx-3の計9種類に分けられています。これらの演習は、IAEAが作成した演習マニュアルを基本としていますが、各演習にあたりIECは演習説明用の情報及び資料を専用のWebサイト(USIE)等で締約国等に公表しています。特に、総合演習となるConvEx-3については、演習計画書、演習評価計画書、演習結果報告書等が作成されています。ここでは、以下に総括的な内容を規定するIECommのレベルでConvExの概要を説明します。
○通報受信ポイント(NWP)が常時使用可能であること(faxの接続先及びUSIEの警報チャンネルが正しいか)を試験する。 |
IAEAはIECを介して、この目的を確認するため、対象範囲別に以下の演習を行っています。
1)目的: NWPが連続的に通報を受信可能であることを試験する。 |
1)目的: NWPが連続的に受信可能であること、及びNCAが受信した通報に迅速に対応できることを試験する。 |
1)目的: USIE管理者のUSIEへのアクセスを検証する。 |
1)目的: IAEAの緊急時の情報共有チャンネルを試験する。 |
ConvEx-2も4つのカテゴリーに区分されますが、全体を通しての目的は以下のとおりです。
○NCAが報告様式を適切に作成できるか試験する。 |
この目的を確認するため、対象範囲別に以下の演習を行っています。
1)目的: 適切な報告様式を完成するためのNCAの能力を試験する。 |
1)目的: 援助の要請及び提供に係る仕組みを試験する。 |
なお、原子力事故援助条約に基づく援助の枠組みとして、緊急時対応援助ネットワーク(RANET)がIAEAを事務局にして整備されています。RANETの仕組みや概要については、原子力防災情報第9回「IAEAのEPR-RANET2013について」を参照願います。
1)目的: 国境を越えた放射線緊急事態に係る仕組みを試験する。 |
1)目的: 国境を越えた原子力緊急事態に係る仕組みを試験する。 |
1)目的: 情報交換の仕組み及び援助の要請・提供の全活動を試験する。 |
なお、ConvEx-3には関係国際機関(WMO、WHO、FAO等)が参加し、この役割については、IECommとは別のJPLAN(Joint Radiation Emergency Management Plan of the International Organizations)という運営マニュアルが2013年に公開されており、ConvEx-3での対応が記載されています。
ConvEx-3は現在までに4回開催されており、その開催実績は表1のとおりです。我が国は過去4回とも参加しています。
IECは国家、地域、及び多国間の演習に、演習を実施する当該国からの要請を受けて参加することができます。IECの参加方法は以下の3種類があります。
1) 演習メッセージの確認のみ
2) 「最少プレイ」:IECが受信した全てのメッセージを必要に応じ確認・検証し、USIE演習Webサイト上で公表
3) 「標準プレイ」:IECが実際に演習実施国へ質問を出し、IECが受領する質問に対応し、要請があれば、他の参加国/機関へメッセージを配信
原子力機構は、2012年7月〜8月に開催されたConvEx-2bへ初めて参加しました。ConvEx-2bは特にRANETの援助機能を確認する演習ですが、原子力機構はRANETの援助機関として、IECに登録されているため(当機構のRANETへの登録については、原子力防災情報第9回「IAEAのEPR-RANET2013について」や当機構の発表を参照願います。)、当時の所管官庁であった文部科学省から演習情報を受信し、原子力機構内部で援助内容を検討、作成し文部科学省へ返信する訓練を行いました。なお、原子力機構が返信した援助内容はNCA(A)である外務省から他の国内の援助機関もとりまとめてIECへ返信されています。
原子力機構は、2013年6月にもConvEx-2bに参加し、現在の所管官庁である原子力規制委員会から演習情報を受信し、同様の演習を行いました。また、同年11月に開催されたConvEx-3では、演習情報の受発信の訓練を原子力規制委員会との間で行いました。