日本原子力研究開発機構

安全研究・防災支援部門原子力緊急時支援・研修センター

トップ > 原子力防災情報> 第12回「海外における緊急時モニタリングの仕組み(その2:米国のFRMAC)」

第12回 「海外における緊急時モニタリングの仕組み(その2:米国のFRMAC)」(平成26年2月)


 前回、米国の緊急時モニタリング体制を紹介しましたが、特徴的なのは連邦政府の連邦放射線モニタリング評価センター(FRMAC)を中心とした現地派遣可能なチームです。
福島第一原子力発電所事故の際にも、米国国内向けの仕組みを海外に準用して活動しています[1]。事故直後に米国エネルギー省が航空機モニタリングを行い、その結果を公表していますが、これもFRMACを中心とした活動のひとつ航空機測定システム(AMS)を用いたものでした。
 他にはどのような組織やシステムが用意されているのでしょうか。NRFの原子力・放射線分野[2]には、表1のように記載されています。

表1 原子力、放射線事故等に対応する連邦の主な緊急時組織

 
 前回紹介したとおり、米国の緊急時対応の考え方はNRFNIMSに基づくものとなっており、原子力発電所の事故だけでなく、テロや軍事関連まで様々な事案に適切な対応できるよう、機能別に緊急時に対応する組織やシステムを用意し、必要な機能(場合によっては複数)を立上げるようになっています。そのため、少数の統合的な組織を用意するのではなく、機能別の組織が多数用意される形となっています。
 この中で、放射線の測定や試料の分析といった緊急時モニタリングや放射線影響評価を担い、さらに、これらの組織や関係省庁の調整を行うのがFRMACです。FRMACは複数省庁から構成される組織ですが、表1からもわかるとおり、この分野を担うのは米国エネルギー省(DOE)と米国環境省(EPA)であり、両省が中核となり他の省庁が協力する体制となっています。全体の流れとしては、DOEが初動対応を担い、FRMACを立上げ、各省庁が協力して対応にあたり、活動内容が除染等の長期の活動になるとEPAFRMACを主管するようになります。
 州等から支援要請があった場合に、タイムリーに要請に応えるため、図1に示すような段階的な対応アプローチが定められており、必要に応じて規模を拡大するようになっています[3]



図1 FRMAC立上げまでのDOEの段階的な対応アプローチ


 まず、その州に該当するDOEの地方事務所に、その地域のDOE事務所や研究所等に勤める専門家がRAP Teamとして参集し対応にあたります。同時にDOEの本部では、NARACによる拡散予測を行うとともに、REAC/TSAMSの立上げを指示します。
次に、全米のDOE傘下の国立研究所の専門家等を現場の対応要員として段階的に派遣していきます。DOEは独自に被害管理対応チーム(CMRT)を現場に派遣し、DOE本部における調整や連絡等の対応のため被害管理本部チーム(CMHT)を立上げます。CMRTの派遣もフェイズⅠ、Ⅱと段階的に追加していきます。さらに対応の規模を拡大する必要がある場合には、CMRTの追加派遣を行うようになっています。
 ここまではDOEの対応ですが、関係省庁も加えFRMACが立上げると、CMRTFRMACの中核として活動を継続していきます。
 なお、上記は全ての組織が立上がった例となっており、実際は事故の規模や状態に合わせ、必要な機能が適切なレベルで立上がることになります。
 今回は紹介しきれませんでしたが、FRMACの活動のためのマニュアル類も運用マニュアル、モニタリングマニュアル(運用、放射線モニタリングと試料採取)、評価マニュアル(概要と手法、事前評価の標準的なシナリオ)、放射線防護マニュアル、分析マニュアルと分野ごとに用意されています。また、モニタリングデータの集約・共有についても、DOEは緊急時に迅速にデータを収集、管理し、分析を行うためeFRMACというソフトウェアシステムを整備しています。eFRMACには、上述のFRMAC関連機関でデータを共有し、分析等に活用するためのデータベースRAMs、さらに公衆への防護対策や情報提供を行うため、関係省庁や助言チームにデータを提供するCMwebが用意されています[4]。このように、米国のFRMACにおいては、複数機関の関係者が参加することを前提とした体制や運用整備がなされています。

参考資料
[1] D. J. Blumenthal et. al., “Adapting the U.S. Domestic Radiological Emergency Response Process to an Overseas Incident: FRMAC without the F”, Health Phys 102(5):485-488; 2012
[2] U.S.DHS: “National Response Framework: Nuclear/Radiological Incident Annex”, 2008
[3] U.S.DOE: “FRMAC Operations Manual May 2010”, DOE/NV/25946-980, 2010
[4] D. J. Blumenthal et. al., “eFRMAC Overview: Data Management and Enabling Technologies for Characterization of a Radiological Release”, Health Phys 105(1):97-103; 2013


ページのトップへ戻る