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第11回 「海外における緊急時モニタリングの仕組み(その1:米国の事例)」(平成26年2月)

原子力災害のような頻度の低い事故等への対応が難しい理由の一つが、常設の災害対応組織ではなく、普段は別の機関で仕事をしている人々が協力して災害対応にあたらなければならないという点です。特に、今回のテーマである「緊急時モニタリング」については、放射線の測定や分析等の専門的な知識や技術が求められるため、普段はそれぞれ別の研究、分析機関で仕事を行う人々が、原子力災害の時にのみ集まって災害対応にあたることになります。そこで重要になるのが、緊急時における指揮系統や役割分担といった事前の取り決めや体制作りです。
我が国の緊急時モニタリングも、第3回の原子力防災情報で紹介したとおり、国が統括し、国、地方自治体や事業者だけでなく、我々原子力機構を含む指定公共機関等の様々な機関が支援して、測定等を実施していくこととなっています。
  一方、海外でも各国の実情に合わせた体制作りが行われています。そこで、ポイントとなるのが普段別の機関で仕事をしている人々が集まってスムーズに緊急時対応に当たれるようにする方法です。今回から3回にわたり米国とフランスの事例を紹介します。特に米国は国(連邦)の緊急時モニタリング組織である連邦放射線モニタリング評価センター(FRMAC: Federal Radiological Monitoring and Assessment Center)に特徴がありますので、2回に分けて紹介します。

(1) 米国における緊急時対応体制

 米国は連邦制を採っており、「国」としての権限を連邦と州の両者が持っています。当然、それぞれの権限の範囲は定まっていますが、日本のように国-地方自治体という関係ではなく、連邦-州-地方自治体という関係になっており、日本の県に比べ州の権限が大きい点が異なっています。
 また、米国の特徴として原子力災害に限らず、様々な緊急時対応体制について統一的な仕組みが用意されていることも特徴となっています。具体的には、連邦だけでなく、州・地方政府や民間も含めた全ての災害への対応の基本的枠組みを規定した国家応急対応フレームワーク(NRF: National Response Framework[1]を定め、さらに、ICSIncident Command System)を中核とする国家非常事態管理システム(NIMS: National Incident Management System[2]で共通の対応プロセスや手順を規定しています。これらの仕組みの特徴は、①対応規模の柔軟性、②災害対応の標準化・共通化です。特に①については、現場の迅速な対応が肝要とし、必要に応じて対応規模を柔軟に拡大可能とするものです。緊急時モニタリング体制や計画についても、NRFの原子力・放射線分野[3]に定められたものとなっています。

 

(2) 米国における緊急時モニタリング体制

 原子力発電所における事故についても、現場である事業者、州及び地方自治体が第一に対応することとなっており、必要に応じて連邦に支援を求めることが出来るという体制になっています。
 事業者、州及び地方自治体は、原子力発電所の事故に対する緊急時対応計画を策定することが連邦規則(10CFR part 50.47、Appendix E to part 50)に定められており、具体的に記載すべき事項やその評価基準、三者の役割分担も別途定められています[4, 5]。この中で、対応活動の拠点として州等は緊急時対応センター(EOC)を事業者は緊急時運営施設(EOF)を設けることや緊急時モニタリングに関する事項(例えば、野外モニタリングを行う能力やリソース)についても定められています。
 各州の具体的な対応は、緊急時対応計画の放射線緊急事態に関する章に記載されています。上記に合致したものですが、州によって一部違いもあります。ニューヨーク州、メリーランド州及びテキサス州の計画[6,7,8]に記載された例を紹介すると、表1のような違いがあります。



表1 州の緊急時対応計画における緊急時モニタリング関連記載例

 
 一方、連邦の役割については、NRFの原子力・放射線分野[3]に定められています。その中で原子力発電所の事故の際には米国規制委員会が主管省庁となることや各省庁が果たすべき責務が定められています。さらに、それぞれの責務を果たすため、航空機モニタリングや被ばく医療など支援可能な能力や派遣チームが具体的に記載されています。特に緊急時モニタリングについては、米国エネルギー省が主導してFRMACが現地に設置され、関係省庁の代表も参加した上で、連邦の環境や農地に係る放射線モニタリングや影響評価に関する活動のすべてを調整することになっています。
 ここまで紹介した緊急時モニタリングに係る活動をまとめると図1のようになります。
 


図1 米国における緊急時モニタリング体制


 この図1のとおり、各機関から得られたモニタリングデータ等をもとにEOCで防護措置を決定することになっています。これらのモニタリングチーム間では、リエゾンや毎日のモニタリング計画の打合せを通じた調整は行うものの、それぞれ独自にモニタリング計画を立案し、測定や評価等のモニタリング活動は統合せずに活動している点が特徴です[9]

 次回は、FRMACを中心とした連邦の緊急時モニタリング活動を紹介致します。

参考資料
[1] U.S.DHS: “National Response Framework Second Edition May 2013”, 2013
[2] U.S.DHS: “National Incident Management System December 2008”, 2008
[3] U.S.DHS: “National Response Framework: Nuclear/Radiological Incident Annex”, 2008
[4] U.S.NRC/FEMA: “Criteria for Preparation of Radiological Emergency Response Plans and Preparedness in Support of Nuclear Power Plants”, NUREG-0654, FEMA-REP-1 Rev.1, 1980
[5] U.S.NRC/FEMA: “Criteria for Preparation and Evaluation of Radiological Emergency Response Plans and Preparedness in Support of Nuclear Power Plants”, NUREG-0654, FEMA-REP-1 Rev.1 Supp.1, 1988
[6] New York State: “New York State Radiological Emergency Preparedness Plan for Commercial Nuclear Power Plants Revised March 2011”, 2011
[7] Maryland Emergency Management Agency: “Maryland Emergency Operations Plan Annex Q: Radiological Emergency Plan Fixed Nuclear Facilities”, 2007
[8] The State of Texas: “Texas Emergency Management Plan Annex D Radiological Emergency Management Updated February 2013”, 2013
[9] U.S.DOE: “Federal Radiological Monitoring and Assessment Center Monitoring Manual Volume 1 Operations July 2012”, DOE/NV/25946-1554, 2012

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