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第9回 「IAEAのEPR-RANET 2013について」(平成25年11月)

国際原子力機関(IAEA)は、原子力事故又は放射線緊急事態発生時の国際的な援助の枠組みとして、緊急時の備えと対処(EPR: Emergency Preparedness and Response)のための緊急時対応援助ネットワーク(RANETResponse and Assistance Network)をRANETの参加国と連携して運営しています。IAEAは東京電力㈱福島第一原子力発電所事故の教訓等を反映して運営要領を改訂し、新要領であるEPR-RANET2013201391日に発効しました。

1. RANETとは

19864月に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故を契機として、19869月のIAEAの総会において「 原子力事故早期通報条約」及び「 原子力事故援助条約」が採択され、我が国も1987年にこの条約を締結しました。なお、20139月現在で通報条約は113か国4機関、援助条約は107か国4機関が締結しています。これらの条約の締約国は、他国に対して放射線安全に関する影響を及ぼし得るような国境を越える放出をもたらす原子力事故が発生した場合、直接に又はIAEAを通じて通報します。また、原子力事故における援助を必要とする場合は、直接に若しくはIAEAを通じて、他の締約国又はIAEA等の国際機関に援助を要請することができます。

RANETは、この援助要請への迅速な対応を可能とし、原子力事故援助条約の実際の履行を支援するためのネットワークとして、2005年に構築されました。RANETの参加国(201310月現在23か国)は、医療支援など様々な援助分野で要請に基づき、専門家の派遣及び助言、資機材の提供等の援助を行うことが期待されており、参加国の提供できる援助機関(NACNational Assistance Capabilities)を登録します。我が国も20106月に参加し、国内から要請国に対して助言等を通じた援助を行う方法で、図1EPR-RANET 2006に示す援助分野で、独立行政法人日本原子力研究開発機構、独立行政法人放射線医学総合研究所、国立大学法人広島大学の3機関が登録しました。

2. RANETの運営要領

(1) 運営要領の改訂経緯

RANETの運営要領は、初版としてEPR-RANET 2006が発刊され、200651日より発効しました。その後、援助分野の再構築及び援助活動リーダの業務の追加等を図って2版目のEPR-RANET 2010が発刊され、201111日より発効しました。今回、3版目のEPR-RANET 2013が発刊され、201391日より発効しましたRANETの運営要領には、援助活動の考え方、NACの援助分野(Functional Area)とその登録、援助実施計画等について記載があります。図1に例として、EPR-RANET 2006からEPR-RANET 2013における援助分野を示します。

1 EPR-RANET 2006からEPR-RANET 2013における援助分野

(2) EPR-RANET 2013の概要

 今回改訂された運営要領(EPR-RANET 2013)の構成及びこの運営要領の特徴的な内容を以下に紹介します。

① EPR-RANET 2013の構成

 EPR-RANET 2013の目次構成とその概要は以下のとおりです。

 1) 前書き

 2) RANETとは

 3) 援助活動の考え方(活動の全体像、援助実施計画、NACの立ち上げ、現地での安全確保、援助の終了、援助報告、経費の措置)

 4) 参加国の援助機能(援助分野と支援方法、専門的能力、資機材、即応体制、民間資源の登録、NACの登録、NACIAEAによるレビュー)

 5) 援助実施計画(目的と範囲、援助要請国及び援助提供国、援助チーム、援助の現地展開等)

 6) 援助分野の技術指針(図1EPR-RANET 2013の①〜⑧の分野毎に記載)

 7) 付録(A. 登録様式、B. RANET援助実施計画例、C. RANET技術資料の参考リスト、D. 医療資機材の標準リスト、E. 測定器の性能下限値、F. 援助成果の仕様、G. 各チームリーダの責任と職務)

② 特徴的な内容
1) 活動の全体像

 EPR-RANET 2013における援助活動の全体像を図2に示します。原子力事故又は放射線緊急事態が発生した場合、援助要請国(発災国に限らず)はIAEAの事故・緊急事態対応センター(IECIAEA's Incident and Emergency Centre)に援助を要請します。要請の方法は、1) IECが開設する専用Webシステムによる方法、2) IECへのFaxによる方法又は3) IECへの電話による方法の3つがあります。この際、援助要請国は、事故の種類、場所、発生時刻、事故対応に当たる自国の機関の名称と住所、IECと連携する対応者の氏名と連絡手段の詳細、及び要請する援助分野等の情報を示します。

2 RANETによる援助活動の全体像

 この公式な援助要請に基づき、IAEAIECを介して援助活動に係る調整及び促進の基点となります。IECは要請の内容を評価し、援助要請国に対し初期の助言を提供します。このため、IECは状況を把握し、及びRANETによる援助活動の立ち上げの必要性を提言するため、調査活動を現地で展開することがあります。ここで、NACの立ち上げが提言された場合、IECは援助提供国の通報受信ポイント(NWP)に通報し、併せて、援助提供国の所管官庁(CACompetent Authorities)及びNACの取りまとめ役、並びに関係国際機関に調整を要請します。要請を受けた所管官庁とNACの取りまとめ役は、援助の可否についてIECへ連絡し、要請があれば、NACの要員及び資機材はスタンバイ状態に入り、可能な援助機能については援助実施計画(AAPAssistance Action Plan)に従い、活用又は現地展開がなされます。なお、援助実施計画は援助要請国、援助提供国の所管官庁及びNACの取りまとめ役、並びに関係国際機関と調整の上、IECが作成するものです。

2) 支援方法

 支援方法には、1)現地援助チーム(FATField Assistance Team)による活動と外部拠点支援(EBSExternal Based Support)による活動の2種類があります。

FATでは援助提供国が専門家グループや資機材を現地展開し、FATのリーダが置かれます。EBSでは専門家グループ等を現地展開せず、援助提供国から助言及び資機材の提供等を行い、EBSのリーダが置かれます。また、FAT及びEBSの各リーダとは別に、援助活動全体を統括する援助活動リーダも置かれます。援助活動リーダは、FATの現地展開前に現地展開する専門家へ援助活動の目的や現地の状況を理解させること、現地展開中は援助要請国、援助提供国、IEC、及びその他の機関との調整を行うこと、並びに援助終了時には援助実施報告書を作成し、IECへ提出すること等の責任を有し、RANETの重要な役割を担います。(図3(a)参照)

FAT又はEBSが複数チームの場合には、統合援助チーム(JATJoint Assistance Team)が組織され、JAT本部が置かれます。JAT本部長は先述の援助活動リーダがあたります。JAT本部事務局は、現地展開した要員等の支援、現地機関及びIECとの連携等の本部長の補佐を担います。(図3(b)参照)

(a) FATが単独チームの場合              (b) FAT又はEBSが複数チームの場合

3 RANETにおける支援方法の概念

 なお、NACの立ち上げに際して、FAT及びEBSの各リーダは援助実施計画(AAP)に従い、各チームの活動計画を作成します。

3) NACの登録

NACの登録には、1) 援助条約の加盟国であること、2) 要請の受発信及び援助の受入れを承認する所管官庁が専用の書式を提出すること、3) NACの維持、対応はRANETの運営要領に従い国の責務とすることの3点が必須要件となっています。専用の書式には、援助分野(Functional Area)とその支援方法(FATEBS)、専門的能力(Expertise)、資機材(Resources)等を記載します。

 今回の運営要領では、東京電力㈱福島第一原子力発電所事故の教訓等を反映して、我が国からも提案のあった原子力発電所の事故を収束させるために活用可能な資機材(電源供給装置、遮蔽及び容器封入装置、換気装置、水冷却及び浄化装置、臨界管理資機材等)が専用の書式に追加されました。また、援助分野についても、従前の事故評価を原子力施設(発電所、燃料加工施設、再処理施設等)の事故評価と放射線事故評価に分けています。(図1EPR-RANET 2013を参照)

3. 原子力機構の活動状況

 原子力機構は20106月に、当時のEPR-RANET 2006に従い、EBSとして、1) 航空機による汚染調査、2) 放射線レベル・汚染調査、3) 環境資料の濃度測定、4) 事故評価と助言、5) 体内被ばく線量評価、6) バイオアッセイ、7) 線量再構築の7つの援助分野を登録しました。

 登録以降、現在までに2件(20108月にベネズエラ、20122月にペルー)の要請がありましたが、いずれも原子力機構が実際の援助を行うまでには至りませんでした。この件については、原子力機構の原子力緊急時支援・研修センターの国際協力のページに記載があります。

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