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第5回 「原子力災害対策の基本的考え方」(平成25年8月)

東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、法令や防災計画の改定がすすめられ、我が国の原子力防災体制も新たなものとなっています。一番大きな変化は、原子力災害対策特別措置法に基づいて策定され、専門的・技術的事項が記載されている「原子力災害対策指針」に、国際原子力機関(IAEA)の定めた原子力防災に係る国際基準が取り入れられたことです。

「PAZ」、「UPZ」、「EAL」及び「OIL」といったIAEAの示す基準等の用語を報道等で目にしたことがあるかと思いますが、これらは別々の基準として定められたものではなく、人々を放射線の影響等から守るための基本的考え方に基づき、必要になる基準を定めていったものです。今回は、我が国の原子力災害対策の基本的考え方のもとになったIAEAの示す原子力災害対策の基本的考え方について、原子力発電所を対象として紹介します。

IAEAは緊急事態管理に関する考え方として、現在、「管理的手法」を採用しています[1]。放射線による住民等への健康影響の発生の防止や低減といった緊急時対応の結果に着目した目標を定め[2]、その目標を達成するために、緊急時の活動計画等を定めていくという考え方です。

一方、放射性物質の重大な放出に至るのは、原子力発電所の事故の場合、原子炉の燃料等(炉心)が損傷し、さらに、燃料等を閉じ込めている格納容器等が破損した場合です。しかし、炉心の損傷は原子力発電所の制御室で検出や予測が可能ですが、格納容器等の破損による放射性物質の放出の時期や放射性物質放出後の放射性物質の分布状況を事故時に正確に予測するのは非常に難しいことです。そこで、事故時に測定した情報に基づき、迅速に判断し、対応を実施できるようにしておくことが重要としています[1]。

そのため、IAEAは、図に示す原子力防災の考え方や一連の判断基準を示しています[1,2,3,4]。

IAEAの安全文書等に示される原子力防災の考え方

図 IAEAの安全文書等に示される原子力防災の考え方

まず、事故時に迅速な対応を行うため、予め対策を準備しておく緊急時区域の設定を求めています。緊急時区域は2種類あり、放射性物質の放出前か放出後直ちに対策を実施する範囲として、「予防的防護措置を準備する区域」(PAZ)、放射線等を測定した結果等に基づき必要な対策を行う「緊急時防護措置を準備する区域」(UPZ)です[2]。

さらに、対策実施の開始条件として、「緊急事態区分」、「緊急時活動レベル」(EAL)及び「運用上の介入レベル」(OIL)を定めています。まず、炉心の損傷のような原子力発電所の事故の状態に応じて、迅速な対応を可能とするために、緊急事態区分及びEALを定めています。

緊急事態区分は、緊急事態をその程度に応じて4つに区分(例えば、全面緊急事態、警戒状態等)し[2]、それぞれの事態で実施する対策を予め定めておくことで、関係者間で緊急事態の程度について共通認識を持つとともに、速やかに対策を実施できようにするものです。次に、EALは、原子力発電所の事故の状態が緊急事態区分のどの事態に該当するか判断する基準として定めたもので[4]、これは原子力発電所の運転員が判断に用いるような技術的な基準となっています。例えば、事故が重大な場合には原子力発電所にてEALを用いて全面緊急事態であるとの判断がなされ、さらに国等を通じてPAZ内の避難等の対策が放射性物質の放出前でも予防的に実施されます。

PAZより遠いUPZの範囲では、放射線の測定を行った上で必要な対策を実施することとしています。その際にも、対策の実施の要否を迅速に判断するために、放射線の測定値に基づいた対策実施の基準としてOILを定めています。OILはOIL1〜OIL6まで目的に応じて、避難等が必要となるレベルや飲食物の摂取制限が必要になるレベル等の線量率に基づく6種の基準を定めています[4]。

これらのIAEAの原子力災害対策の基本的考え方については、JAEA-Review 2013-015 [5]に取りまとめておりますので、詳しくはこちらをご参照下さい。

なお、我が国の原子力災害対策指針も、東京電力福島第一原子力発電所事故への対応を踏まえた上で、概ねこの考え方に基づいたものとなっています。

現在IAEAは、上記の内容が記載されている“原子力防災に係る安全要件”(GS-R-2)の改訂作業を進めています。安全要件GS-R-2は新たに“一般的安全要件(General Safety Requirements)”の第7部(GSR Part 7)として位置づけされる予定であり、GSR Part 7のドラフトとしてDS-457 [6]がすでに公開されています。また、この新たな国際基準等を先取りする形で盛り込んだ原子力防災関連文書[7]が平成25年5月に公開されています。

参考資料

[1] M.Crick, McKenna, E.Buglova, G.Winkler and R.Martincic:”Emergency management in the early phase”,Radiation Protection Dosimetry 109(1-2) , pp.7-17,(2004) .
[2] IAEA:”Preparedness and Response for a Nuclear or Radiological Emergency”,IAEA Safety Standards Series No. GS-R-2 (2002).
[3] IAEA:” Arrangements for Preparedness for a Nuclear or Radiological Emergency” ,IAEA Safety Standards Series No. GS-G-2.1 (2007).
[4] IAEA:” Criteria for Use in Preparedness and Response for a Nuclear or Radiological Emergency” ,IAEA Safety Standards Series No. GS-G-2 (2011).
[5] 佐藤宗平、山本一也:”我が国の 新たな原子力災害対策の基本的な考え方について−原子力防災実務関係者のための解説−”,JAEA-Review 2013-015 (2013).
[6] IAEA:”Preparedness and Response for a Nuclear or Radiological Emergency”,IAEA Safety Standards Series No. GSR Part 7 Draft DS457 ,03 July 2013 (2013).
[7] IAEA:” Actions to Protect the Public in an Emergency due to Severe Conditions at a Light Water Reactor”,IAEA EPR-NPP PUBLIC PROTECTIVE ACTIONS (2013).

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