日本原子力研究開発機構

安全研究・防災支援部門原子力緊急時支援・研修センター

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第3回 「我が国の緊急時モニタリング体制について」(平成25年6月 :令和3年11月改訂)

当コーナーの第1回で説明したように、原子力災害とは、原子力発電所等の原子力施設から放射性物質又は放射線が異常な水準で放出されたことによる被害をいいます。一方で、原子力災害の特徴の1つが、放射性物質や放射線は五感で感じることができず、放射線測定器を用いた検知や測定が必要となることです。このような放射線等を測定することを「モニタリング(環境放射線モニタリング)」といいます。モニタリング活動は、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の際にも行われており、当機構も事故直後から原子力緊急時支援・研修センターを拠点として、専門家の派遣や放射線測定器等の提供を行い、国、県や事業者等の複数の機関と協力してモニタリング活動を実施しました。その後、原子力防災全般について見直しが進められ、原子力災害時におけるモニタリング(「緊急時モニタリング」といいます。)についても、平成2565日に原子力災害対策指針が改正され、国が統括して実施することが盛り込まれました。
 今回は、モニタリング活動とはどのようなことを実施するのか、さらに、上記改正を踏まえた我が国の緊急時モニタリング体制を説明します。
 さて、緊急時モニタリングの説明に入る前に、まずは、「平常時のモニタリング」についてお話します。原子力施設の周辺では、普段からモニタリング活動が行われています。施設近傍を中心に、事業者は「法令で定められた規制値を超えていないか確認する」等のために行っており、さらに広い範囲については、道府県が「周辺住民等の健康と安全を守る」ために実施しています。また、これらの情報は平常時の情報として蓄積され、原子力災害時には事故等の影響がどの程度あったのか(もしくはないのか)という判断にも役に立つものです。
 具体的には、年度計画に定められた測定地点や測定対象について、周辺環境中の放射線の測定を行うとともに、空気中のちり、水、農畜産物や水産物、植物、土などの試料(「環境試料」といいます。)を採取し、分析施設等で放射性物質の含有量を測定します。また、効率的に測定を実施するため、自動化された測定器(排気モニタ、排水モニタや固定型モニタリングポスト)や移動しながら測定できる測定器等を搭載した車両(モニタリングカー)も用いられています。
 一方、緊急時モニタリングの目的は、「原子力災害時における周辺環境の放射線状況を把握し、避難等の防護措置の実施の判断材料を提供すること」等です。従って、必要な対策を必要な場所で、かつ、すみやかに実施するため、平常時モニタリングに比べ、緊急時モニタリングでは、より広範囲かつ事態の変化に対応できるように時間的にも、空間的にも高密度の測定が求められています。
 そこで、緊急時には平常時モニタリングの測定設備を利用することはもちろん、さらに広範囲の測定が可能となる航空機を用いた測定(「航空機モニタリング」といいます。)や追加の測定を実施するため仮設型のモニタリングポスト(可搬型モニタリングポスト)も利用されます(図1)。それでも、求められる測定量を実施することは困難であり、国内の専門的な機関が力を結集して放射線の測定にあたることが必要です。

 

1 緊急時モニタリングで行う放射線等の測定

  

表  緊急時モニタリングにおける各機関の役割

機関 役割

(原子力規制委員会等)
 緊急時モニタリングを統括
  - 実施方針の策定
  - 緊急時モニタリング実施計画及び動員計画の作成
  - 実施の指示
  - 関係者による緊急時モニタリング実施の総合調整
  - データの収集と公表
  - 結果の評価
  - 事態の進展に応じた実施計画の改定等

 海域や空域等の広域モニタリング
地方公共団体
(道府県)
 地域における知見を活かした緊急時モニタリング計画の作成
 原子力災害対策重点区域等における緊急時モニタリング
原子力事業者  放出源の情報の提供
 施設周辺地域等の緊急時モニタリングに協力
指定公共機関  専門機関として支援


緊急時モニタリングに参画する機関等は、原子力災害対策指針の改正前から変更されていませんが、従前の道府県を国等が支援するという体制に対し、緊急時には国がモニタリングを統括し、広域のモニタリングについても確実に実施できるように強化を図ったという点が大きな変更点です。

具体的には、国は原子力施設立地地域に緊急時モニタリングの実施に必要な機能を集約した緊急時モニタリングセンターの体制を準備し、図2の例に示すような体制で緊急時の対応にあたることとなりました。

 図2 緊急時モニタリング体制図

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