米国環境保護庁(EPA)が、2013年4月15日付で「原子力災害時の防護対策指針マニュアル(PAGマニュアル)」を21年ぶりに改正し、その改正版ドラフトを公表しました。同時に、その改正版ドラフトについてパブリックコメントの募集を本年7月15日まで行っています。また、正式な改正版が発行されるまでの期間、この改正版ドラフトを暫定的に使用するとしています。[1]
ここでは、PAGマニュアル改正版ドラフトの防護対策指針について概要を紹介します。
従前のPAGマニュアルは1992年に発行された「原子力災害時の防護対策指針と防護対策のマニュアル(EPA400-R-92-001)」(旧PAGマニュアル)です。[2]
しかし、この旧PAGマニュアルは、国際放射線防護委員会(ICRP)の「国際放射線防護委員会勧告(1977年1月17日採択)」(ICRP
Publication
26)、いわゆる1977年勧告に準拠したものであること、また、これまでに米国連邦政府内の各省庁によって原子力災害時の放射線等に対する防護対策に係るいくつかの指針等が新たに制定、あるいは既存指針の改定等が次々に実施、公表されていたことなどから、これらと整合したPAGマニュアルの改正が長い間検討されていました。
今回のPAGマニュアルの改正は、このような各省庁が独自に策定し、公開していた指針等を反映させる形で行われています。そのために、今回の改正は、ICRPの旧勧告である1990年勧告(ICRP
Publication
60)に準拠したものとなりました。したがって、ICRPの最新の勧告、すなわち2007年勧告(ICRP
Publication 103)やそれに属するPublication
109や111は、このPAGマニュアル改正版ドラフトにはまだ採用されていません。
なお、我が国おいては、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故以前に旧原子力安全委員会が策定した「原子力施設等の防災対策について」、いわゆる原子力防災指針で既にICRP1990年勧告を取り入れていました。また、原子力規制委員会が制定した現行の原子力災害対策指針には、ICRP2007年勧告の基本的な考え方も導入されています。
また、我が国の原子力災害対策指針で取入れた国際原子力機関(IAEA)の安全要件「原子力又は放射線の緊急事態に対する準備と対応」(GS-R-2)等で採用されている包括的判断基準(GC)や運用上の介入レベル(OIL)といった概念もこのPAGマニュアル改正版ドラフトでは導入されていません。(DILと呼ばれる、OILと非常に近い、古いIAEAの安全シリーズの概念が適用されています。)
このPAGマニュアル改正版ドラフトにおいて、防護対策の考え方の記載や指針は基本的に旧PAGマニュアルをそのまま踏襲しており、大きな変更は以下に示す事項に限られています。
ここでは暫定的に使用するとされているPAGマニュアル改正版ドラフトの防護対策の指針の概略を以下に示します。
緊急事態 の段階 |
防護措置 | 防護対策の指針 |
初期 最初の4日間 |
屋内退避 もしくは 避難 |
外部被ばくの4日間における予測線量が10〜50mSv - 10mSvで対策の実施に移るべき。 - 避難は放射性物質放出の開始前に完了できること。 - 避難実施に伴うリスクが、被ばくによるリスクよりも高い状況であれば、屋内退避 とする。 - 屋内退避は防護対策の指示を受けたら、直ちに最寄りの堅牢な建屋内 (防護係数が40以上のビル)に退避する。 |
安定ヨウ素剤服用 |
小児甲状腺等価線量の予測線量が50mSvを超える場合。 被ばくする前に、年齢等に係らず、安定ヨウ素剤を服用。[5] |
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公衆や所持品の 表面汚染管理 |
バックグラウンドの2倍で除染実施の要否を判断。 測定場所のバックグランドの状況(γ線で0.1 mR/h)1)と実施した除染のレベルに応じてその後の取扱いを判断。[6] |
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防災要員の防護 |
活動期間中に受ける被ばくの予測線量で判断[6] - 50〜100 mSv:価値のある財産保護に限る(重要なインフラ等)。 - 100〜250 mSv:救命若しくは多人数の防護活動に限る。 - 250 mSv以上:救命若しくは多人数の防護活動のみ、かつ、被ばくのリスクをよく 理解している作業者が自発的判断で行う時に限る。 |
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中期 最初の30日間 及び1年以内 |
移転 | 最初の1年間の予測線量(外部被ばく)で20 mSvを超え、かつ、(除染等を実施しても)2年目以降において年間5 mSvを超えるとき。 |
食品等の 出荷停止 |
予測実効線量が年間5mSvを超えないこと2)、又は、年齢等に係らず、いかなる個人についても臓器若しくは組織の等価線量が年間50mSvを超えないことをベースとして、個々の食品の放射能基準を算出する。3) | |
一時立入の禁止 |
重要なインフラ設備を使用する場合 - 最初の1年間の予測線量(外部被ばく)で20 mSvを超えない。 道路や遊歩道を使用する場合 - 最初の1年間の予測線量(外部被ばく)で20 mSvを超え、かつ、 (除染等を実施しても)2年目以降において年間5 mSvを超える。 移転指示区域内へのアクセス - 一時立入による1年間の予測線量(外部被ばく)が5 mSvを超えない。 |
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防災要員の防護 | 活動期間中に受ける被ばくの予測線量が年間50mSvを超えないこと、かつ、作業者が被ばくのリスクをよく理解していること。 | |
後期 | 除染や廃棄物処理 | (考え方と実施責任の記載のみ) |