第11章 大型炉の設計と研究開発

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 本原子炉の炉心特性を解析した結果、ボイド反応度は0 近傍で、事故時ボイド反応度投入量(定格→100ボイド)は1$以下であること、従来に比べて炉心が縦長になるが、キセノン振動は、生じないこと、プルトニウム富化度(fissile 量)は、プルサーマルの場合の約3分の2で、同一燃焼度が達成できることなどの評価が得られた。
)原子炉及び重水系
 改良型ATR の原子炉容器(外側容器)は、図11.4.2 に示すように、内径約8.4m、高さ約22.5mとなり、A-BWRの原子炉容器に比べて、高さは同じで、内径は若干大きくなる。蒸気圧力・温度は、従来のATR と同じ約6.9MPa、285 ℃で、蒸気流量は5,300t/hである。
 再循環流量は、32,000t/h で、8 台のインターナルポンプで原子炉冷却水を循環させる。カランドリアタンク(内側容器)は、内径約7.1m、高さ約12.5mである。内包される重水の運転圧力と温度は、約7.3MPa、215℃で、この重水を給水加熱器に送って、熱を回収をする。
 余剰反応度は、重水中のボロン濃度を調整して抑制する。原子炉出力は、重水水位を変えることでも調整できるものとしている。
)安全性
 改良型ATR の場合、圧力管は、内側容器の重水と軽水を隔てる管であり、一次系圧力バウンダリーにならないこと、また出入口配管、大口径再循環系配管がないことから、従来のATR と異なり、これらの配管の破断事象を考慮する必要がない。安全解析の結果、蒸気配管の破断事象でのボイド反応度投入は、1$ 以下と評価され、従来のATR に比べて安全性が向上する。また、原子炉内の重水系と軽水系は、独立しており、炉停止後の残留熱除去は、重水系と軽水炉の両者で可能であり、多重性を持っているなどの安全上の特長がある。
)経済性評価
 改良型A T R の建設費を概略評価をした結果、ATR実証炉設計を1,000MWeにスケールアップしたATRプラントと比べ、原子炉及び附属設備(原子炉本体、重水系、安全系、格納容器、燃料取扱系等)の建設費は、約60%に低減する。しかし、重水系等の特有設備があるため、総建設費は軽水炉(BWR)に比べて約10%高くなるとの評価になった。

参考文献
1)動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センター:“動力炉の実用化を目指して−大洗工学センター20年の研究開発−”P16−17、PNC SN9410 90−031、(1990)


11.5 1,350MWe 級ATR 実用炉構想の検討(平成5年〜6年頃)
 平成6 (1994) 年6月の原子力長計の改訂で、「ATRの実用化は、我が国の核燃料リサイクルの確立に寄与し、将来のFBRによる本格的なリサイクルを実現する上で重要であるが、実用化のためには、経済性の見通しを検討することが必要である」とされた。
 このため、更に経済性を上げる実用プラント構想を検討することになり、電源開発が検討していた1,000MW級実証炉改良型ATRをベースに、チャンネル出力をより増大させ、1,350MWe に大型化したATR実用炉を検討し、経済性評価を行った1), 2)
(1)プラント概念
 1,350MWe級ATRの原子炉構造は、「ふげん」と同様の圧力管型炉とし、圧力管1 チャンネル当たりの熱出力を大幅に上げて圧力管本数を削減し、原子炉を小型化することとした。本検討での圧力管は、内径148.1mmφの大口径管とし、燃料は、72本の大型クラスター燃料とした(大口径圧力管と燃料は、製造性等のR&Dを前提に採用)。この場合のチャンネル当たり平均熱出力は、「ふげん」の約2 倍の5.4MWtが得られ、圧力管本数は、780本となる。
 また、原子炉周囲の再循環系機器は、実証炉改良型ATR と同様に、縦型蒸気ドラムとし、再循環ポンプ(インターナルポンプ)を蒸気ドラムの下部に設ける構造とした。これにより、格納容器内径は、小さくなる。1,350MWe級ATR実用炉の格納容器内機器配置概念図を図11.5.1に示す。
(2)経済性評価
 本実用炉プラントについて、ATR経済性評価システム(HERA-code)を用いて経済性評価を行った。その結果、発電単価は、設備利用率80%の場合、約10 円/kWhとなり、同規模のA−BWRと比べ約7〜8%高に収まると評価された。
 以上に述べた各ATR大型炉(実用炉)、「ふげん」及び実証炉のプラント主要目の比較を表11.5.1に示す。


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