第9章 大洗工学センターにおけるATR研究開発

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か、臨界からずれた状態のものかによって、実効増倍率(keff)の解析精度に影響が出る10)。住友2領域炉心実験値とこれに続くDCA実験の初期における実験値と各コードによる計算値(格子パラメータ)との間に大きな相異が出て混乱が生じたのも、これが原因であった。臨界状態の炉心を構成する各単位格子の中性子は、その単位格子での発生分と、隣接する単位格子からの流入分、または隣接する単位格子への流出分がバランスして平衡状態にある。すなわち、各単位格子は、各々の臨界バックリングで平衡になっていると考えられる。したがって、現実の臨界実験の解析を行う場合には、単位格子のスペクトルは、臨界バックリングを用いて臨界状態に調節して計算すべきである。このため、臨界バックリングサーチ機能を整備し、計算上の便宜を図った。
軸方向多重層モデルの確立
 炉心解析コードは、拡散コードCITATIONを用い、3次元形状モデルを基本とした。CITATIONコードを用いるにあたって考慮した点は、軸方向の形状に関して、DCA特有の上下部構造材の反射体効果を正確に評価するため、上下部構造材を軸方向領域に取り入れ、詳細な多重層モデルを確立させて精度の向上を図ることであった。この手法は、「ふげん」の炉心にもそのまま応用して役立てられた。また、「ふげん」特有の軸方向防振板領域は、いくつかのモデルの中から、軸方向1格子ピッチ分の重水中に希釈する手法(単純希釈モデル)を採用し、その効果を入れることができた13)
重水素の熱中性子散乱核モデルの改良
 WIMSコードに内蔵されているHoneckモデルの重水素の熱中性子散乱核ライブラリーは、常温状態のみであったが、重水温度が上昇した状態でも解析できるように同じモデルで温度依存のライブラリーに変更し、現実的な解析ができるようにした。
ライブラリーの拡張・整備
 「ふげん」及び実証炉の燃焼炉心の解析に備えるため、238Pu、233Pa、Cd同位体等の断面積データ及び241Puから241Amへの壊変チェーンの拡張・整備を行い、Pu-U系列及びTh系列の燃焼チェーンを完全に追跡できるようにし、燃焼解析の精度向上を図った。
その他、238Uの共鳴吸収断面積の実験値に基づく補正等を行った。
 以上を総合して、WIMSコードをATRの実験解析コードとしても使用できるように改良し、より普遍性を持ったWIMS-ATRコードを開発した。

MESSIAHコードの開発13)
 このコードは、原研で作成されたLAMP-Aコードシステムをエネルギーは多群のまま、ATR型格子に適用したものであり、衝突確率法に基いて輸送方程式を解く格子計算コードである。燃料ペレット内の中性子束分布や拡散係数の導出も厳密な取り扱いによって可能であった。計算時間の関係上、少数の実験条件について解析し、詳細な炉物理現象の把握に役立てた。また、他の解析コードのモデルや精度をチェックする基準として開発し、使用した。
PHLOX、PHLOX-BURN及びPIEXコードシステムの開発
 臨界実験装置によって得られない実機の運転データ解析のため、燃焼炉心特有の新たな問題に対処できる解析コード及び解析方法の開発を行った。PHLOXコードシステムは、DCA臨界実験を通じて精度確認を行った評価済みコード群(WIMS-ATR-CITATION結合システム)と、それらをつなぐプログラム群より構成されている。これは、「ふげん」の炉心核特性を詳細解析する際の迅速化、省力化を目指したものである。解析する炉心の各単位格子(軸方向分割も含めて)のマクロ断面積は、燃焼履歴に応じ、その都度WIMS-ATRによって計算されるものである。
 PHLOX-BURNコードシステムは、上記のPHLOXコードシステムに、炉心全体の燃焼とそれに伴う核物性の変化を自動的に追っていく機能を追加したものである。このため、各燃焼サイクルにおける、各燃焼ステップごとの核特性値を評価できるようにした。すなわち、3次元2群拡散方程式によるマクロ燃焼方式を採用し、燃焼ステップごとにボイドイタレ



図9.3.12 10B濃度の燃焼による変化の実測値と計算値の比較(ふげん炉心)



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