第8章 「ふげん」における運転・保守技術の高度化

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 「ふげん」の入口管や上昇管をはじめとする原子炉冷却系は、国内のBWRと同じく、主にSUS304ステンレス鋼材で構成されている。昭和47(1972)年、「ふげん」の原子炉本体の製作が開始された。当時のSCC対策に関する情報を基に、入口管や上昇管材料は、極力、炭素含有量の少ないものを選定するなどの対策を講じてきた。しかし、運転を開始して約1年後の昭和55(1980)年に、余熱除去系の冷却材が滞留する配管の一部に、SCCの発生が認められた。
 SCCは、炭素含有量が、0.03%以上のSUS304ステンレス鋼材等であり、溶接熱影響部等の高い残留応力を持ち、かつ鋭敏化した部位が、酸化性の比較的高い水環境中に曝された時に発生する。一般的に、SCCは材料、応力、環境の3因子が重畳した時に、発生するとされており、これらのうち一因子でも改善すれば、SCCの発生を抑制することができる。
 このため、SUS304鋼である原子炉冷却材再循環系等の機器・配管については、表8.3.1に示すように、SCCが、発生しやすいとされた小口径配管から順に、SCC感受性が、極めて低いSUS316L材への材料取替えを行った。また、材料取替えは、不適当であるが、高周波加熱による残留応力改善(IHSI:Induction Heat Stress Improvement)が可能である配管については、これを適用した。平成3(1991)年の第9回定期検査時までに、材料を取替えた配管は
総延長で1,100m、IHSIの実施箇所は、103箇所に上った3),7)
 平成3年12月における原子炉冷却材系の材料構成を図8.3.2に示す。
 管群構造となっている入口管及び上昇管については、配管周辺部が、極めて狭隘であるため、材料取替え・IHSIの適用が、困難である。このため、これらの配管のSCC対策としては、昭和55(1980)年当時、世界的にも試験段階にあった水素注入法8),9)を採用し、原子炉冷却系の水質を改善することによってSCCの発生を防止することとした。
(3)水素注入法の開発
水素注入法の概要及び開発課題
 水素注入法は、原子炉給水中に水素を注入することにより原子炉内の水は、放射線により酸素と水素に分解する。この酸素と水素を再結合させる反応を加速し、結果的に炉水中の溶存酸素濃度を低下させ、SCCの発生しにくい炉水環境を形成する効果を利用するものである。原子炉冷却材中に水素を添加して放射線分解を抑制する方法は、加圧水型軽水炉では、1960年代から採用されている。一方、沸騰水型炉(BWR)では、放射線分解反応を抑制してSCCを防止するには、水素の消費量が極めて多くなったり、主蒸気系へのN-16等の放射性物質の移行挙動が変化して主蒸気系の線量率が著しく増加する恐れがあったため、SCC対策として、昭和53(1978)年に、


図8.3.2 原子炉冷却系の材料構成


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