令和8年8月19日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
国立大学法人京都大学
学校法人日本大学
本研究では、北アルプス(飛騨山脈)が世界でも極めて速い速度で隆起したメカニズムを岩石の形成深度解析などから明らかにしました。またシミュレーション解析から、その要因に火山活動に伴う地下の熱の存在を示し、急速な山脈形成における火山活動の重要な役割を解明しました。
山脈は、地殻が押し縮められたり断層※1が動いたりすること(断層運動)で形成されると考えられてきました。ヒマラヤ山脈やアルプス山脈は、このように形成されてきた山脈の代表例です。一方、北アルプスには、約80万年前にできた世界で一番若い花崗岩※2(地下深くで形成された岩石)が地表に広く露出していることから、過去に非常に速い隆起と侵食が起きた可能性が指摘されていました。しかし、北アルプスを隆起させるような断層はこれまで見つかっておらず、どのような仕組みでそのような隆起と侵食が起きたのか、あるいは本当にこの地域で非常に速い隆起と侵食が起こっていたのか、については十分に解明されていませんでした。
日本アルプスのうち、中央アルプスと南アルプスは明瞭な断層に囲まれており、断層運動で形成されていることがすでに明らかにされていました。しかし、北アルプスの周辺に山を隆起させるような断層があるかどうかは明らかにされておらず、どのようにして隆起したのかは様々な説が提案されていました。研究チームは北アルプス黒部地域の岩石について、世界で一番若い花崗岩(黒部川花崗岩)を含めて、形成深度や年代を詳しく調べました。その結果、年間約1センチにも達する世界最高水準の速さで隆起・侵食が過去約80万年間に起きていたことを明らかにしました。さらに、急速に隆起した背景には、火山活動によって高温になった地殻に対し、変形が集中しやすくなったことが関係している可能性を示しました。これにより、火山活動が山地の急速な成長を促す新たな仕組みを解明しました。
本研究は、山脈形成を理解する上で、断層運動だけでなく地下の熱やマグマ活動も重要であることを示しています。今後、日本列島の他地域や世界の沈み込み帯※3との比較研究を進めることで、火山活動と山脈形成の関係をより包括的に理解できると期待されます。また、現在進行中の地殻変動(山脈形成、地震活動など)の理解にもつながる可能性があります。今後の展開の一つとして、このような火山活動に伴う熱で形成された山脈における地殻変形のメカニズムと、それに伴って発生する地震活動を解明することを目指しています。
なお、本研究は国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口正範、以下「原子力機構」という。)東濃地科学センター ネオテクトニクス研究グループの末岡茂研究副主幹、年代測定技術開発グループの鏡味沙耶研究員、横山立憲研究副主幹、京都大学大学院理学研究科の田上高広名誉教授、河上哲生教授、東野文子助教、日本大学文理学部地球科学科の長田充弘助手らによるものです。
本研究成果は、8月3日付(現地時間)の「Earth and Planetary Science Letters」にオンライン掲載されました。
日本アルプスは日本列島の代表的な山岳地域であり、非常に高く急峻な地形を持っています。日本アルプスのうち、中央アルプスと南アルプスは、周囲に大きな断層が分布し、断層運動によって形成されたことが分かっています。一方、北アルプスの周囲には、北アルプスを隆起させるような断層の存在は知られておらず、どのようにして隆起してきたかは専門家の間でも意見が分かれています。また、中央アルプスや南アルプスと異なり、北アルプスには火山が分布するため、火山活動が関与している可能性も指摘されていましたが、具体的には検討されていませんでした。
北アルプスの黒部地域には、世界で一番若い花崗岩が露出していることが知られています。花崗岩は、地下深くでマグマがゆっくり冷え固まってできる岩石なので、若い花崗岩が今の地表で観察できるということは、過去に急速な隆起・侵食が起こった可能性を示していますが、実際にどれくらいの速さで隆起・侵食が起こったのかもよく分かっていませんでした。
一般的には断層の動きや地殻の押し縮めが山をつくる主な仕組みとされています。例えば、大陸のプレート同士が衝突する大陸衝突帯※4にあるヒマラヤ山脈やアルプス山脈は、この仕組みで誕生したと考えられています。一方で、火山活動が山地形成にどの程度関与しているのかは十分に議論されていません。海のプレートが大陸側のプレートの下に沈み込む「沈み込み帯」には火山弧※5と呼ばれる火山の連なりができます。火山活動が山地形成に及ぼす影響の解明は、日本列島を含め、世界中の沈み込み帯の地殻変動を理解するために重要な課題の一つです。
図1 日本アルプスと今回の調査地域の位置
中央アルプスは東西両側、南アルプスは東側に断層が分布し、断層運動で隆起している。一方、北アルプスの周囲には北アルプスを隆起させるような断層は見つかっていない(糸魚川-静岡構造線は北アルプスと反対側の東側を隆起させるようにずれ動く)。北アルプスを構成する山に火山が含まれるため火山が隆起に関係しているとの説もあるが、隆起のメカニズムについては専門家の間でも意見が分かれている
本研究では、北アルプス・黒部地域(富山県黒部市、立山町、長野県大町市、白馬村)の隆起・侵食を受けた速度を推定し、急速な隆起・侵食がどのような仕組みでもたらされたのかを明らかにすることを目指しました。露出している花崗岩のうち、特に新しい時代に形成されたものを中心に、標高700~2400メートル付近で試料採取し、その形成深度と年代を調べました(図2)。
図2 北アルプスの黒部峡谷における岩石試料の採取と調査中の様子
(試料採取は関係各所の許可を得て実施した)
花崗岩の形成深度は地質温度圧力計※6という手法で、素となるマグマが固結した際の圧力と温度を割り出し、推定しました。一方、形成された年代については、花崗岩にごく微量存在するウランと鉛の比率を基に調べるジルコンU-Pb年代測定法※7で測定しました。
その結果、地表に露出した花崗岩は、過去約80万年前に地下6~9 kmで形成されたことが分かりました。これは、その当時にこの花崗岩の上に載っていた厚さ6~9kmの岩石が、その後の約80万年間で侵食によってすべて失われたため、現在の花崗岩が地表で観察できるようになったことを意味します。つまり、北アルプスが山地の急速な隆起と侵食で形成され、侵食速度は年間およそ1センチ近くに達したことになります(図3)。この速さは、ヒマラヤ山脈、アルプス山脈、台湾、ニュージーランドなどの代表的な大陸衝突帯と並んで世界でも最速のグループに含まれ、地質学的にも非常に高い値です。
図3 北アルプス黒部地域の花崗岩が形成された時代と深度の関係
次に研究チームは、火山活動による熱で地殻の強度が低くなると考えられている点に着目し、北アルプス地域を含む地域に熱の影響を組み込んだ場合の隆起速度について、三次元的な数値モデル(地殻変動モデリング※8)による検討を行いました。
具体的には、地殻中の温度の観測データを基に三次元的な地殻の強度を計算した上で、中部日本の地殻を水平方向に押す力を加えた場合、どの地域がどれくらいの速さで隆起するかをシミュレーションしました。その結果、黒部地域でみられたような局所的で非常に速い隆起が、火山活動による熱の影響がみられる地域で強く表れました(図4)。これは急速な隆起の背景に、地下の温度が高い領域で変形が集中しやすくなる現象があることを示します。
図4 中部日本の地殻中の熱分布と変動シミュレーション
上図は地殻中の温度情報を表し、暖色系の地域ほど地殻温度は高い。赤い三角印は火山で、周辺に火山活動の素となる熱が集合していることが分かる。下図はシミュレーションで計算した隆起速度で、暖色系の地域ほど隆起が速いことを表す。北アルプス(図中「Hida」)の中心に沿って速度が非常に速い場所がみられた
これらの結果から、これまで主にヒマラヤ山脈やアルプス山脈のような大陸同士の衝突帯で議論されてきたような急速な山地形成が、沈み込み帯でも起こりうることを明らかにしました。これにより、山脈形成における火山活動の重要性が改めて示されました。
本研究の成果は、山脈形成の理解において従来の考え方を拡張するものです。これまで大陸同士の衝突帯でできた山地の研究で重視されてきた断層運動や地殻の圧縮に加えて、沈み込み帯で顕著な現象である地下の熱やマグマ活動が重要な役割を果たす可能性が示されました。
今後は、日本列島の他の地域や環太平洋地域など世界各地の沈み込み帯においても同様の現象が見られるかどうかを検証する必要があります。また、火山活動と地殻変形の関係をより詳細に理解することで、山脈がどのように成長するのかという根本的な問題に迫ると同時に、世界の沈み込み帯で発生する地震活動の分布、頻度、発生メカニズムなどの理解にもつながることが期待されます。さらに、この調査手法を用いることで、従来法では困難だった火山の影響を受ける地域での侵食速度を精緻に推定できることから、現在進行中の地殻変動の理解や将来の地形変化の予測にもつながる可能性があります。こうした研究は、地球の内部で起きている長期的なダイナミクスを解明する上で重要な手がかりになると考えられます。
雑誌名:Earth and Planetary Science Letters
表題:Extreme exhumation along a volcanic arc exposed the world’s youngest pluton in the Japanese Alps
著者(所属):末岡茂(原子力機構)、河上哲生(京都大)、鈴木康太(京都大)、鏡味沙耶(原子力機構)、横山立憲(原子力機構)、芝崎文一郎(建築研)、長田充弘(日本大)、山崎あゆ(京都大)、東野文子(京都大)、Georgina E. King(ローザンヌ大)、塚本すみ子(ライプニッツ応用物理学研究所、テュービンゲン大)、Frédéric Herman(ローザンヌ大)、田上高広(京都大)
https://doi.org/10.1016/j.epsl.2026.120218
立案・計画:末岡、King、塚本、Herman、田上
野外調査・試料採取:末岡、河上、鈴木、山崎、King、塚本、Herman、田上
地質温度圧力計分析:河上、鈴木、山崎、東野
ジルコンU-Pb年代測定:鏡味、横山、長田
地殻変動モデリング:芝崎
経済産業省資源エネルギー庁委託事業「高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」(JPJ007597)
日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業: 新学術領域研究(研究領域提案型)「異なる時空間スケールにおける日本列島の変形場の解明」(26109003)
地面や岩盤が大きな力で押されたり引っ張られたりして、割れてずれ動いた面のことです。断層の動きは地震を引き起こすだけでなく、地殻を持ち上げたり沈めたりすることで山地の形成にも関わっています。長い時間をかけた断層運動の積み重ねが、山の高さや地形の形をつくります。
地下深くでマグマがゆっくり冷えて固まることでできる岩石です。通常は地下数km以上の深さで形成されるため、地表で見つかる花崗岩は、その後の隆起や侵食によって地下の岩石が露出したものです。
海のプレートが別のプレートの下にゆっくりと沈み込んでいく場所のことです。この過程で地震や火山活動が活発に起こり、周辺では山脈の形成も進みます。日本列島のように火山と地震が多い地域は、この沈み込み帯に位置しています。
2つの大陸プレートがぶつかり合う場所です。地面が強く押し上げられて高い山脈ができ、大きな地震が起こりやすいのが特徴です。ヒマラヤ山脈、アルプス山脈などが例として挙げられます。
沈み込み帯で、火山が弓のように並んでできる地域のことです。海のプレートが大陸側のプレートの下に潜り込むと、地下でマグマができて火山が生まれます。日本列島は代表的な火山弧の一つで、多くの火山や温泉がある理由もこれに関係しています。
岩石が地下のどのくらい深い場所(圧力)で、どのくらいの温度で形成されたかを調べる方法です。岩石に含まれる鉱物の組み合わせや化学組成を手がかりに、地下深部の環境を推定します。これをもとに、山がどのように形成されてきたかを復元することができます。必要な鉱物化学分析は、京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻が所有する電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)で行いました。
岩石に含まれる鉱物「ジルコン」の中で、時間とともにウランが鉛へ変化する性質を利用して年代を調べる方法です。岩石の形成時期を高い精度で明らかにすることができます。分析には原子力機構・東濃地科学センター所有のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)を用いました。
地震や断層の動き、地殻の変形などのデータをもとに、地球内部で起きている変化をコンピュータで再現・予測する手法です。地面がどのように動いてきたか、また今後どのように変化する可能性があるかを、数値計算によって可視化します。