令和7年5月29日
愛媛大学
理化学研究所
広島大学
日本原子力研究開発機構
九州大学
東京海洋大学
愛媛大学大学院農学研究科 光延聖 教授、内島智貴大学院生(研究当時)は、理化学研究所、広島大学、日本原子力研究開発機構、九州大学、東京海洋大学との共同研究によって、これまで純粋培養が非常に難しかった鉄酸化細菌の培養効率を大幅に向上する方法「オーダーメイド培地法」を確立しました。本成果は、培養困難だった鉄酸化細菌の生理・生態の解明に向けた重要な一歩となります。また、鉄酸化細菌は地下水や河川水などに含まれる有害物質の浄化に利用される有用微生物であり、本成果は微生物利用型の環境修復(バイオレメディエーション)技術への応用が期待される成果です。
なお、本研究成果は、英国の科学雑誌「FEMS Microbiology Ecology」に掲載され、2025年5月5日に先行公開されました。
愛媛大学大学院農学研究科 光延聖教授、同じく農学研究科の内島智貴大学院生(研究当時)は、理化学研究所 加藤真悟上級研究員、広島大学 白石史人教授、日本原子力研究開発機構 徳永絋平研究員、九州大学 濱村奈津子教授、東京海洋大学 牧田寛子准教授らとの共同研究によって、これまで純粋培養が非常に難しかった鉄酸化細菌の培養効率を大幅に向上する方法を確立しました。
鉄をエネルギー源として生きる「鉄酸化細菌」(用語解説1)は、地下水や温泉、湿地など(図3)自然界のさまざまな場所に広く分布し、鉄の酸化反応を通じて地球規模の鉄循環に寄与しています。さらに、彼らが作り出す鉄酸化物(図1)は、ヒ素や銅などの有害元素を強く吸着・固定する能力を持つことから、環境浄化にも応用されています。しかし、このように重要な役割を担っているにもかかわらず、多くの鉄酸化細菌は実験室で純粋培養できず、非常に培養が難しい微生物として知られてきました。実際、陸上環境の独立栄養性鉄酸化細菌の純粋培養(用語解説2)報告は世界で8例程度にとどまっており、その生態解明や工学応用は進んでいません。
本研究チームでは、培地中の酸素、鉄、炭酸の濃度、pHや無機栄養塩のバランスが、鉄酸化細菌が生息する環境条件と大きくかけ離れていることが、培養がうまくいかない要因として着目しました。そこで、本研究チームは、環境水を丹念に分析し、現場水質の化学組成を厳密に再現した“オーダーメイド培地法”を考案しました。また酸素と鉄(II)がちょうど良い割合で共存する、鉄酸化細菌の増殖にとって最適な“安全領域”を培地内に設計しました(図4)。その結果、従来法と比べて最大100倍以上高い効率で集積・分離(用語解説3)ができる培養法を確立しました(図2)。この方法は複数の温泉や地下水環境でも高い有効性を示しており、鉄酸化細菌の研究を前進させるとともに、鉄酸化細菌の特性を活かした環境修復技術(バイオレメディエーション; 用語解説4)の開発にもつながることが期待されます。
本研究成果は、英国の科学雑誌「FEMS Microbiology Ecology」に掲載され、令和7年5月5日に先行公開されました。
鉄酸化細菌は、鉄の酸化反応をエネルギー源として利用する化学合成栄養微生物であり、自然界の鉄循環において中心的な役割を担っています。特に中性条件下で活動する「中性鉄酸化細菌」は、地下水、温泉、湿地(図3)のような環境に広く分布し、鉄の酸化物を生成する過程で、ヒ素や銅などの有害元素を強く吸着・固定する能力をもちます(図1)。そのため、これらの微生物は地球化学的な元素移動の制御や、バイオレメディエーション(微生物を用いた環境修復)技術の開発において極めて重要です。
しかしながら、中性鉄酸化細菌の多くは培養が非常に難しい微生物の代表格とされ、これまで実験室内での純粋培養や集積培養が困難でした。そのため、これらの微生物の生理・代謝特性の解明や工学応用などは進んでいません。
本研究では、自然環境中の鉄酸化細菌を高効率に集積・分離するための新たな「オーダーメイド培地アプローチ」を開発しました。調査地としたのは、島根県の鉄を含む温泉(図3)です。この調査域ではGallionellaceae科に属する鉄酸化細菌が優占することが、遺伝子解析により明らかになっていました。まず、本研究チームは現地の温泉水の化学成分(栄養塩類、鉄、酸素、炭酸イオンの濃度、pHなど)を詳細に分析し、その成分を厳密に再現した培地(=オーダーメイド培地)を作成しました。培地中の物理構造にも工夫を施し、鉄と酸素がちょうど良い濃度で共存できる鉄酸化細菌のための「安全領域」を設けることで(図4)、現場環境に近い生育場所を培地内に再現しました(図5)。
その結果、従来法に比べて100倍以上の高い効率で鉄酸化細菌(Gallionellaceae科の細菌群)を選択的に集積することに成功しました(図2)。さらに、これまで未培養であった新種の鉄酸化細菌の分離にも成功しました。また、この培養法は他の温泉や地下水環境でも高い有効性を示すことがわかりました。
今回開発されたオーダーメイド培地アプローチは、従来困難とされてきた難培養性鉄酸化細菌の集積・分離を行う上で、非常に有効であることが明らかになりました。今回の技術は、単に温泉という特定の場所に限定されるものではありません。現地環境に応じて培地の成分や構造を調整できる「オーダーメイド方式」であるため、各地の土壌、地下水、湿地、鉱山跡地など、多様な陸上環境に広く適用可能な汎用性の高い手法です。
また、本成果により、これまで未培養であった鉄酸化細菌群の生理学的・生態学的解析が大きく進展すると期待されます。さらに、鉄酸化細菌が作り出す鉄酸化物は、化学的な合成物と比べて大きな表面積をもつことがわかっており、ヒ素や銅などの有害元素を強力に吸着・固定します。そのため、本手法は、高性能な鉄酸化細菌の分離などバイオレメディエーションへの応用が期待されます。例えば、高い水浄化能をもつ鉄酸化細菌や高い金属耐性をもった鉄酸化細菌など、“高性能”な鉄酸化細菌分離に応用できるため、未解明な微生物機能の発見から新たな微生物資材の開発など、広範な分野での活用が見込まれます。
Fe2+ | + | 0.25O2 | + | 2.5H2O | → | Fe(OH)3↓ | + | 2H+ |
電子供与体 | 電子受容体 | 酸化鉄鉱物の沈殿 |
掲載紙:FEMS Microbiology Ecology
DOI:https://doi.org/10.1093/femsec/fiaf051
題名:Custom-made medium approach for effective enrichment and isolation of chemolithotrophic iron-oxidizing bacteria (邦訳)独立栄養性鉄酸化細菌の高効率培養を可能とするカスタムメイド培地アプローチ
著者:Tomoki Uchijima, Shingo Kato, Kazuya Tanimoto, Fumito Shiraishi, Natsuko Hamamura, Kohei Tokunaga, Hiroko Makita, Momoko Kondo, Moriya Ohkuma, Satoshi Mitsunobu* (*責任著者)