国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

平成27年12月18日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

抗がん剤の作用メカニズムの『鍵』を原子レベルで解明
―より効果の高い抗がん剤の開発に繋がると期待―

【発表のポイント】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という。)原子力科学研究部門量子ビーム応用研究センター分子構造ダイナミクス研究グループの玉田太郎グループリーダーらは、がん細胞に特異的に細胞死を引き起こす抗体の立体構造とその作用の「鍵」となる基本単位を、原子レベルで明らかにすることに成功しました。

ヒトなどの高等生物の細胞では、細胞表面に存在するタンパク質が出す信号が細胞死(アポトーシス2))を引き起こすことが知られています。この信号はがん細胞のみを死滅させるという特長を持っているため、これを伝達する物質は抗がん剤として働くことが期待されます。

研究グループでは、この細胞表面のタンパク質と抗体と呼ばれるタンパク質の複合体結晶を作製し、X線結晶構造解析3)の手法を利用して、これらのタンパク質が結合した状態を原子レベルで高精度に観測することに成功しました。

さらに詳細な観察により、抗体が作用するメカニズムの「鍵」となる基本単位を結晶中に見出し、様々な検証を行いました。その結果、抗体がこの「鍵」により、がん細胞の表面でタンパク質を高度に会合(複数の分子が一定の決まりで結びついた状態)させて、細胞死を誘導するというメカニズムを世界で初めて明らかにしました。

本研究成果により、がん細胞が、抗体の作用によって死に至るメカニズムが詳細に明らかになりました。近年、抗体の特性を活かした分子標的治療4)が盛んに行われており、数多くの抗体分子が医薬品として臨床応用されています。本研究で得られた原子レベルでの知見は、より効果の高い抗がん剤の開発を推し進め、将来的に副作用が低減した抗がん剤の創製に繋がると期待されます。

なお、本研究成果は、12月17日にScientific Reports誌(Nature Publishing Group)に掲載されました。

参考部門・拠点: 量子ビーム応用研究センター

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