国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

平成27年11月5日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

放射線障害を回避する染色体タンパク質の立体構造の変化を初めて観測
―DNA損傷修復機構の解明と放射線障害の防止に期待―

【発表のポイント】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄。以下「原子力機構」という)量子ビーム応用研究センター 放射場生体分子科学研究グループの泉雄大博士研究員、横谷明徳リーダーらは、放射線を照射した細胞が、染色体1)を構成するタンパク質の立体構造を自ら変化させることを発見しました。この構造の変化は、放射線で傷ついた遺伝子(DNA)の修復を促していると予想されます。

今回、泉博士研究員らは、放射線で傷ついたDNAを修復している途中の細胞の中から、DNAとともに染色体を構成しているヒストン2)と呼ばれるタンパク質を取り出し、円偏光二色性スペクトル測定3)という手法を新たに用いてヒストンの構造を調べました。その結果、放射線を照射していない細胞から取り出したヒストンと比べ、らせん状の構造4)となる部分が増えていることを発見しました。また、少なくとも24時間はらせん構造を持続することをも分かりました。

これまで、ヒストンがDNAの修復に何らかの大きな役割を果たしていることは知られていましたが、そのヒストンを構成するタンパク質の構造を部分的に細胞自らが変化させていることが今回初めて明らかとなりました。

今後、この構造変化の原因や染色体を安定化する役割を詳しく調べることで、傷ついたDNAを細胞が自ら修復するメカニズムの全容が解明できるようになり、さらに将来、薬剤を用いるなど人工的にこのような構造変化を促しDNA損傷の修復の効率を上げることで、放射線がん治療における正常組織の放射線障害を抑制・防止する技術の開発にも繋がると期待されます。

なお、本研究成果は、放射線科学研究のトップジャーナルである米国放射線科学会誌「Radiation Research」の11月号に掲載される予定です。

図1

図. 波状の構造をしていた部分がらせん状に変化したことを示すイメージ図

参考部門・拠点: 量子ビーム応用研究センター

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