国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

平成27年4月13日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

非磁性体の電子スピンを“ありのまま”で観測
~陽電子ビームの可能性の創出~

【発表のポイント】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄。以下「原子力機構」という)量子ビーム応用研究センター 先端機能材料創製研究ディビジョン スピン偏極陽電子ビームグループの河裾厚男リーダーらは、同グループが開発したスピン偏極陽電子ビーム(1)を用いて、電流を流した非磁性体中の電子スピン配列現象をビスマスと銀の接合デバイスで直接観測することに初めて成功しました。

近年、電子デバイスの省電力化(2)のために、電子の電気的性質を利用する「エレクトロニクス」に対し、磁気的性質であるスピンを融合した「スピントロニクス」(3)が有用な手段として期待されています。その実用化には、物質中の電子スピンを観測し、電気的に電子スピンを制御することが課題となっています。「エレクトロニクス」が磁気を使わないことから、「スピントロニクス」においても非磁性体を用いることが重要です(4)。そのためのデバイスとして非磁性体を材料としたビスマスと銀(Bi-Ag)の接合体が有望な候補とされていましたが、電流を流した状態でのスピン制御について実験的検証はなされていませんでした。

今回、当研究グループは、独自に開発した「スピン偏極陽電子ビーム」を用いて、このデバイスに電流を流した状態で電子スピンを観測しました。これまでの方法は、電子スピンを電気信号に変換するための電極を試料の表面に取り付けるため、表面の状態が変わってしまう可能性がありましたが、「スピン偏極陽電子ビーム」は自然な状態で表面にある電子スピンを直接観測でき、物質内のスピンの伝導状況も分かります。

本手法を用いた結果、Bi-Ag接合体の表面において、電流に対して垂直に電子スピンが配列していることを実験的に初めて確認する事に成功しました。今回の研究成果は、スピン偏極陽電子ビームがスピントロニクスの材料研究の分析手段として有用であることを示しており、今後さらなる研究成果が期待されます。

本研究成果は、米国物理学会誌 「Physical Review Letters」のオンライン版に4月13日に掲載される予定です。

参考部門・拠点: 量子ビーム応用研究センター

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