用語解説:

(注1)強誘電性

外から電場をかけなくても自発的に電気分極(注6)が生じる性質のこと。

(注2)マルチフェロイック

スピンの規則的配列(磁気秩序)による磁気特性と、強誘電性(注1)を併せ持つ性質。

(注3)パルス強磁場

大容量のコンデンサー群に電気を貯め、その貯めた電気をコイルに瞬間的に放電して大電流を流すことで、極めて短い時間だけ発生する非常に強い磁場。パルス強磁場は瞬間的ではあるが、超伝導電磁石に電流を流すことで発生する磁場に比べて、より強い磁場を発生させることができる。

(注4)中性子回折

中性子線がもつ波の性質を利用し、結晶内で規則的に並んだ原子核やスピンの配列(構造)を決める手法。中性子はスピンをもつことから、スピンの規則的配列(磁気構造)の決定に用いられる。

(注5)テスラ

磁場(厳密には磁束密度)の単位。1テスラ(=1万ガウス)は地磁気の約2~3万倍。

(注6)電気分極

電気を通さない絶縁体を電場の中に置くと、それぞれの原子や分子中の電子が、クーロン力(静電気力)を受けて電場とは逆の方向に引き寄せられる。結果として、絶縁体の電場方向の面は正電荷に、逆の面には負電荷に偏る。この電荷の偏りの大きさを電気分極という。

(注7)完全三角格子反強磁性体

原子やイオンが正三角形の頂点に配置され、その正三角形で平面を埋め尽くした結晶格子を完全三角格子と呼ぶ。完全三角格子上に磁性イオンが配置され、それぞれの隣り合う磁性イオンのもつ微小磁石(スピン)の間に互いに反対を向こうとする力(反強磁性相互作用)が働く磁性体を、完全三角格子反強磁性体と呼ぶ。

添付資料:

図1

図1 正三角形上のスピンの状態。それぞれのスピンの間には互いに反対向きにしようとする力(反強磁性相互作用)が働いている。(a)それぞれのスピンが上か下の2方向しか向けない場合。青と緑のスピンの向きが決まっても、残りの赤のスピンは上下どちらを向いていいかわからない。(b)(c)スピンがどの方向を向いても良いとする場合。互いに反対向きにしようとする力が三つ巴に拮抗するため、隣接するスピンが120度だけ傾いた状態が安定になる。この状態は2つある。正三角形の頂点について右回りに順にスピンを見た場合の (b)の「右回り」に120度傾いているプラス状態と、(c)の「左回り」に120度傾いたマイナス状態である。このプラスとマイナスの違いをスピンカイラリティと呼ぶ。

図2

図2 直線上のらせん的なスピンの配置。ネジと同じく進行方向に対し(a)左回りと(b)右回りがあり、この違いをスピンヘリシティと呼ぶ。

図3

図3 モリブデン酸鉄(III)ルビジウムRbFe(MoO4)2の結晶構造。3価の鉄イオンが正三角形で平面を埋め尽くした完全三角格子を形成しており、これが磁性を担っている。絶縁体である。

図4

図4 電気分極の磁場による変化。図上部の矢印はある磁場の強さでのスピンの状態を示し、重なり合う黒と灰色の矢印は上下に隣り合う2つの面の間の関係を示す。同じスピン状態である磁場の領域を「相」と呼び、図ではP1相からP3相を表示している。P1相(水色)からP2相(紫色)へスピンの状態が変化する際に、実験結果の電気分極の磁場による変化は連続的に変化している。電気分極の起源をスピンヘリシティで説明するモデル計算(スピンヘリシティ起源のモデル計算)は大きな跳びがあり実験結果を説明できないが、電気分極の起源をスピンカイラリティで説明するモデル計算(スピンカイラリティ起源のモデル計算)は実験結果を良く再現する。従ってこの実験結果はスピンカイラリティの振る舞いを直接反映したものと言える。


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