独立行政法人日本原子力研究開発機構/光産業創成大学院大学

独立行政法人日本原子力研究開発機構
光産業創成大学院大学

X線による蜃気楼を初めて観測
−プラズマの密度の濃淡によるX線の屈折を利用したX線光学素子の実用化に弾み−

【発表のポイント】

独立行政法人日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構)の量子ビーム応用研究部門、光産業創成大学院大学、およびロシアのモスクワ州立大学、合同高温科学研究所の研究グループは、プラズマの密度の濃淡によりX線の進む方向が曲がることによってX線領域の蜃気楼が発生することを初めて観察することに成功しました。

蜃気楼現象は大気の密度の濃淡による光の屈折率の違いが、本来、直進するはずの光を曲げることで、あるはずのない場所に風景などが見える現象です。X線は透過する物質の密度が変化しても屈折率がほとんど変わらないので、可視光よりも曲がりにくい(直進性が高い)性質があり、これまで、X線領域の蜃気楼現象を地上で実現するのは難しいと考えられてきました。

本研究グループは、原子力機構が開発したX線レーザー1)を、プラズマ2)に入射し、その際のX線レーザービームの像を調べました。その結果、2つのレーザー光が重なり合ったときにのみ現れる「干渉縞」3)と呼ばれる縞模様が観測されました。これは、本来1つであるはずのX線レーザービームが2つに見えることを意味します。この不思議な現象の原因を解明するために、プラズマを通過するX線の進み方を計算機シミュレーションにより再現することを試みました。その結果、X線レーザーがプラズマを通過する際に、その一部がプラズマの電子密度の濃淡により強い屈折を受け、あたかもその場所に新しいX線光源が存在するかのような蜃気楼が出現していること、また、その蜃気楼を光源とするX線レーザービームと、屈折を受けずにプラズマを通過した本来のX線レーザービームが重なることで、干渉縞ができることが判りました。

今回の結果は、これまで実現が難しいと思われていたX線領域の蜃気楼を初めて観測した事例になります。通常の蜃気楼における「大気」と同様の役割を、X線を曲げるほどの屈折率を持つことができるプラズマが担ったことにより実現可能になったといえます。

本研究結果は、科学的な観点からは、X線領域の新現象の発見であるとともに、X線を含めた光の進み方からプラズマや物質の密度を計測する技術につながる成果といえます。また、産業応用の観点からは、新しいX線のレンズや鏡などの「プラズマX線光学素子」の提案としても興味深い成果です。この光学素子は、原理的に、どの波長のX線にも適用可能で、しかも高強度のX線にも耐えることができるので、X線装置の設計の自由度が拡がります。このX線光学素子の実用化が進めば、X線自由電子レーザー4)などの高強度X線用の高耐力レンズや鏡として、また、非破壊検査用X線透過装置など、既存のX線利用装置の高出力化・高効率化につながる技術として期待できます。

本研究成果は、英国のオンライン科学雑誌「Nature Communications(ネイチャーコミュニケーションズ)」に、6月4日(ロンドン時間、日本時間で6月4日夜)に掲載されます。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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