【用語説明】

1)X線レーザー、プラズマX線レーザー

X線領域(軟X線〜硬X線、図1参照)のレーザーをX線レーザーと呼びます。X線レーザーの発生方法にはいくつかあり、今回実験に利用したX線レーザーは、強い赤外線レーザーを金属やガスなどの試料に照射することで生成するプラズマ状態を利用して発生させます。その際にプラズマ状態の温度と密度を特定の値になるように制御すると、プラズマ中のイオンに「誘導放出効果」と呼ばれるX線を増幅する効果を持たせることができ、その結果、軟X線領域のX線レーザーが得られます。補足図1の中で上半分は、X線レーザーを発生させる際の模式図を示しています。下半分には、図3と同じ今回の実験配置図が描かれていますが、このX線レーザーを発生させる部分は、赤色の点線の丸で囲まれた部分に相当します。

プラズマ状態を用いるX線レーザーでは、用いる試料を変えることでレーザーの波長を変えることができます。今回の実験では、銀を試料として用いることで発生する波長13.9ナノメートルのX線レーザーを利用しています。なお、最近実用化された、SACLAに代表される大型加速器技術を利用したX線レーザー(X線自由電子レーザー)と区別するために、プラズマX線レーザーと呼ぶこともあります。

補足図1 X線レーザー(プラズマX線レーザー)の発生部分の模式図と、全体の実験配置図との位置関係

2)プラズマ

気体を構成する原子または分子が部分的、ないし完全に電離(原子がイオンと電子に分かれること)し、イオンと電子が自由に動き回れる状態をプラズマといいます。プラズマは身近に数多くあり、蛍光灯や雷などの放電現象や、太陽をはじめとする恒星もプラズマです。科学技術開発の分野では、核融合研究において高温のプラズマの閉じ込めの研究がおこなわれている他、本研究に関連した内容では、強力なレーザーを金属やガスなどの試料に照射した際に生成するプラズマを利用して、そこから発生するX線レーザー等のX線源や、イオンビーム、電子ビーム等の高度に制御された人工放射線源である「量子ビーム」の開発が進められています。

3)干渉縞、位相、空間コヒーレンス

光は波としての性質を持ち、その波の山と谷の位置のことを「光の位相」といいます。レーザー光は、光の波の山と谷の位置が揃った光(位相が揃った光)で、波長が同じレーザー光を2つ重ねると、両者の波の山と山が重なる位置で光が強めあい、明瞭な縞模様ができます。この縞模様を干渉縞といいます。レーザー光が持つ、この干渉縞を作ることができる特性を空間コヒーレンスといいます。通常の電灯などからの光では、光の波長が一種類ではなく、しかも含まれる光の山の位置や谷の位置もばらばらなので、光が強めあう位置に規則性がないために縞模様はできません。

補足図2 2つのレーザー光を赤色と青色で表示しています

4)X線自由電子レーザー

多数の磁石を、極性を入れ替えながら直線状に配列した、アンジュレータと呼ばれる装置の中を共に進む電子ビームと光の相互作用が誘導放出効果をもたらすという原理を利用し、アンジュレータ内に配置した磁石の周期長と電子ビームのエネルギーの組合せによって特定の波長のX線を増幅させて得られるレーザー光。最近では、SACLAにおいて、0.1ナノメートル領域のX線レーザービームが実用化されています。その際の、電子ビームのエネルギーは8 GeV(GeVは、10億ボルト)、磁石の周期長は15ミリ、アンジュレータの長さは約80メートルになります。


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