独立行政法人理化学研究所/独立行政法人日本原子力研究開発機構

独立行政法人理化学研究所
独立行政法人日本原子力研究開発機構

電子スピンから分化したN極とS極のヒッグス転移を磁性体で観測
−磁荷を損失なく運ぶ新しいスピントロニクスの可能性を示唆−

本研究成果のポイント

理化学研究所(野依良治理事長)と日本原子力研究開発機構(鈴木篤之理事長)は、磁性体Yb2Ti2O7を絶対温度※10.3度まで冷却すると、電子スピンのN極とS極が分化する証拠の一端を見いだしました。さらに低温の絶対温度0.21度まで冷却すると、N極とS極の一種の超伝導を示唆する強磁性状態に相転移する様子も観測しました。この相転移は、スピンの単極子のヒッグス転移※2として理解できます。これは、理研基幹研究所(玉尾皓平所長)古崎物性理論研究室の小野田繁樹専任研究員、日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門のリージェン・チャン研究員(現・台湾成功大学物理学科講師)、ドイツユーリッヒ総合研究機構中性子科学センターのイシ・スー研究員、名古屋大学理学部物理学科の安井幸夫助教(現・明治大学理工学部准教授)らの研究グループによる成果です。

電子は、地球の自転に似た回転(スピン)運動を行い、小さな磁石としての性質を持ちます。通常の磁性体が極低温になると、これら多数のスピンは一定方向にそろって磁気秩序を示します。この場合、スピンの単極子であるN極とS極は、電荷の単極子(+と−)と違って不可分です。しかし、スピンアイス※3と呼ばれる磁性体では、極低温でも磁気秩序が生じません。スピンアイスでは、電子スピンのN極とS極が分化して振る舞い、やがて消滅します。一方、2010年〜2012年、理研の小野田専任研究員らは、量子スピンアイス※4と呼ばれる磁性体の存在を理論的に予測し、そこでは単極子がボーズ-アインシュタイン凝縮※5を起こして磁気秩序を示す場合があることを導きました。このとき、単極子は仮想的な電磁場(ゲージ場)と結合するため、ヒッグス機構※2により有限の励起エネルギー(質量)を持ち、電荷をスピン単極子に見立てた超伝導状態と同様な磁気秩序を作り出すことが理論的に予測されます。

研究グループは、量子スピンアイスの性質を持つ磁性体Yb2Ti2O7を極低温まで冷却し、絶対温度0.21度で、N極とS極が分化した状態から、ボーズ-アインシュタイン凝縮した強磁性状態に相転移する現象を観測しました。これにより、スピン単極子がヒッグス転移する証拠の一端を得たことになります。

電流を産業応用に利用するエレクトロニクスでは、電荷がボーズ-アインシュタイン凝縮する超伝導が有用です。今回発見したスピン単極子の凝縮は、磁性体の磁化の制御を利用するスピントロ二クスにおいて超伝導に似た役割を果たすと期待され、基礎と応用の両面で重要な知見となります。

本研究成果は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(8月7日号:日本時間8月8日)に掲載されます。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

戻る