平成23年7月22日
科学技術振興機構(JST)
大阪大学
J−PARCセンター

世界最高性能の中性子集光技術を確立
−中性子ビームの強度を50倍以上に増強するミラーの開発に成功−

JST 研究成果展開事業【先端計測分析技術・機器開発プログラム】要素技術タイプの一環として、大阪大学 大学院工学研究科の山村 和也 准教授と日本原子力研究開発機構 J−PARCセンターの曽山 和彦 セクションリーダーらの開発チームは、中性子ビームを極めて高効率で集光させることができる楕円面スーパーミラー注1)の開発に成功しました。この楕円面スーパーミラーを用いると、単位面積あたりの中性子ビームの照射強度が、ミラーを使用しない時と比較して50倍以上に増加します。

中性子は陽子とともに原子核を構成する中性の粒子で、磁気を持っています。中性子が束状になって進むと中性子ビームとなります。中性子ビームを用いると、X線では調べることが困難な水素などの軽い元素や磁気を持つ物質を調べることができます。2008年に建設された大強度陽子加速器施設(J−PARC)注2)では、強い中性子ビームを発生させることができますが、物質の表面界面や極限環境下の構造を詳細に観測するには、さらに強いビームが必要です。そのためには、中性子ビームを絞る高性能な集光技術の確立が不可欠です。

今回、ナノメートル(nm:ナノメートルは10億分の1メートル)精度で加工された石英基板注3)上にニッケル炭素とチタンの多層膜を安定に形成することで、世界最高性能の中性子集光技術の開発に成功しました。この集光技術を用いると中性子ビームを効率的に集光でき、ハードディスクなど記憶媒体上の磁気構造をナノメートルレベルの分解能で解析することが可能になります。これは、次世代の高密度記録媒体を開発するための基盤となる技術です。また中性子ビームの強度が高くなると、高温・高圧下の微粒子内部に含まれる水の原子配列などを精密に調べることも可能になり、地球・惑星深部の構造に迫る研究などにも有用であると期待されます。

本開発成果は、チェコ・プラハで開催されている中性子散乱に関する国際学会「ECNS2011」で2011年7月22日(チェコ時間)に口頭発表されます。

本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。

事業名:研究成果展開事業【先端計測分析技術・機器開発プログラム】要素技術タイプ

担当開発総括:本河 光博(東北大学 名誉教授)

開発課題名:「中性子集光用非球面スーパーミラーデバイスの開発」

チームリーダー:山村 和也(大阪大学 大学院工学研究科 附属超精密科学研究センター 准教授)

開発期間:平成21〜24年度(予定)

JSTはこのプログラムの要素技術タイプで、計測分析機器の性能を飛躍的に向上させることが期待される新規性のある独創的な要素技術の開発を行うことを目的としています。

以上


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