平成21年7月30日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
公立大学法人大阪府立大学

セリンプロテアーゼのオキシアニオンホールの観測に世界で初めて成功
−中性子によるタンパク質分解酵素の高度な機能の解明−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄、以下「原子力機構」という。)の生体分子構造機能研究グループと、公立大学法人大阪府立大学(学長 奥野武俊)の共同研究グループは、代表的なタンパク質分解酵素であるセリンプロテアーゼ1)と、その機能を抑制する化合物(以下、「阻害剤」という。)の複合体結晶を作製し、全原子の構造解析に世界で初めて成功しました。その結果、セリンプロテアーゼの機能発現に必要不可欠なオキシアニオンホール2)の状態を世界で初めて明確に捉えることができました。この成果はセリンプロテアーゼの巧みなタンパク質分解機能の解明につながることが期待できます。

セリンプロテアーゼがタンパク質を分解する場合には、「オキシアニオンホール」と呼ばれる特殊な立体構造において酸素陰イオンを生成することによって、分解反応を促進すると考えられていましたが、これまで証明されていませんでした。酸素陰イオンの生成を観測するためには、オキシアニオンホールに結合した酸素原子から水素原子がなくなっていることを確認する必要があります。そこで今回研究グループは、セリンプロテアーゼの一つであるエラスターゼ3)に着目し、阻害剤との複合体結晶を作製することによって分解反応の中間状態を作りだしました。そして、この複合体結晶を対象として、水素原子の観測を得意とする中性子ビームを用いた全原子構造解析(中性子構造解析4))に取り組みました。解析には原子力機構の研究用原子炉JRR-3に設置された生体高分子用中性子回折装置(BIX-35))を用いることで、エラスターゼのオキシアニオンホールに酸素陰イオンが生成していることを世界で初めて観測しました。

今回得られた研究成果は、セリンプロテアーゼによる高度なタンパク質分解メカニズムの解明において重要な貢献をするものです。本成果によって得られたエラスターゼと阻害剤との相互作用についての情報は、異常増大により急性膵炎などをもたらすエラスターゼを抑制する治療薬の開発に貢献すると考えられます。また、近年医薬品開発において一般的になりつつある立体構造情報を基盤とした創薬設計の手法の高度化に貢献することが期待されます。

なお、この研究成果は、2009年7月15日に米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)のオンライン版に掲載されました。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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