【用語説明】

1) セリンプロテアーゼ
代表的なタンパク質分解酵素の1つで、化学反応促進(触媒)時にハサミとして機能する重要なアミノ酸としてセリン(Ser)残基を有していることからこの名前がつけられています。セリンプロテアーゼは、セリン残基のほかに触媒残基としてヒスチジン(His)残基とアスパラギン酸(Asp)残基を含んでおり、これら3つのアミノ酸は空間的にSer-His-Aspの順で水素結合を形成するよう配置しています。この水素結合ネットワークにより、セリン残基側鎖の酸素原子の求核性が高められ、基質(切断されるタンパク質)ペプチドの主鎖にあるカルボニル基の炭素原子に求核攻撃を行います。
2) オキシアニオンホール
セリンプロテアーゼの触媒反応の初期段階において、セリン残基の求核攻撃により、基質ペプチドと共有結合した四面体型中間体複合体が形成されます。この際に生じる立体構造変化によって、基質ペプチドのカルボニル基の酸素原子が分極し、酸素陰イオンの状態で、触媒残基のセリンと2つ隣のグリシンの主鎖のアミド基から構成される特徴的な構造(オキシアニオンホール)に捉えられ、正四面体型中間体の形成を促します。セリンプロテアーゼの活性部位は、この正四面体型中間体に親和性を持つため、高い反応効率が得られると言われています。
3) エラスターゼ
セリンプロテアーゼの1種で、動脈壁や筋肉の腱を構成するエラスチンという成分を分解します。膵臓、好中球、血小板などに存在しています。種々の原因により膵臓自体の防御機構が破壊された時に、膵臓エラスターゼが膵臓の自己消化を起こし、その結果、急性膵炎、引いては腎不全、呼吸不全をも発症させることが知られています。また、好中球由来のエラスターゼに対する阻害剤は全身性炎症反応症候群に対する急性肺障害の治療薬として実際に上市されています。
4) 中性子構造解析
結晶への中性子照射で得られた散乱中性子から、結晶の構成分子の詳細な3次元構造情報を得る分析法です。原子、分子が規則正しく並んだ”結晶”に中性子を照射すると、タンパク質を作る複数の原子に散乱した中性子が干渉して”ブラッグ反射”と呼ばれる回折像が得られます。このブラッグ反射を強度測定し、計算機で解析すると単結晶の構成分子の3次元構造が得られます。同様の実験はX線でも可能ですが、X線の散乱強度は原子が持つ電子数で決まるのに対し、中性子のそれは原子核と中性子の相互作用の強度で決まります。
5) 生体高分子用中性子回折装置BIX-3
BIX-3は検出器部分に中性子イメージングプレートを用いて、効率的な単結晶中性子構造解析を可能にした分析装置です。実験室のX線発生装置やSPring-8等の放射光施設で得られるX線と比べて研究用原子炉で得られる中性子は強度が弱く、単結晶中性子構造解析には大型の単結晶と長い測定時間が必要です。BIX-4は中性子の弱点補完のために、大面積の中性子用2次元検出器”中性子イメージングプレート”で試料単結晶を取り囲み、従来型に比べて大幅に測定効率を向上させた単結晶中性子回折計です(図3、図4)。タンパク質等の様々な生体高分子の立体構造解析装置として、1999年に日本原子力研究所(当時)の新村信雄グループリーダー(現、茨城大学特任教授)らによって開発されました。

図3.生体高分子用中性子回折計BIX-3の外観 / 図4.BIX-3の模式図


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