平成21年3月17日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
国立大学法人新潟大学

植物ポジトロンイメージング技術により共生的窒素固定の観測に成功
−微生物が空気から作る肥料をダイズの生産に活かす−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄、以下「原子力機構」という。)と国立大学法人新潟大学(学長 下條文武、以下「新潟大学」という。)は、ダイズの根粒1)が空気中の窒素を栄養として取り込む「共生的窒素固定2)」の様子を、植物ポジトロンイメージング技術3)によって、自然な状態のままで観測することに世界で初めて成功しました。これは原子力機構量子ビーム応用研究部門ポジトロンイメージング動態解析研究グループの石井里美研究員、藤巻秀研究副主幹らならびに新潟大学農学部の大山卓爾教授らによる研究成果です。

我が国のダイズの自給率は約4%と大変低く、少しでも高める必要があります。このためには、ダイズ一本あたりの生産量を増加させる方法が有力です。しかし、化学窒素肥料を多く使うと、むしろ生産量が減ってしまうことがあります。これは、ダイズの生産の鍵となる、マメ科の植物が、根粒菌1)という地中の微生物を根に取り込んで、根粒菌が空気中の窒素を栄養に変える活動を利用する共生的窒素固定の力を低下させてしまうからです。これを解決し、ダイズの生産量を上げるためには、生きたダイズと根粒菌の自然な状態を保ったまま窒素固定の様子を観測することが必要です。その上で、観測結果から共生的窒素固定を最大限に活用するための化学窒素肥料の使い方を知ることができれば、ダイズの生産量の増加につながると期待されます。

原子力機構は、放射性トレーサを用いて生きた植物体内の様々な物質の動きを観測できる「植物ポジトロンイメージング技術」の開発を進めてきました。今回、窒素の動きを観測するため放射性窒素ガス4)の製造に新たに取り組み、これを迅速に精製して植物に投与する方法を開発することで、ダイズの根粒が空気中の窒素を栄養として取り込む様子を自然な状態のままで観測することに世界で初めて成功しました。さらに、これによって得られた画像データをもとにダイズ根粒の窒素固定の能力を測ることにも成功しました。

本研究成果により、共生的窒素固定の仕組みの解明が飛躍的に進むことが期待できます。そして共生的窒素固定の利用効率を向上させる最適な栽培条件が確立できれば、我が国のダイズの生産量を倍増させることも可能と考えられます。さらに、無駄なく効果的な施肥方法の実現は、環境負荷を軽減した持続的な食糧生産に貢献します。

なお、本研究成果は3月21日から名古屋大学で開催される日本植物生理学会、及び6月に米国モンタナで開催される国際窒素固定会議において発表する予定です。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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