平成20年11月13日
独立行政法人日本原子力研究開発機構

準商用規模で高性能被覆燃料粒子用被覆材の製造に成功し、照射試験を世界で初めて実施
−原子力水素社会の実現に向けた燃料開発の技術が大きく前進−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄、以下「原子力機構」という)は、水素エネルギー社会(資料1)の実現に向けて、950℃を超える原子炉出口温度での運転により高効率発電と熱化学水素製造など高温プロセスが利用可能な「超高温ガス炉(VHTR)(資料2)」の研究開発を進めていますが、この度、その実用化に有用な「高性能被覆燃料粒子(資料3)用被覆材」を準商用規模で製造することに成功し、照射試験を世界で初めて実施いたします。

現在の高温ガス炉は、TRISO型(TRi-ISOtropic;三重被覆)被覆燃料粒子の被覆材料に許容設計限界が1600℃の炭化ケイ素(SiC)を用いますが、炭化ジルコニウム(ZrC)は、高融点(約3420℃)で耐熱性・化学的安定性等に優れており、これをTRISO型被覆燃料粒子の被覆材として導入することにより、将来のVHTRの更なる高性能化(高温化や高燃焼度化)が可能になると考えられています。そのため、世界各国が、ZrCを被覆材とした先進燃料の開発・製造を進めつつあります。

炭化ジルコニウム(ZrC)被覆燃料の性能を十分に発揮させるには、被覆材の高密度化と高熱伝導化が条件です。そのためには、ジルコニウム(Zr)と炭素(C)の原子数比を1:1にしたZrC被覆層の蒸着が不可欠です。しかし、これら物性値の低下や層の均一性を損なう過剰な炭素成分(遊離炭素)発生の抑制が製造上の大きな技術的課題でした。

そこで、原子力機構は臭化物法(資料4)と呼ばれる化学蒸着法を用いて、均一なZrC被覆層の蒸着に成功しました。併せて、燃料の品質管理に極めて重要なZrC被覆層の炭素とジルコニウムの測定技術を新規開発したことで100分の1桁の高精度で原子数比を管理でき、準商用規模で高品質(高密度でZrとCの原子数比が1:1)なZrC被覆層を製造することに成功しました。この製造結果に関心を寄せる米国と共同で、中性子の照射試験を2008年11月から実施します。

準商用規模で製造した高性能被覆燃料粒子用被覆材で中性子挙動等の性能試験データを拡充するのは世界で初めてとなります。今後、新型被覆材の製造法開発から性能試験までの研究開発において世界をリードし、超高温ガス炉による原子力水素製造社会の早期実現に努めてまいります。

なお、本成果は、電源開発促進対策特別会計法に基づく文部科学省の委託事業「革新的高温ガス炉燃料・黒鉛に関する技術開発」の一部として実施したものです。

以上

参考部門・拠点:原子力基礎工学研究部門

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