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平成20年11月11日
国立大学法人群馬大学
独立行政法人日本原子力研究開発機構

肺の中にあるアスベストの種類を細胞レベルの元素分布画像から特定
−アスベスト肺の高感度診断に途−

国立大学法人群馬大学(学長 鈴木 守、以下「群馬大学」)と独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄、以下「原子力機構」)は、原子力機構が開発した大気マイクロPIXE分析技術を応用して、外科的な手術を必要としない気管支鏡などで採取できる数mgの肺組織の中のケイ素、マグネシウム、鉄などの元素の二次元分布を、1μmの解像度で画像化する分析法を開発し、アスベストの吸入の有無によって、肺組織中のケイ素、鉄、マグネシウムの量や分布に、明確な違いがあることを初めて明らかにしました。今回開発した分析法は、わずか数mgの肺組織があれば、肺組織中のアスベストの正確な分析を可能にするものです。これは、群馬大学医学部保健学科の土橋邦生教授らならびに原子力機構放射線高度利用施設部ビーム技術開発課の佐藤隆博研究員らのグループによる研究成果です。

アスベストは、肺線維症や肺ガンの原因物質ですが、発病までの潜伏期間が数10年と長いことから、「静かな時限爆弾」とも言われています。このため、吸い込んだアスベストの種類や量、肺の中での分布、組織への取り込まれ方などを特定するための分析が診断や治療に不可欠ですが、これまでは外科的な手術により約5gの肺組織を採取しなければ調べることができませんでした。

そこで、本研究グループでは、肺組織内に存在する様々な元素の分布とその量を調べることができる大気マイクロPIXE技術を応用し、組織内のアスベストの可視化に挑戦しました。アスベストの主成分であるケイ素、マグネシウム、鉄のそれぞれについて、組織内の元素分布を計測・解析することにより、組織内にある数μmのアスベスト繊維の位置や形態を画像化することに成功しました。さらに、各元素の比率から、アスベストの種類を同定できることも分かり、アスベストが原因となる病気の診断がより容易になります。

これと並行して、同じ肺の組織を大気マイクロPIXE法と免疫組織染色法で調べる研究も進めており、アスベストの主成分であるケイ素の分布と、肺線維症の発病に関係すると考えられているFasタンパク質の分布との相関が明らかになりつつあり、病因の解明も期待されます。

本研究は、群馬大学21世紀COEプログラム「加速器テクノロジーによる医学・生物学研究」の一環として、群馬大学と原子力機構との共同研究で実施したものです。なお、10月にInternational journal of immunopathology and pharmacologyに論文掲載された内容を発展させて得られた研究成果が、11月に開催されるCOE国際研究シンポジウム(於群馬大学医学部)において発表される予定です。

以上

参考部門・拠点:高崎量子応用研究所

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