用語説明

アスベスト
石綿(せきめん、いしわた)と呼ばれる天然の鉱物繊維で、断熱性、耐火性、防音性、耐腐食性及び電気絶縁性に優れており、建築用製材や水道管などに多く用いられてきました。アスベストには、主として、クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)などがあり、長さは約8 μm, 幅約0.1 μmで、吸入すると細気管支から肺胞にまで達し、胸膜と呼ばれる肺を覆う薄い膜に影響を与え、気管支に障害を起こします。それは、石綿粉塵が肺などに膠原線維という線維を作る性質(線維形成性)とがんを発生させる性質(発がん性)とを有しているためで、95年、発がん性が高い青石綿、茶石綿の輸入・製造や使用が禁止されました。白石綿も青石綿あるいは茶石綿を1%以上含む製品については04年から製造などが原則禁止になりました。 各アスベストは異なった元素を含有しており、その組成を表1に示します。
表1 アスベストの種類
種類 化学組成 備考
クリソタイル(白石綿) Mg3Si2O5(OH)4 2004年に使用禁止。
クロシドライト(青石綿) Na2Fe32+Fe23+Si8O22(OH)2 1995年から使用も製造も禁止。最も毒性が強い
アモサイト(茶石綿) (Fe-Mg)7Si8O22(OH)2 1995年から使用も製造も禁止。
肺線維症:
肺には呼吸した空気から血液中に酸素を取り込み、かわりに二酸化炭素を空気中に放出するガス交換の働きがあります。この作業は、数億個にも及ぶ肺胞の部分で行っています。肺線維症は、この肺胞に線維組織が増え硬く縮んでしまい、ガス交換ができなくなって呼吸困難に陥る病気で、広い範囲に線維化が起きた場合には命に関わることもあります。肺全体の広範囲にわたる線維化は、大量の埃にさらされる職業の人の病気である塵肺、抗がん剤などの薬物の使用によって起きる薬剤性肺炎、アレルギー性肺炎、肺結核、また、膠原病のような全身の病気などが原因で起きることがわかっています。しかし原因がわからないものも、少なくないのが現状です。
アスベスト小体
アスベスト繊維がフェリチンという物質で覆われたものをいい、肺や胸膜から検出されます。胸膜プラークと同様に、過去のアスベスト暴露の重要な指標です。通常、直径2〜5μmで、金色〜褐色の特徴的形態を示します。
胸膜プラーク
胸壁の内側の胸膜(壁側胸膜)に生じる局所的な肥厚で、肉眼的には表面に光沢のある白色〜象牙色を呈し凹凸を有する平板状の隆起として認められます。通常アスベスト暴露から20 年以上を経て、胸部レントゲンで認められるようになります。胸膜プラークは過去における石綿暴露の重要な指標であり、アスベスト小体とともに肺がんや中皮腫の労災認定の際の重要な医学的所見です。
中皮腫
胸膜・腹膜・心膜・精巣鞘膜より発生する悪性腫瘍です。アスベスト暴露から概ね30〜50年後に発症します。頻度は胸膜原発が最も多く、次いで腹膜、心膜や精巣鞘膜は非常に稀です。アスベストに暴露した人が、原因不明の胸水や、頑固な胸痛、健診時に胸部異常陰影を指摘されたら胸膜中皮腫も考えなければなりません。確定診断には病理組織検査が必須です。中皮腫は、アスベスト肺を起こさない程度の暴露量によっても発症し、通常、発症後数年以内に死亡に至ります。まず、自覚症状(息切れ、咳、胸痛など)または健診などで 胸部異常陰影が発見され医療機関を受診することになります。職業歴(アスベスト暴露歴)の調査とともに、胸部CTなどの画像診断で胸水の量、胸膜腫瘤・肥厚の有無を確認します。胸壁に局所麻酔を行い注射器で胸水を抜き取り、細胞診(がん細胞の有無をみる検査)を行います。細胞診だけでは不十分な場合、胸腔鏡検査で胸膜や肺の一部を切除し病理組織検査を行います。このときに、特殊な免疫染色や電子顕微鏡検査を行う場合もあります。胸腔鏡で肉眼的に胸腔内を観察して胸膜プラークの有無をみたり、切り取った肺の一部を詳しく検査して石綿小体の有無を確認してアスベスト暴露があったのかどうかを確認することが労災認定の際に重要な所見として参考にされる場合があります。
Fasタンパク質
生物の正常な状態は、細胞の増殖、分化、死のバランスの上に成り立っています。細胞の死もこのバランスを保つうえで重要な要素であり、がんはそのバランスが崩れることも要因です。Fasタンパク質は、この細胞死を制御する因子のひとつであり、肺線維症の肺組織に発現が増えることから、肺線維症の発症に重要な役割をもつと指摘されています。

戻る