平成18年10月30日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
 
イオン液体(*)へのタンパク質の抽出に世界で初めて成功
−抽出したタンパク質に新機能(酸化触媒機能)も発現−

 
 九州大学大学院の後藤雅宏教授と日本原子力研究開発機構【理事長 殿塚猷一】の下条晃司郎博士研究員は、いままで困難とされてきたイオン液体1)へのタンパク質(生体分子2)の一種)の溶解に世界で初めて成功しました。タンパク質は、水溶液中から抽出する方法でイオン液体に溶解させましたが、抽出したタンパク質には酸化を促進する機能(酸化触媒能)が発現することも、合わせて発見しました。

 イオン液体は、水や有機溶媒とは物理・化学特性などの特徴がまったく異なり、かつ不揮発性、難燃性なので安全面でも優れていることから、広い分野での利用が期待できる環境調和型の新しい溶媒(グリーン溶媒)として、近年、注目されています。今回の成果は、生体触媒反応3)の媒体としてのイオン液体の利用に道を拓くものであり、今後、イオン液体の特異的な性質を利用して、有害物質を分解するための生体触媒など、生物工学や環境工学への応用が期待されます。

 日本原子力研究開発機構では、環境中に存在する放射性物質等の移行挙動を解明するため、極微量物質を測定可能なレベルにまで分離・濃縮する技術の開発を行っています。その一つとして、平成17年度より、九州大学大学院との共同研究のもと、イオン液体に様々な化合物を溶解し、放射性物質や重金属の分離・濃縮に利用する研究に取り組んでまいりました。その一環の中で、生体化合物であるタンパク質の溶解を試み、今回の成果に至りました。

 具体的には、新規に合成した水酸基4)を有するイオン液体と環状化合物として知られる「クラウンエーテル」5)を組み合わせた新溶媒を開発し、水溶液に含まれる「シトクロムc」6)と呼ばれるタンパク質をクラウンエーテルに結合させることで、シトクロムcのイオン液体への速やかな抽出を可能にしています。さらに、抽出したシトクロムcの立体構造および機能を調べた結果、ヘム7)と呼ばれる活性部位の近傍の立体構造に変化が起こり、新たに酸化反応を触媒する機能が発現していることが確認されました。

 今回の成果は、アメリカ化学会のAnalytical Chemistry誌に11月に掲載予定です。

(*)室温付近で液体として存在する塩の総称


 ・イオン液体へのタンパク質の抽出に世界で初めて成功 −抽出したタンパク質に新機能(酸化触媒機能)も発現−
 ・補足説明
 ・用語説明

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