用語の説明

1.電子スピン
 電子の重要な性質にスピンがある。電子スピンには、アップスピン/ダウンスピンの状態があり、スピントロニクスでは、電子スピンの状態を制御・識別できる材料や素子を研究・開発することでスピントランジスタ等の新しい機能を持ったデバイスを実現することを目指している。物質中でアップ/ダウンスピン電子の数に偏りが生じることをスピン分極という。


2.スピントロニクス分野
 電子の電荷を利用して情報の伝達や処理を行う従来のエレクトロニクスは、デバイスの微細化による機能向上が限界に近づきつつある。これに対するブレークスルーとして、従来のエレクトロニクスでは利用されることの無かった電子のスピンの状態を積極的に活用して新しい機能性の素子や更に高集積なデバイスを実現することが注目されており、そのような新しい分野をスピントロニクス分野と呼ぶ。


3.フラーレン
 1985年に発見された炭素の新しい同素体。代表的なC60は炭素原子60個がサッカーボールの形状に結合した集合体(クラスター)分子で、直径は約0.7nm(1nmは10億分の1m)(図3参照)。C60は、全ての分子が単一の構造を有する半導性分子であること、異なる原子・分子による化学的な修飾が可能なこと、力学的に強固で熱的や化学的にも安定であること、大量生産が実現されていることなどの特徴から、医療からエレクトロニクスに至る多分野への応用が注目されている。


4.磁気抵抗(Magnetoresitance :MR)効果
 材料の電気抵抗が磁場により変化する現象を磁気抵抗効果という。本成果では、無磁場での電気抵抗の最大値に対する磁場印加時の抵抗減少分の比として磁気抵抗を定義した(図4参照)。注意点として、積層薄膜などでは電気抵抗の最小値に対する抵抗増加分の比として磁気抵抗を定義する場合があり、例えば、本成果の定義による磁気抵抗50%は異なる定義では100%の磁気抵抗に換算される。


5.トンネル磁気抵抗(Tunnel Magnetoresistance :TMR)効果
 磁気抵抗効果の中で、絶縁性の領域(絶縁層)で隔てられた強磁性金属/絶縁層/強磁性金属の構造に於ける界面間の電子のトンネルによる電気伝導度が強磁性金属の相対的な磁化方向に依存して変化する現象をトンネル磁気抵抗効果という。ナノグラニュラー薄膜におけるトンネル磁気抵抗効果の概略は図4を参照。


6.磁気ランダムアクセスメモリ(Magnetic Random Access Memory:MRAM)
 スピントロニクスの最初の実用例として研究開発が進められている次世代の不揮発性メモリー。トンネル磁気抵抗効果を利用して情報の記録を行うもので、磁場により強磁性金属の磁化方向を反転させることで書き込みを行い、それに伴って変化する電気抵抗を計ることで読み出しを行う。不揮発性、低消費電力、高速動作などを特長とする。


7.スピントランジスタ
 磁気抵抗効果によるスピン状態に依存した電気伝導特性にトランジスタとしてのスイッチ/増幅機能を組み込んだ素子。二個の電極間(ソース、ドレイン電極と呼ばれる)のスピン状態に依存した電気伝導を第三の電極(ゲート電極と呼ばれる)でスイッチ/増幅を行うもので、メモリー機能を備えたトランジスタなどの実現が期待される。将来の電子デバイスの基幹技術として注目されている。


8.ナノグラニュラー薄膜
 強磁性金属等のナノ粒子が絶縁性の領域(絶縁層)中に分散した状態の薄膜。ナノグラニュラー薄膜ではナノ粒子間が絶縁層で隔てられていることで、ナノ粒子/絶縁層/ナノ粒子の構造に於ける界面間での電子のトンネル効果により電気伝導が生じる(図4参照)。


9.コバルト(Co)
 3d遷移元素に属する鉄族元素のひとつ。結晶状態の単体は銀白色で強磁性を示す。元素記号Co、原子番号27。


10.C60-Co化合物
 原子力機構で発見された新しいC60基化合物。C60分子とCo原子を真空中で同時又は交互に蒸着することで自発的に生成する。組成は、C60Con(n:C60分子当たりのCo原子数)の表記について、n=1-5の範囲で調製できる。X線吸収微細構造や陽電子消滅挙動の解析から、C60分子間をCo原子が架橋した構造(図5参照)を基本構造とする錯体化合物であることが示されている。
以 上

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