原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

031 身体除染用高機能グリーンハウス

掲載日:2023年6月20日

プルトニウム燃料技術開発センター 廃止措置技術開発課
 柴沼 智博

GHは複数の部屋を接続して構成される。接続方法にはテープ貼り付けやマジックテープも検討したが、除染が難しいことからファスナー方式に落ち着いた。開発したGHは気密性能が高く、短い時間で設営できることから、二次汚染も抑制できる。国内外の原子力施設で利用が広がることを期待している。

20分で設置リスク抑制

他施設にも

グリーンハウス(GH)は、原子力施設で放射能汚染の拡大を防止するために仮設される密閉型の囲いのことだ。その設置にはこれまで2時間かかっていたが、日本原子力研究開発機構はわずか20分で設置できるGHを開発した。被ばくリスクの抑制にもつながるため、他の原子力施設にも利用が広がりそうだ。

原子力施設で作業者が汚染された場合やその恐れがある場合にはGHが設置される。そこは周囲に汚染を拡散させずに、その中で作業者の除染や機器の解体を行うことができるエリアとなる。

従来のGHは足場用のパイプをクランプと呼ばれる工具で接続し、これにビニール製のテントをロープで固定していたため、設置に2時間かかっていた。

ワンタッチ展開

このため原子力機構では、簡単に組み立てられる「身体除染用高機能GH」の開発に着手。フレームを軽いアルミニウム製に変え、それを筋違い構造とすることで強度を確保した。また、フレームは個々に組み立てていくのではなく、ワンタッチテントのように、コンパクトに収納された状態から現場で簡単に広がる構造にした。

なおGHでは、段階的に除染や汚染検査を進めていくことになるため、複数の部屋を作ってそれらを接続する必要がある。その接続にはファスナーを用いる方式を採用した。その結果、組み立てに要する人数はこれまでの7人から4人ですみ、設置時間は2時間から20分に短縮できた。これまで必要だった組み立て工具や足場も不要とした。

 なお、これまでのGHはその内部を負圧にし、空気の流れを管理して汚染拡散を防止する仕組みを導入していなかった。このため新しいGHでは、局所排気装置と空気中放射能濃度を計測するダストモニターの設置を標準化した。

これにより、GH内の空気の流れを管理し、放射能濃度を監視しながら、作業者を安全かつ迅速に退避させることが可能となった。

多人数にも対応

さらにGH内に入る作業者が多人数の場合、退避経路を複数確保するレイアウトもできるようにした。新しいGHは設置時間を大幅に短縮できるため、除染作業などに迅速に着手することができ、内部被ばくリスクを抑制できる。大規模な身体汚染事故にも対応可能だ。このGHは、原子力施設の緊急時の安全対策強化に大きく貢献すると考えられる。