原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

022 放射線測定器のJIS 登録試験所

掲載日:2023年4月18日

原子力科学研究所 放射線計測技術課
マネージャー 吉富 寛

放射線標準施設の維持管理と線量測定評価技術の開発に従事。JIS登録試験所では、試験環境や手順の整備を進めるとともに、技術精度の維持管理に努めている。 放射線標準施設棟の設立来40年にわたり蓄積された放射線計測技術をもとに、放射線測定の信頼性を高めることで社会に還元していきたい。

国内初、測定の信頼性向上

量を正確に把握

日本原子力研究開発機構は、放射線測定器の性能を日本産業規格(JIS)に沿って試験できる施設を国内で初めて作った。これにより放射線測定器の信頼性が大きく前進することが期待できる。放射線はさまざまな用途に使われるほか、場合によっては環境や人体に影響を与える可能性がある。そのためには放射線の量を正確に把握することが必要だ。

その放射線は種類やエネルギーの大きさによってもふるまいが変わるため、放射線測定器は、それに応じて使い分ける必要がある。なお国内にはJIS法に基づいて放射線測定器の性能を調べる試験所がなく、これまではメーカーが独自に性能試験を行っていた。

原子力機構の放射線標準施設棟(FRS)には、X線やγ線や中性子などのさまざまな種類の放射線を幅広い放射線エネルギー範囲で試験できる世界でも最大規模の設備がある。

このため原子力機構ではこの設備を使って、放射線測定器の性能に関する四つのJIS規格に準拠したエネルギー特性試験の実施方法を確立。日本初の放射線測定器のJIS試験が可能な試験所として登録され、2022年6月から運用を始めた。

これによりFRSで試験を行った測定器については、公的にその性能を証明することが可能となった。

正しい値で実験

国内で現在、放射線を利用している事業所は8000カ所近くあり、取り扱われる放射線の種類や用途はさまざまだ。これらの事業所で放射線を安全に取り扱うためには放射線の線量を正確に測るための放射線測定器が正しい値を示すかどうかの校正が必要となる。

さらに近年は、放射線利用の拡大に伴って、使用される放射線のエネルギーが多岐にわたり始めた。このため、さまざまな測定条件に対応できる次世代放射線測定器の開発ニーズが高まっており、開発の過程でその性能を明らかにする必要が求められていた。

ニーズ対応

原子力機構のJIS 登録試験所はこうしたニーズに対し、十分に応えることができる。とりわけ福島の廃炉作業などで放射線測定に携わるユーザーにとって、その信頼性を客観的に示すことができることは、測定結果に応じた適切な判断や放射線施設の安全確保を可能にすることで、安全・安心な社会の実現につながることが期待される。