原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

020 高放射線耐性LED照明

掲載日:2023年4月4日

環境技術開発センター 再処理技術開発試験部
技術副主幹 船越 智雅

放射性物質を取り扱う施設の維持管理を行ってきた。これまでに培ってきた知識や経験を活かし、原子力施設を安全かつ効率的に維持管理するための技術開発、また、放射性廃棄物を安全に処理するための技術開発など、原子力を安心安全に利用していけるように取り組んでいる。

長寿命・省電力を実現

廃棄物減らす

高い放射線にさらされる環境で使われる照明機器は劣化が早く、寿命が短い。このため日本原子力研究開発機構では四国計測工業(香川県多度津町)と協力して、機器の有機材料を無機材料に変えることや形状に工夫を加えることで、耐放射線性に優れた高性能のLEDランプを開発した。

単価は高くなるが消費電力が小さく寿命が長くなるため、廃棄物発生量が低減される利点があり、十分な費用対効果が見込める。同様の施設での利用が広がりそうだ。

原子力機構の再処理工場の一部の区域で使われる機器は、高い放射線と硝酸ミストにさらされている。そこでの照明にはこれまで、白熱電球より寿命が長く発光効率がよい水銀ランプが採用されていた。

しかし、水銀に関する水俣条約により、2021年から水銀ランプの製造や輸出入が禁止となったため、それに代わる照明器具が必要となっていた。

完全密閉構造

長寿命で消費電力が低いLEDランプを代替品として検討したが、市販品では放射線や硝酸などの薬品への耐性が低く、輝度も低かった。

このため新たなLEDランプの開発に着手した。照明光源部の反射膜を有機材料から無機材料へ変更して耐放射線性を向上させ、薬品のミストから光源を保護するために完全密閉構造とすることで、それに耐えるようにした。 

また、効率的に放熱できる形状のヒートシンクを取付けることで、水銀ランプと同等の光量とすることを実現。さらに従来の水銀ランプとほぼ同じ形状とし、設備がたやすく流用できるようにすることで、設備改造の負荷や交換時に発生する放射性廃棄物を低減した。

開発した高性能LEDランプは、従来の水銀ランプに比べて寿命が約3倍に向上。消費電力は5分の1、発熱量は4分の1まで減少するため、熱による設備の損耗も少なくてもすむ。

費用対効果高く

ランプ自体の単価は高くなったが、導入のための設備対応が少なく、交換頻度や消費電力が抑えられることでランニングコストが下がり、十分な費用対効果が見込める。

このランプは高い放射線や薬品に対する耐性をもつことから、国内外の原子力施設はもちろんのこと、宇宙開発や多量の化学薬品を利用する施設、あるいは高い防塵性能を必要とする環境など産業界へ広く展開されることが期待できる。