原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

014 3Dで高精度分布評価

掲載日:2023年2月21日

安全研究センター 廃棄物・環境安全研究グループ
研究員 高井 静霞

放射性廃棄物処分や廃止措置の安全評価に関する研究を行ってきた。専門分野は空間統計学・地下水流動解析。地下汚染分布評価の研究を進めることで、廃炉への貢献とともに、地層処分などのサイトの安全評価につなげることが狙いだ。モデル(物理現象)とデータの不確かさの両者を組み合わせることで、信頼性の高い評価の実現を目指したい。

地下水の汚染

流れを考慮

貴重な水資源である地下水の汚染は、深刻な環境問題の一つである。放射性物質や化学物質による汚染が生じた場合、住民への影響を調べ、効率的に対応するためには、汚染の広がりの把握が必須だ。汚染の発生時期や放出量が明らかなら、大まかな汚染分布は計算で求める事ができる。しかし多くの場合、こうした情報が事前に分からない。そのような時はどうすればよいのか。

その解決方法の一つが、地下水の流れを考慮した統計学的な汚染の分布評価を使うものだ。地下水の流れが一定なら、汚染濃度と放出履歴は線形関係にある。そこから統計的に汚染の広がりを予測できる。この方法を使えば、放出履歴が不明な事故時にも、限られた汚染濃度の測定データから汚染分布を3次元で評価できる可能性がある。しかし従来の手法では精度に問題があり、非現実的な値を推定することや、実際の汚染事例での3次元的な検証例がないなどの問題があった。

負の値防ぐ

日本原子力研究開発機構は京都大学工学研究科小池研究室と共同で、この問題を解決する新たな評価手法を開発した。推定値が非現実的な値(負の値)となることを防ぐため、従来の手法にベイズ推定に基づくギブスサンプリングという手法を導入した。これにより、統計的な厳密性を担保しつつ効率的に非現実的な推定値を避けられる改良を加えた。

この手法を、カナダの廃棄物処分場での化学物質による汚染事例に適用した。3次元の汚染分布評価の検証には場所や深さが異なる多くの箇所の汚染濃度のデータが必要で、この事例はこうしたデータが公開されている数少ない例の一つである。

評価の結果、土壌への吸着のしやすさが異なる複数の化学物質の3次元汚染分布を高い精度で再現することに成功した。また、汚染の発生時期についても、実際の大規模投棄に対応したピークを推定できた。これらの結果は、実際の地下水汚染に対して本手法が有効であることを示している。

廃炉に活用

現在は、さらに精度を向上させるため、地盤の透水性の不均質さなども考慮に入れた汚染分布評価手法を開発している。地下の水理地質構造と汚染の広がりの両者を精度良く把握できれば、化学物質による地下水汚染に加え、福島第一原子力発電所の廃炉にも活用できる。この手法の実用化を通じて、環境修復への貢献につなげたい。