原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

005 事故耐性燃料(ATF)

掲載日:2022年12月13日

原子力基礎工学研究センター 燃料・材料工学ディビジョン
研究主幹 山下 真一郎

北海道大学大学院物質工学専攻博士課程修了。博士(工学)。専門は原子力工学、材料科学。2015年より、経済産業省資源エネルギー庁のATF開発委託事業の取りまとめ役。現在は同事業の総括代表者として、海外試験炉におけるATF照射試験のための交渉やATF基礎基盤研究を進めるための技術開発に取り組んできている。

発熱・水素抑え安全性向上

事故後注目

福島第一原発(1F)事故では核燃料が高温で溶け落ちて過酷事故へと進展し、水素が発生して爆発を引き起こした。このため、過酷な条件に耐えるものとして開発が進められているのが、事故耐性燃料(ATF)である。事故時の燃料被覆管酸化による発熱と、水素発生を抑制できれば、事故の進展を遅らせることができ、安全性が大きく向上する。

このATFの開発は以前から進められていたが、1F事故後には世界的に注目を集め始めた。

その開発にいち早く取り組んできたのが、米国である。すでに商用炉での健全性確認が行われており、数年後には実用化する見通しだ。

欧州連合(EU)では、脱炭素とグリーンな投資を促すEUタクソノミーの適用が開始。原子力発電はそのタクソノミーでグリーンとしての認定条件にATFの採用が加わり、フランスでは実用化に向けた動きが急速に進みつつある。

日本では経済産業省の支援を受けて、電力会社やメーカーが3種類のATF開発を進めている。

いずれも燃料の被覆管に焦点をあて、ジルコニウムのコーティングに工夫を加えるものや、新材料で代替する方法が提案されている。

健全性確認

日本原子力研究開発機構は燃料や材料の照射試験技術と開発の研究実績をもつことから、国内におけるそれらATF開発のとりまとめ役を担っている。

ATFが実用化されるカギの一つとなるのが、その健全性確認だ。ATFは炉内で高温高圧にさらされるため、そこでの工学的な安全性を実証する必要がある。

このため原子力機構は国内外の機関と連携し、国外の照射炉、国内の加速器・研究炉を駆使してその環境を模擬。その腐食劣化を実験的に把握するという、世界でも有数の技術開発を進めている。また、事故時にはATF被覆管が高温で酸化され、その機能が喪失する条件を実験で評価している。

開発後押し

原子力機構を中心とした基礎基盤研究は、照射による健全性評価や事故時挙動に係る知見を提供することでメーカーの開発を後押ししている。

さらに今後は関連規制の確立が必要となり、それを技術的に支援することで、ATFの早期実用化に貢献することが期待されている。

これまでの技術的成果を共有し、ステークホルダーによる連携を構築するため、21日に公開でワークショップを開催する。