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第11回 原子力機構報告会
「我が国の将来を担う原子力技術と人材」

核不拡散・核セキュリティに資する取組と人材育成 -原子力の平和的利用の促進に向けて- (テキスト版)

核不拡散・核セキュリティに資する取組と人材育成
-原子力の平和的利用の促進に向けて-
核不拡散・核セキュリティ総合支援センター長 持地敏郎

御紹介ありがとうございます。

核不拡散・核セキュリティ総合支援センターの持地でございます。

〔パワーポイント映写。以下、場面がかわるごとにP)と表示〕

P) 本日は、ここにございます「核不拡散・核セキュリティに資する取組と人材育成」ということで御説明させていただくわけですけれども―

P) この機構報告会ではこういった核不拡散関連は今回が初めてですので、冒頭、核不拡散・核セキュリティというのはどういったものか、それから今の国際情勢はどうなっているのかを、ほんの簡単にですが、御説明させていただきたいと思います。

P) まず核不拡散とはということでございますけれども、非常に簡単に申し上げれば、現状の核兵器国、米・英・仏・ロシア・中国、そういった5カ国をそれ以上ふやさないということだと思います。このことを国際的に約束しておりますのが、ここに示したように、NPT条約というものでございます。核不拡散を担保する制度といたしましては、左側に書いてございますが、保障措置、これは平和利用の核物質が軍事利用されていないということを検認する制度。そのほか輸出管理等々がございます。

次に核セキュリティですけれども、核物質や放射性物質が盗まれたり、不正取引されたり、あるいは、ダーティボムと呼んでございますけれども、放射性物質がまき散らされないようにさまざまな手段を用いて防護することでございます。また、そういった脅威が起こった場合の対応も含まれてございます。

P) 次に簡単に国際情勢ですけれども、これも大ざっぱに言いますと、ここに示しましたように、90年代のときのイラク、北朝鮮といったところにおける秘密裏の核開発行為が発覚したことにより、保障措置制度の強化がなされました。すなわち、未申告の核物質及び活動がないことを確認するといった追加議定書が採択されたものでございます。そして、従来の保障措置制度とこの追加議定書をうまく組み合わせまして、統合保障措置というものが生まれました。日本も2004年以来この統合保障措置制度が適用されております。また、CTBT、包括的核実験禁止条約、これはまだ発効しておりませんが、国際検証体制がほぼ確立されてきてございまして、核実験の抑止へとつながってございます。

その一方で、NPT体制の外では、ここに示したように実質上の核兵器国が存在していることも事実でございます。こうした状況下において、国際的に大きな問題ということでは、イランの核問題や北朝鮮の核やミサイルの開発といったことが挙げられるわけでございますが、イランの場合につきましては昨年7月に包括的共同作業計画が合意されるという進展が見られておりますので、その履行をしっかり確認していく必要があると考えられます。

下側に示しました核セキュリティでございますけれども、2001年の米国同時多発テロをきっかけに核セキュリティ意識が非常に高まってきました。オバマ大統領のプラハ演説もありました。2010年からことしにかけては、高濃縮ウランの撤去や人材育成センターの設立など、さまざまな観点からの強化策を議論しました計4回の核セキュリティサミットもございました。それから、IAEAからの勧告文書、これは非常に重要な文書でありまして、INFCIRC/225/Rev.5と呼んでおりますけれども、この勧告を日本でも取り入れてきてございます。さらには、福島第一発電所事故で、あのような事故はテロ行為によっても起こり得る可能性があるという指摘がなされておりまして、核物質防護の強化へとつながってまいりました。

P) ここからは機構の活動に移らせていただきまして、2枚にわたりまして概要を御説明いたします。

1つ目は機構みずからの核物質の管理ということで、すなわち核物質防護と保障措置対応ということでございます。

この図の右上に示しておりますが、対象となる機構の拠点は赤字で示した拠点で、小さくて恐縮ですが、非常に多くの地区にまたがっております。

核物質の防護に関する取り組みというのが左側の上にありますが、基本方針の策定や核セキュリティ文化醸成の活動、国の防護検査対応など、ここに示したとおりでございます。また、規則改正や国の検査結果などを通じて防護措置の評価・改善を図るなど、国際的に遜色のない防護対策となっております。

保障措置の対応につきましては、保有核物質の計量管理、IAEAや国の保障措置対応が主な業務となってございます。最近の日本のIAEAの保証措置関連業務は世界の約1~2割を占めているわけで、そのうち機構は日本における3ないし4割を占めてございます。日本の保障措置対応は、先ほど述べましたように、2004年から統合保障措置が継続しているわけですけれども、これは、IAEAに申告した核物質の軍事転用がないということと、さらに未申告の核物質、活動がないということが証明されて、継続されているわけでして、こういったことが今後も継続されるよう、機構としては厳格な計量管理、保障措置対応をやっていかなければならないと認識しているわけでございます。

こうしたPPやSGの業務を的確・確実に行うために、本部の安全・核セキュリティ統括部が基本計画を策定するとともに、拠点での実作業を指導・支援していく。さらに、そうした本部と拠点の活動を、情報の提供や教育・人材育成の観点から核不拡散・核セキュリティ総合支援センターがサポートしているということで、関係3部門の協力・連携が確立されているということでございます。

P) 活動概要の2つ目といたしましては、国内外への貢献という観点から御説明申し上げます。

核不拡散・核セキュリティを支えるものとして、黄色の部分の核不拡散・核セキュリティ技術、CTBT検証体制への貢献といった技術開発の部分、それから赤の部分の政策研究、そしてこれらを共通基盤的に支援するものとして能力構築支援、理解増進といった緑の部分があるわけですけれども、この内容につきましてはこの後個別の説明を用意しておりますので、きょうは時間が押しているということで、省略させていただきます。

P) ここからが個別の活動紹介になります。

まず技術開発でございますけれども、左上に示したものが福島第一発電所の燃料デブリの計量管理に貢献可能な核物質の定量技術開発でございます。この手法は、プルトニウムやウランからのガンマ線はエネルギーが弱いために直接測定するのは難しいということから、過酷事故におきましてもこれら核物質と随伴するFPからのガンマ線を測定します。この結果とあらかじめ求めておりました核物質量との相関式から核物質量を定量するというものでございます。

右上は核鑑識技術でございます。この技術は、捜査当局によって押収された核物質の出どころや履歴等を分析・解析するのに使われるものです。必要な分析技術といたしましては、同位体比の測定、不純物組成、粒子の形状、精製年代といったものでございます。それとあわせまして、この分析結果と照合するということで、核鑑識のライブラリの整備といったものも必要となってございます。

3つ目は、下側に書いてございます核検知・測定技術開発です。これは容器の中に隠された核物質あるいは使用済燃料などの高い放射線を発する核物質を非破壊で測定する技術でございますけれども、これも時間の関係上説明は省略させていただきます。

P) 次はCTBT国際検証体制への貢献でございます。先ほど申し上げましたように、包括的核実験禁止条約はまだ発効しておりませんが、地震波、放射性核種、水中音波、微気圧振動という4つの測定手段による世界のモニタリング設備がほぼ完成してきております。機構はその中で、放射性核種に関しまして、高崎、沖縄の2つの観測所と東海公認実験施設及び国内データセンターを運用してございます。

それから、右側に示したグラフ、これは説明させていただきますが、北朝鮮が実施したと言っている2013年2月の第3回の核実験とことし1月の第4回の核実験に対する高崎観測所の測定結果でございます。

まず左側の第3回でございますけれども、核実験を実施したと言われる日から55日後にキセノン133とキセノン131mが検出されております。両者の比率から判断しますと、核分裂した日が核実験を実施した日に極めて近くなっております。また、キセノン133の放出源推定解析でも、その放出源は北朝鮮の震源地、すなわち核実験場としても矛盾がない結果が得られております。これら2つの点から、核実験55日後に測定されたキセノンは核実験由来のものと判断いたしました。

一方、右側の1月の第4回の核実験のときには、核実験を実施したと言われる日から40日後にキセノン133を検出しました。ところが、キセノン131mはこの図にありますように検出されてございません。キセノン133の放出源は、推定解析では核実験場から流れてきたものということの矛盾はありませんでした。しかし、今申し上げましたように131mが検出されておりませんので、133との同位体比を特定することができない。それで、133がいつごろ生成されたものかは結局特定することができませんでした。しかし、核分裂から40日後の131mと133比は計算上は0.1以下になりますので、仮に131mが高崎に到達していたとしても検出限界以下となってしまうということも事実でございます。したがって、今回131mが検出されていないということは理論的には不思議ではなく、核実験由来のものであることを否定することにはならないと考えております。

P) 次に核不拡散政策研究でございますけれども、これは、将来的に課題となるであろうと思われるテーマを取り上げまして、2年あるいは3年かけて研究するものでございます。これまで5つのテーマを実施してきておりますけれども、現在取り組んでおりますのは、ここに書いてございます核不拡散・核セキュリティ、いわゆる2Sの推進方策としての2Sの相乗効果などについて、実際の核燃料サイクル施設の適用性評価などを実施しております。そのほか、核不拡散動向の調査・分析等を行いまして、情報発信をしているところでございます。

P) 活動の紹介としてはこれが最後ですけれども、2010年の第1回核セキュリティサミットで政府が表明したアジア諸国等への人材育成支援の取り組みでございます。

トレーニングは、ここにございますように、核セキュリティ、保障措置、計量管理など、3つのコースを提供しております。核セキュリティコースでは、開始当初は機構としても非常に経験が浅かったということもありまして、米国からの講師に依存することが多かったのですが、最近はほとんど自前の講師で対応できるようになってございます。

これまでの実績につきましては、右上に書いてございますように、開始後5年半で109のコースに約3,000名が参加してきております。

この写真はトレーニングの風景でございますけれども、核セキュリティのトレーニングといいますのは、情報管理の観点から実際の機構の核物質防護施設でトレーニングするわけにはなかなかいかないということもございまして、ここにありますバーチャルリアリティシステムやPPフィールドの実習といったことをやることによって現場での臨場感を経験できるということで、非常に有益なものとなってございます。

こうした我々の活動に対する評価につきましては、右下に示されておりますけれども、米国からの評価は極めて高いものをいただいておりまして、ことしの核セキュリティサミットにおける両首脳の日米共同声明の中で、「米国は、核不拡散・核セキュリティ総合支援センター―これはISCNですけれども―の他国、特にアジア諸国の人材の能力構築における不可欠な役割を特に賞賛する」といった評価をいただきました。そのほかのIAEAや支援対象国からも、ここに示したような評価を毎年いただいてきてございます。

P) それでは、我々自身の人材育成についてですけれども、今まで御説明してきた活動を円滑・継続的に進めていくということでは、人材の育成・確保は極めて重要なことでございます。

まずどういう人材を育てていきたいのか、すなわち求められる人材を上段に示してございます。簡単に言えば、技術開発能力、現場経験を踏まえた専門性、核不拡散対応の歴史に精通、国際動向の分析・評価のみならず、計画立案能力、そして国際的な場での議論ができるといったことが挙げられております。

そして、今我々が実際に取り組んでいることを下段に示しました。機構内の関係部門との連携による技術開発、国内外研究者との交流、IAEAやCTBTOなどの国内外の関係機関への専門家の派遣、欧米との共同研究、そして国際フォーラム等への参加を通じた国際的な議論の把握といったことを実際にやっているわけですけれども、この国際フォーラムにつきましては、本日皆さんにチラシを配布しておりますので、29日に予定しておりますが、御参加のほどよろしくお願いしたいと思います。

P) この図は、各年代ごとに育てるべき人材と、どういうキャリアを積ませるかといったイメージでございます。上に各年代の育てるべき人材、この黄色ですけれども、下にキャリアを示してございます。

例えば30代で申し上げますと、機構の中にあっては、SGやPP関連の係長クラス、技術開発であれば中堅クラス、IAEA等に勤務するとなれSG局や安全・セキュリティ局といったところのP3クラスといった考え方でございます。

それから、仕上げの50代になりますと、ポストとしてはPP管理者、部次長級あるいは主任クラス、海外勤務でいえば、IAEAであれば課長級、部長級といったところを目指すべきと考えております。

しかし、ここで注意すべきは、海外派遣、特にIAEAの場合、近年、職員採用が非常に厳しくなってきているということでございまして、日本には機構にとってP5あるいはD1ポストにつくことが非常に重要ではありますが、このようなハイポストに採用されるためには、関係機関からの支援はもちろん、計画的に若いときに一度経験しておくというようなことが非常に重要と考えております。

P) この図はスキップさせていただきまして―

P) 最後の結びのところに参りますけれども、核不拡散・核セキュリティの取り組みに向けた人材育成の課題について考えてみました。

まずは機構全体に、あるいは原子力界全体と言ってもいいのかもわかりませんけれども、高齢化で技術・知見の円滑な継承が非常に難しくなっているわけです。

そして、我々の分野の特徴といたしましては、先ほどお示ししたキャリアパスを計画的に実施することが非常に難しくなってきております。

この要因を考えてみましたところ、余りいい言葉ではないのですが、1つは負の連鎖ということではないかと思われました。その概念をこの図に示しているわけですけれども、どこがスタート地点かは迷うところですが、仮に左上のこの分野の大学教育が不足というところから始めますと、それによって専門家の不足が生じ、それが核不拡散・核セキュリティの対応が政策面も含めて不十分ということにつながってくる、そうなると機構内外のこういった分野に対する認識もますます薄れてくるのではないか、その結果、機構も含め職場からの人員要求の減少につながってくる、そういった連鎖が起きつつあるのではないかと思われます。こうした連鎖を解消して人材育成を円滑に進めていくためには一定規模の要員が必要であるということと、大学でのプログラムの拡充、機構内外との人事交流の促進、核セキュリティ文化醸成などに向けて関係機関間の連携・協力が不可欠でございます。

最後になりますけれども、我々は、こうした連携・協力をベースに、日本あるいは機構の原子力平和利用を支えていくために、国内外の核不拡散・核セキュリティ政策の実現にこれからも努力してまいりたいと思います。

御清聴ありがとうございました。